―神龍―
「我は、神龍。文字通り、ドラゴンの神という立場だ。昔、旅をしたこの身体を借りている」
仲間が全員覚醒し、レイ似の男と向かい合うように座ると、彼は話し始めた。
この神龍はソルと同じように、人間の身体を借りて存在しているらしい。
「ここは、龍界とはまた別の空間。神龍しかいない、言わば『聖域』だ。だから、他のドラゴンもいない。尤も、飛行能力が高い魔物は紛れ込むが」
「それで……」
レイラは納得したように呟く。
本来なら、神しか存在しない空間。ただ、そこに壁はないらしく、飛行中の魔物が紛れ込むことがある。
自分たちが出会った魔物は、その類だ。
「……この間の熱線はお前だろ。なぜ助けるようなマネを?」
レイズは突っかかるように聞く。
「我はこの空間を熟知している。いつどこで魔物が紛れ込んだのか……もな」
「……で?」
「お前たちがこの空間に来たことも知っていた。だが、相手をするつもりはなかった。あの時までは、な……」
「……あの時?」
マリナとミーネは首を傾げる。
熱線が飛んできたとき、自分たちは何をしていたか。
「『王』の力を感じた」
「!」
「あの時……!」
思い出した。
多数の敵に囲まれ、絶体絶命だった。
逃走を試みたかったが、不可能そうだった。そんなとき、レイズが龍力を高めたのだ。
太陽龍王の龍力を。
(……そういうことか)
リゼルは目を細める。
本来スルーされるはずの自分たち。しかし、レイズの力が太陽龍王であることで、神龍に興味をもたせた。
「人間が龍の魂を扱っていることは知っている。それ故に、別段驚くことではなかった……が」
神龍はレイズを見つめる。
「お前の力は、間違いなく太陽龍王の力。それに、別の者からも王の力を感じた」
後半は戦闘中だが、と神龍は言葉を締める。
「…………」
レイラは拳を強く握りしめる。
(戦闘終盤……王の力を強く感じました……)
龍界へ行った直後は何も変化を感じなかったが、自分たちの中に『王』は居るのだ。
「……あのまま鳥どもと戦っていれば、確実に死んでいただろう。だから、だ」
「ち……」
神龍に舌を打つレイズ。
レイではない別な存在なのだが、なぜか素直になれない。
「で、何であんたは『レイ』に似てるんだ」
「レイ……なぜ我の名を知っている?」
神龍は驚いた顔を見せる。レイ似の男の名前は、レイだったのだ。
その偶然の事実に、仲間たちに衝撃が走る。
「!?」
「どういうことだ!?説明しろ!!」
興奮気味のレイズ。それを意に介さず、レイは淡々と続ける。
「……我はレイ=シャルトゥ。この身体の生前の主の名レインジ=シャルロートゥから命名した」
「え!?」
「どうなってやがる……!?」
「ち……」
「どういう……こと……?」
驚く仲間たち。反応は三者三葉だ。
事情を詳しく知らない神龍レイは、どういう意味か理解していない。
レイ=シャルトゥは偽名。
それはまだ分かった。が、この聖域に存在する神龍の名も『レイ=シャルトゥ』とは。
雰囲気もレイに似ているし、偶然とは思えない。
「……人間界にも『レイ=シャルトゥ』を名乗る人物がいます」
「ほぅ……?」
「……心当たり……ありませんか?」
レイは興味深そうに顎に手を当てる。
「……記憶が残っている限り、レインジに『レイ=シャルトゥ』という知り合いはいない。ただ、この身体も色々ガタが来ていてな。確実な記憶ではない、が」
「…………」
ガタが来てあの力か、とリゼルは心の中で舌を打つ。
ソルもそうだったが、ドラゴンが龍力を操ると、人間の体でも圧倒的な力を発揮できるらしい。
(……『暴走』も『禁忌』もその部類、か……)
結局、神龍レイと黒幕レイとの関係は分からずじまいだ。これ以上追及しても答えは出なさそうだ。
それは一旦置いておいて、気になることはまだまだある。
「……神龍はあんただけか?」
ドラゴンの頂点。
王ならば属性ごとにいたが、無属性である神龍はどうなのか。
「……三体いるはずだ。が、残り二体は……誰かに宿っておるな」
「!!」
間違いなくレイだ。
ただ、もう一人は誰だろうか。
「どの聖域にも気配がない。それに、人間界からそれらしい力も感じる」
「『どの』?」
ということは、この聖域は数か所存在することになる。
「鋭いな。娘っ子」
「いえ……」
神龍レイに見られ、レイラは目を背ける。
「……形式上だが、陸・海・空を司っている。『陸を司るから海の力が使えない』とかそんな縛りは全くない。言うまでもないが、我は空を司る」
「…………」
「我はある意味フリーな立場だな」
レインジの肉体を借りてはいるが、パートナーとして宿っているのではなく、特殊な状態。
そるふぁの身体を借りて存在していたソルのようなパターンである。