―応援している―
浮遊島。空中都市リムークス。
そこへ向かうのは、騎士団の最高戦力のレイラチームと、四聖龍だ。
騎士団は市町村に散らばり、防衛線を張る。
騎士団基地がない町村にも配置する必要があるため、人員がかなりそちらに持っていかれる。
それに、実力面から言っても島には行かない方が良いと考えられた。
『フル・ドラゴン・ソウル』の発見からかなりの時間が経過しているが、取得率は低い。
有給取得率よりも低く、戦力として数えることはできない。
団長には伝えていないが、フル・ドラゴン・ソウルでは太刀打ちできない領域である。
完全なる龍魂が扱えて、初めて同格となるのだ。
「君たちが頼りだ。王を、国を、頼む」
団長クラッツが頭を下げる。それから時間が経過しても、その姿がしっかりと脳裏に焼き付いている。
それだけ、最後の会議は印象的だった。
仲間はそれぞれ自分の時間を過ごしている。
レイズはスレイが目を覚ましたとの連絡を受け、病院にやってきていた。
「スレイ!!」
病室の扉を乱暴に開ける。
「……よぉ」
大幅に痩せた兄がベッドに座り、ぎこちない笑顔を浮かべていた。
手や顔、服の隙間から見える腕。全てが衰えている様子だった。
「心配したぞ……クソ兄貴」
「……すまない」
「どうなんだ?調子は……」
「あぁ。だいぶ力が抜けてるが、悪くはない」
しかし、スレイは悲しそうに窓の外を見る。
「おい……?」
「龍力は、忘れちまったみたいだ」
龍魂に魅せられ、固執し、全てを失いかけた兄。
ここまで来ても、気がかりなのは龍力なのか。
レイズは堪え、口を開く。
「……いいじゃねぇか。生きてるんだし」
「……聞いたよ」
「?」
「『行く』んだろ?」
「ッ!」
誰から?と頭をよぎるが、情報は国中に出回っている。
浮遊島に行く団員一人一人公開はしないが、内情を知っているスレイには想像がついているのだろう。
「俺も戦いたかったよ。お前の力になりたかった」
「…………」
言葉が出てこないレイズ。
励ますのも違うし、ここで見てろ、と言うのも違う気がする。
ここは、沈黙が正解。
「……応援してるぞ。レイズ」
「!」
「俺は今は戦えないけど……応援はできる」
「あぁ」
レイズは拳を突き出す。
「…………」
スレイは一瞬戸惑うが、ほとんど骨と皮になった拳を懸命に突き出す。
「任せろ。兄貴」
「任せた。レイズ」
兄弟は拳をぶつけ合った。
久しぶりに触れた兄は、柔らかくなく、骨の感触のそれだった。
レイズはそこで気合が入りなおる。
強く、本当に強く拳を握り、病室を後にするのだった。
レイズが部屋を出ていき、数十秒。スレイは黙ってその扉を見つめていた。
「………………」
そして、ゆっくりと俯きポツリと呟いた。
「………ごめんな」
掛け布団の下から、積まれた炎龍の教本が顔を見せる。
まだ折り目もついていないそれは、スレイに手に取られ、ズタボロに読み込まれるのを待っているのだった。