―突入前夜・マリナとミーネ―
ギラス平原へ突入する前の日の夜。
マリナとミーネは騎士団の女子寮で最後の確認を行っていた。
主題は龍力のことだ。そして、話は今後のことにシフトしていく。
「……龍力の構成にもだいぶ慣れてきたわ」
「うん。後は、戦いに追いつけるスピードでの調整ね」
アルカリオンの件以降、彼女たちは人一倍努力をしてきた。
レイラやリゼルと比較して龍魂の扱いに慣れていないことや、戦闘経験も浅いことから、スムーズかつ繊細な龍力操作を強く意識するようになった。
遅れを少しでもカバーできれば、という一心だ。
「当日はもっとスピードが要求されるわ」
「うん。けど、これ以上はオーバーな気がするわ」
「そうね。止めにしましょ」
前日に重たい特訓はしない。
ただ、どんな状況でも先日の感覚を忘れないように再現できるよう、意識しておくことは重要である。
穏やかに、自然な形で龍力を落としていく二人。
「……でも、良かった」
マリナが安堵した表情を浮かべる。
「ん?」
「わたしもミーネも、最後までレイラたちの応援ができそうで」
「あ……」
ミーネは気付き、視線を落とす。
忘れていない。自分が、自分たちがここまで努力を続けてこられたのは、レイラたちへの恩返しだ。
レイラたちに救われ、助け合いながらここまできた。
多分、レイラたちが中心となって行う大きな戦いはこれで最後になる。
未来永劫とは言い切れないが、レイが倒されれば、しばらくは安全だ。
隠れた強者たちは存在することは把握しているが、『敵戦力』と決まったわけではない。
「……この戦いが終わったら……どうする?」
ふと、ミーネが寂しそうな顔をし、そう呟いた。
「え……?」
「あたしは……あんまし考えてないかも……でも……」
「でも?」
「ずっと騎士団にいるのは違う気がする。レイラも、リゼルたちだって、それは望んでない気がする」
「…………」
当初の目標であった『龍魂のコントロール』は完璧だ。
ドラゴン・ソウルだけでなく、フル・ドラゴン・ソウル、完全なる龍魂とステージを進めている。
よって、ミーネたちはいつでも騎士団を離れることができる。
なりゆきでレイ討伐隊に属しているが、その後も騎士団にいる必要はない。
「当然、やりたいから騎士団に残るのは賛成すると思う。けど、マリナも『違う』んでしょ?」
「う……」
「だから、聞いたんだけど」
「…………」
コク、と彼女は小さく頷く。
レイラのことは大好きだし、このチームに不満は一切ない。
しかし、今の仕事をずっと続けるかと問われれば、返答に困るのは事実だ。
「戦いが終わってすぐ……じゃないとは思うわ。けど、いずれは故郷に帰る……と思う」
「マリナ……」
「曖昧よね……けど、これが今のわたしに出せる最大限の返答みたい」
「うん、アリガト」
ミーネは一度大きく伸びをする。
「……あたしも、保留にしよ」
「あ、でも、この戦いが終わったら……」
ボソ、と呟くマリナ。
伝えないと。
彼に、この気持ちを。