―神龍の答―
人間界の問題のことで、とレイラは口を開く。
「人間界の問題……その火中の人物が、レイ=シャルトゥなのです」
「そうか……それで、か」
神龍レイは驚いた顔をするが、すぐに納得の顔になる。
「はい。ですので、何か関係があるのか、と思ったのですが」
「我の答は変わらない。覚えている限り、人間のレイ=シャルトゥは会ったことがない」
「……分かりました」
レイラは軽く頭を下げ、口を閉じた。
場に沈黙が流れる。
「……で、神龍レイさんよ。聞きたいことは以上か?」
「む」
「そろそろ帰らねぇとな」
レイズはリゼルたちを見ながらそう伝える。
登山を始めて数日経った。
想像以上に滞在してしまっている。
ここでは人間界の様子も確認できないし、一度帰ってレイの動向を探る必要もある。
しかし、神龍レイに引き留められる。
「……待て。お前たちは、絶対に勝てない」
「!」
「人間界の邪悪な力は日に日に力を増している。お前たちも戦えるようだが、まず勝てまい」
神龍レイからの評価。
俺たちに負けたくせに、と言うこともできるが、ここは聞く。
それに、レイズは感じていた。レイと神龍レイ。レイ戦の方が、感じる恐怖が桁違いだった。
それは、単純に戦闘能力や潜在能力の差。
神龍レイは「身体にガタが」と言っていたし、(それでも非常に強かったが)力は衰えている。
「ですが、私たちはやり遂げなければ……」
「それが、騎士団の……女王としての責任だ」
リゼルの言葉に、神龍レイは反応する。
「お前が、人間界の王か」
「え?はい……」
レイラを見つめ、観察するように目を細める。
(……潜在能力は未知数……光龍との波長も、光龍王との波長もいい……)
「えっと……?」
まじまじと見つめられ、戸惑うレイラ。
お構いなしに、神龍レイは内面を見透かす。
(人間本人の責任感も強い……勇気……誠実……純粋……心の汚れが見えない……)
神龍レイは「ふぅ」と小さく息をつく。
「……偶然にも、我は人間界の王と戦えた訳か」
そして、光龍王とも。
神龍の実力はよく知っている。扱っている人間のことは心当たりがないが、ここまで力が感じられるということは、呑まれることなく力が使えているのだろう。
彼らの言う『敵』のおおよその力と、今見た彼らの力。
(…………)
このまま帰せば、間違いなく殺される。
太陽龍王ソルが信じ、巫女及び龍王が信じた、この少年少女たちが。
それは、あまりにも惜しい。
(人間界の問題に首を突っ込むとは……我も変わった、のか……)
過去の自分からは想像できなかった。
この光り輝く可能性の塊が、無残に散っていくのが惜しいと感じるとは。
相手は人間で、ドラゴンですらないのに。
「土産だ。我の力をお前たちに託す」
「!!」
「当然、すぐに使えるようになれると思うな。お前たちの進化の先に、我は存在する」
イメージとしては、龍王の力と同じだ。
力は自分たちの中に存在する。それを扱えるかどうかは、自分次第。
「待って!!『託す』って……!」
わざわざ「託す」という重い言葉を使う意味。マリナはそこに引っかかった。
「先ほども言ったが、この身体は長い。そろそろ、眠らせてやらねば」
「それって……」
ソルと同じ状況だ。
そうなれば、神龍レイは?レインジ=シャルロートゥは?
「……人間界の王とその仲間、そして龍に敬意を表し、全員に我の力を託す。お前たちに宿る訳ではない。したがって、我はここで現世を完全に離れることとする」
「!!」
「……いいのですか!?」
「いい。どちらにせよ、長くない身体だ。ならば、意味ある最期を迎えよう」
誰にも知られず朽ちるより、喜ぶだろう。と神龍レイは遠い目をする。
(レインジ……ありがとう)
神龍レイは自分の胸に手を当て、相棒を想う。そして。
「始めるぞ」
彼が手をかざすと、仲間たち全員を包むオーラが発生した。
当然、無属性である。属性を扱う感じに慣れているため不思議な感覚だ。
力が充満するに連れ、神龍レイの身体が薄くなっていく。
「私、倒します!!レイを、倒します!!」
涙声でレイラは叫ぶ。
神龍レイはそれには答えず、ゆっくりと、小さく口角を上げる。
彼の身体が益々透明になり、光の粒子が舞い始める。
「絶対に、期待を裏切りませんッ!!」
レイラが叫び終わったと同時に、神龍レイの身体が、消えた。
完全に。