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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
552/689

―応援している―

浮遊島。空中都市リムークス。


そこへ向かうのは、騎士団の最高戦力のレイラチームと、四聖龍だ。

騎士団は市町村に散らばり、防衛線を張る。

騎士団基地がない町村にも配置する必要があるため、人員がかなりそちらに持っていかれる。

それに、実力面から言っても島には行かない方が良いと考えられた。


『フル・ドラゴン・ソウル』の発見からかなりの時間が経過しているが、取得率は低い。

有給取得率よりも低く、戦力として数えることはできない。


団長には伝えていないが、フル・ドラゴン・ソウルでは太刀打ちできない領域である。

完全なる龍魂が扱えて、初めて同格となるのだ。


「君たちが頼りだ。王を、国を、頼む」


団長クラッツが頭を下げる。それから時間が経過しても、その姿がしっかりと脳裏に焼き付いている。

それだけ、最後の会議は印象的だった。


仲間はそれぞれ自分の時間を過ごしている。

レイズはスレイが目を覚ましたとの連絡を受け、病院にやってきていた。



「スレイ!!」


病室の扉を乱暴に開ける。


「……よぉ」


大幅に痩せた兄がベッドに座り、ぎこちない笑顔を浮かべていた。

手や顔、服の隙間から見える腕。全てが衰えている様子だった。


「心配したぞ……クソ兄貴」

「……すまない」

「どうなんだ?調子は……」

「あぁ。だいぶ力が抜けてるが、悪くはない」


しかし、スレイは悲しそうに窓の外を見る。


「おい……?」

「龍力は、忘れちまったみたいだ」


龍魂に魅せられ、固執し、全てを失いかけた兄。

ここまで来ても、気がかりなのは龍力なのか。


レイズは堪え、口を開く。


「……いいじゃねぇか。生きてるんだし」

「……聞いたよ」

「?」

「『行く』んだろ?」

「ッ!」


誰から?と頭をよぎるが、情報は国中に出回っている。

浮遊島に行く団員一人一人公開はしないが、内情を知っているスレイには想像がついているのだろう。


「俺も戦いたかったよ。お前の力になりたかった」

「…………」


言葉が出てこないレイズ。

励ますのも違うし、ここで見てろ、と言うのも違う気がする。

ここは、沈黙が正解。


「……応援してるぞ。レイズ」

「!」

「俺は今は戦えないけど……応援はできる」

「あぁ」


レイズは拳を突き出す。


「…………」


スレイは一瞬戸惑うが、ほとんど骨と皮になった拳を懸命に突き出す。


「任せろ。兄貴」

「任せた。レイズ」


兄弟は拳をぶつけ合った。

久しぶりに触れた兄は、柔らかくなく、骨の感触のそれだった。

レイズはそこで気合が入りなおる。


強く、本当に強く拳を握り、病室を後にするのだった。




レイズが部屋を出ていき、数十秒。スレイは黙ってその扉を見つめていた。


「………………」


そして、ゆっくりと俯きポツリと呟いた。


「………ごめんな」


掛け布団の下から、積まれた炎龍の教本が顔を見せる。

まだ折り目もついていないそれは、スレイに手に取られ、ズタボロに読み込まれるのを待っているのだった。

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