―突入前夜・バージルと―
ギラス平原へ突入する前の日の夜。
男子寮で一人、バージルある人物と通信していた。
「……やっと、だ」
「……そうだね」
声の主は、北にいるフォリア。
バージルが非常に気になっている女性だ。
彼女とは離れているため、話す機会が滅多にない。自分も出ずっぱりで王都にいない。
だが、今はここにいる。ここにいれる間は、繋がれる。
「同期として、誇らしいよ」
「あぁ。そうだろ?」
「ふふ」
フォリアは微笑みながら、試験のことを思い出していた。
試験で見せたバージルの力。
確かに光るものを感じたが、まさかここまで大きくなるとは思っていなかった。
時間経過的にはそこまで経っていない。
それなのに、長い時間を過ごしていた気分だ。
「……当日は、仕事か?」
「うん……でも、いなくても分かんないレベルのグループさ」
「町を守るんだろ?仕事に上も下もない」
「はは……そうだね」
フォリアは無理矢理笑って見せる。
そう。
仕事に上も下もない。
頭では分かっている。しかし、彼女の中では気持ちの整理がつかなかった。
だから、フォリアは考えた。そして、行動に移していた。
「なぁ、明日からの戦いが終わったら、話せるか?」
「もちろんだよ」
「よし、なら、また都合つけてくれよな」
「任せなよ。明日に響くだろ?……切るよ」
小声の、切るよ。
フォリアは唇を噛む。
(……………)
まだ、切りたくない。
切れば、一人になってしまう気がする。
だけど、切らなければ。彼は最前線で戦うのだから。
自分の欲望をぐっと堪え、先ほどの言葉を絞り出した。
「あぁ。お休み」
「うん、お休み」
通信が切れ、部屋に静寂が訪れる。
電気を付けず、蠟燭の炎を灯として使っている。
その揺らぎを眺めながら、フォリアはゆっくり目を閉じる。
(……計画通り)
龍力レベルが低い団員は町の防衛任務となる。
良くも悪くも町に団員が普段以上に集まる。
したがって、新人が長時間抜けても誰も気付かない。
定期的な点呼も同僚に頼み込み、口裏を合わせてもらえるよう動いた。最初だけ顔を出しておくか。
下準備の結果、当日、自分は町にいなくても上にバレることはない。
もちろん、自分の龍力の研鑽も忘れていない。
バージルたちはドラゴン・ソウルの上を行っていた。そして、敵はその更に上を行く、と聞いている。
すなわち、ドラゴン・ソウルの上の上の領域が存在することになる。
(それだけで済めばいいけど)
人間風情がどこまでドラゴンの力を扱えるのかは不明だが、ステージとして最低でも3段階以上あることは確かだ。
だから、フォリアはこれらの下準備を入念に行っていたのだ。
準備が整った後は、ひたすら特訓だ。彼らの足を引っ張るのでは意味がない。
だから、徹底的に自分を鍛えた。そして、見違えるほど強くなったと思っている。
事実、あの時バージルが見せてくれた力に等しいレベルまで到達した。
(驚くだろうな……ふふ)
フォリアは蠟燭の火を消し、ベッドに横たわるのだった。