―最終段階―
「いい加減にしろ。どれだけの人間をかき回したと思っているんだ?」
騎士団本部へ戻り、団長に開口一番に言われた言葉だ。
レイズたちは、誤ることしかできない。
「すみません……」
「申し訳ありませんでした……」
聖域に入ったタイミングかは分からないが、通信端末が死んでいた。
よって、騎士団本部からレイラたちに連絡を取ることができなかったのだ。
女王の安否も分からないまま待つことしかできない騎士団長の気苦労も想像できる。
唯一の救いは、団長にシャレムから話してくれていたことだ。
場所は伏せていたらしいが、通信が届きにくい所にいるかも、と聞かされたらしい。
それで、団員に捜索させるのを待っていたようだ。
女王が外出し、王都と連絡が取れないなどあってはならないことだ。が、特殊な事情が外出を許し、連絡網を甘くさせた。
その隙を利用した外出だが、今回は攻めすぎた。聖域に行くことになるとは思ってもいなかったことだが、直前に連絡を入れることは可能だったはず。
「リゼル」
「……それについては申し訳ないと思っている。が、こっちも事情がる。」
団長クラッツとリゼルの間には溝が見え隠れするが、会話は普通にできるレベルであった。
「はぁ……戻ってきたのなら、もういい。で、『アレ』の件だが……」
『アレ』の件とは、浮遊島のことだ。
「調べてみたところ、大昔にドラゴンとの戦闘で海に沈んだ島の可能性が高い」
「ん……?」
「え!?」
ピンと来ていないレイズ、マリナ、ミーネ。
驚くバージル、レイラ、リゼル。
エラー龍力者とそうでない者とで反応が真逆だ。
「……浮遊島……空中都市リムークス。浮遊した島に栄えていた都市だ」
「戦争の最中、海に沈んだ歴史がある……それは確かなのか?」
リゼルの問いに、間違いなさそうだ、とクラッツは古びた本を机に広げる。
「古くて見にくいが、よく似ているだろ?」
「……確かに」
彼が指さす挿絵と、浮遊島はよく似ていた。
挿絵だと『底』の部分が寂しい。
「底に剣がないわよ?」
「……レイが改造したのだと考えている。それ以外の特徴はそっくりだろ?」
「まぁ、そうだけど……」
挿絵では正確な規模は分からないが、ビジュアル面はよく似ていた。
浮遊島。空中都市リムークス。
島の底にある砲でドラゴンを打っていたと聞いている。
空の覇者であるドラゴンに浮遊島で対抗するなど、と考えたが、『力』ある者を同時に配置することで、有利に戦いを進めることができたのだと。
終戦した頃には、力を失い、海に沈むことになるが。
「……あの島がそうだったのか」
「ですね……レイの力で、その島が復活したと……?」
「他にも文献を漁らせたが、似た島は存在しなかった」
レイラの言葉に、クラッツは頷いた。
「浮かべただけじゃ満足できなかった、ってこと?」
「……空なら『邪魔』は入らない。進路を追っているが、ギラス高原に向かっている様子だ」
マリナの疑問に、クラッツは自分の考えを述べる。
オルアル諸島沖に浮かんでいたのでは、邪魔者が侵入してくる可能性が高い。
先日の試験が行われてからは、騎士団の警備に人員調整が入り、減っている。
それに、攻めてこないとはいえ、騎士団本体に監視されているのも気分が悪いのだろう。
レイはそんなこと気にしないだろうが、フリアたちは分からない。
島を浮かべ、漂う先にあるのは、ギラス平原という地域。
その奥には、とある山が聳えている。
「ギラス……高原……?」
「人間が立ち入らない区域だ。道は過酷で、魔物も強い」
環境が過酷で、人間が近寄らない区域。
当然、その環境に適応した魔物も強力になる。
存分に目立った上で、そんな場所に移動している。その理由は一つしかない。
「『来い』ってことかよ……?」
悔しそうに唇を噛むバージル。
敵にあれだけの余裕を与えているのが情けない。
「恐らく。それに、あれだけ大っぴらに動いているのを見る限り、レイサイドも最終段階へ突入している」
「……あの剣と砲で地上攻撃も可能になった。これ以上は無理だな」
リゼルも団長の読みに理解を示す。
島の攻撃手段を使うかどうかは現状不明だが、あんなゴテゴテしたものがこちらを向いているのは気分が悪い。
「あぁ。あそこまで行って、急な変更もないだろう。すぐ向かうことになると思ってくれ」
「ちょっと待ってくれ!あの島は浮いてるだろ?どうすりゃいいんだ?」
乗り込むのは構わない。
もとよりそのつもりだ。しかし、標的は宙を浮いている。
飛行艇が着陸できるような空いたスペースもないのは先日の調査で確認済みだ。
「浮遊島……力が戻っているなら『アレ』が使えるはずだ」
「アレ……?」
レイズは首を傾げる。
とにかく、具体的な指示は翌日行う。とクラッツはその場を解放した。