―逆質問―
会話を進めるうちに、別の話題に移っていく。
「……アルカリオンからここへつながる理由は、ご存知でしょうか」
「アルカリオン……あぁ、あの山か……特に意味はない。人間界で強者しか立ち入れないであろう場所と聖域を繋げているだけだ。陸・海・空に多少縁がある場にはしてあるが」
アルカリオンに別段思い入れがあるわけではなさそうだ。
つまりは、龍界と異なり『ゆかりの地』と繋がるわけではない。
「そう……ですか……ということは……」
つまり、探せば「ある」のだ。
海・陸を担当する神龍の聖域が。
「万が一……行けても、もぬけの殻だ。一応言っておく」
鋭い目でレイラを見る神龍レイ。
そんなつもりで言ったのではなかったが、彼女は大人しく一回頷く。
「……で、だ。聞きたいことは以上か?」
「う……」
神龍レイに見られ、レイズは言葉に詰まる。
聞きたいことは山ほどあると思っていたが、実際言うほど無かった。
レイとの関係も不明だし、彼はソルのような状態で聖域にいる。
助けて(?)もらった理由も聞けた。
「……あぁ」
「なら、こっちから質問だ」
声質が変わり、低くなる。目つきも鋭くなり、笑みが消える。
その迫力に、ビク、と背筋が伸びるレイズたち。
「なぜ、お前たちから『王』の力が感じられる?」
「それは……」
言葉に詰まるレイラ。
レイズはともかく、その他の仲間が王の力が扱えるのは複雑な経緯がある。
端的に言うことができないのだ。
「……龍界に行き、王に認められた。それだけだ」
リゼルが冷たく言い放つ。
事細かい経緯は後でいいと判断し、使える理由のみを話した。
「龍界、だと?」
「あぁ。誤解のないよう先に言っておくが、僕たちは力を求めて龍界に行ったわけではない」
釘を刺したリゼルのそれに、うんうん、とマリナやミーネはしきりに頷いている。
「人間界で起こっている問題……それを解決するのに、ソルの助言があったためだ。あくまで可能性を探りに行っただけ。龍王に会えたのは、その結果だ」
「ほぅ……?」
目つきは鋭いままだが、興味深そうにレイズを見る神龍レイ。
誰がどの龍なのかは、戦闘で把握済みだ。
「……こいつの中にソルがいるのか」
「……あぁ。そうだよ」
反抗心剝き出しだった少年。
今は割と大人しく話を聞いている。
「確かに、あの時感じた王の力は太陽龍王のものだ。ま、ピーク時よりも大幅に弱いが」
「っ……」
それは、自分がソルとの呼吸が完璧ではなく、力を引き出し切れていないからだ。
自分の未熟さを痛感する。
「……人間界の問題……異様に力を蓄えている邪悪な力のことか」
龍王や龍界の話は納得してもらえたのか、神龍レイは話題を変えた。
「!……やはりご存知でしたか……」
「当然だ。世界を監視するのが神龍だから、な」
「では……人間界のレイ=シャルトゥも……?」
「監視はするが、細かい所までは見ていない。龍界や聖域に危害が及ぶなら話は別だが、今のところは人間界の問題だ」
ドラゴンと人間の一線。
龍王もそうだったが、スタンスとしては神龍レイも例外ではない。
「……が、龍王は協力することを選んだようだな」
「……はい」
スタンス的には、龍界に危害が及ばない限りは手出ししない。
しかし、自分たちの力や太陽龍王ソルがついていることなどから、力を貸してくれた。
「……確かに、放置するには危険な力だ。それに、神の力も感じられる」
「!!」
やっぱり、とバージルは呟く。
あの無属性の攻撃は、やはりレイだった。そして、神龍レイと同じく、神の力を扱う者。
これで確定した。自分たちは、神の力と戦っている。
「…………」
腑に落ちていくレイズたちをよそに、神龍レイは空を仰いだ。
(シャウナ……エリシオン……『敵』は、エリシオンか……?)
生前の三神龍。
シャウナ、エリシオン。そして、自分サフィアルギエン。
生前のため、人間の名を借りていない、純粋な名前だ。
シャウナは比較的穏やかな性格であったが、エリシオンは気性が荒い。
そして、何より力を好んだ。神龍の立場に置くには危険な龍であったが、『こう』なっているとは。
人間界の問題ではあるが、神龍が深く関わっているのは引っかかる。
(エリシオン……ヤツと人間とが嚙み合ってしまえば、世界は……)
神龍レイは、厳しい眼差しで世界を想う。