―未知なる力―
龍力の合体。
それは、スゼイ戦でただ一度できた技。
リゼルやレイズはその現場を見ていないが、話には聞いていた。
それは、単純な足し算ではなく、プラスαの力を感じた、と。
そして、その力でスゼイを倒した。
「……僕たちに残された力は少ない。力を合体させるしかない」
「もし……それで勝てなければ……?」
不安そうなレイラの声。しかし、彼女を気遣うことなく、静かに言い放つリゼル。
「……覚悟を、決めろ」
「…………」
他に打開策はない。そして、失敗=終わり。
その現実に、ゴク、と唾を飲み込むレイラ。
ここは天界。助けは来ない。
自分たちの力で切り開かなければならない。
それができなくなった瞬間、終わる。そんな世界。
リゼルはそこを理解しつつ、未知なる可能性に賭けようとしている。
「…………」
シン、と静まる空気。
このままでは決定してしまう。バージルは慌てて言葉を放つ。
「あの時は4人の力だった。今度は6人だ。それを融合させるなんて……」
あの時感じた、龍力が溶け合う感覚。
完全に別属性であるのに、自分の力の一部のように感じた。
だが、それは4人だったからできた芸当のように思う。それが6人になれば、更に術式が複雑となる。
「……他に方法が?」
「え……?いや……」
リゼルの問いに、バージルは顔を少しだけ背ける。
未知なる可能性に挑戦し続ける必要があるのは確かだ。
だが、一度も予行演習なしにぶっつけ本番なのは如何なものか。
「……どうせ力はほとんどねぇ。やってやるよ」
レイズはやる気だ。
大技をことごとく見切られている以上、未知なる可能性に賭けるのも悪くない。
「あの時の感覚よね?上手くできるか分からないけど……」
「うん。けど、可能性があるなら」
マリナ、ミーネも了解し、準備に取り掛かる。
「はぁ。わぁったよ」
他に案もない。
バージルもすぐに龍力を高める。
「リゼル、レイズ。私たちに合わせてください」
言いだしっぺは自分だが、導くのは経験者の4人頼みだ。
リゼルは素直に首を振る。
「……あぁ」
「おう!」
ズオ、とレイズたちの龍力が高まる。
「お?作戦会議は終わりか?」
レイ似の男は自分たちの力に興味があるのか、この間は攻めてこなかった。
その判断、後悔させてやる。
「行くぞ……!!」
レイズたちの龍力がじわじわと混ざり合っていく。
眩い各属性の光。
流れるような、美しい龍力が展開していく。
「いいねぇ……!!待った甲斐がある!!」
龍力の境界線が曖昧になり、お互いの力が行き来し始める。
しかし、その先が上手くいかない。
「く……!!」
自分の波長とパートナーの波長。そして、仲間それぞれの波長が脳内に流れ込み、精神を揺さぶる。
スゼイ戦より大きな力を扱っているせいだろう。情報量が先日と段違いに多い。
「楽しくなってきた……!」
レイ似の男は口角を上げる。
この間、レイズたちはスキだらけだ。
強い攻撃でなくとも、技や術で遊んでやれば、あっという間ケリがつく。
だが、彼は動かない。
(お前たちの最高の力……見せてくれ)
顔はふざけつつも、その目はしっかりとレイズたちの龍力の質を見定めていく。
力強く、美しい龍力。
それが6体分混ざろうとしている。
「つ……」
仲間たちの力が混ざれば混ざるほど、精神はすり減っていく。
それだけ強大な力が引き出せている証拠なのだが、今のままではダメだ。
自分とパートナーのシンクロ率はそこそこだが、仲間とのシンクロ率が高くない。
スゼイ戦では割とすんなり行けた印象があったレイラ、バージル、マリナとミーネ。そんな彼女たちも苦戦している。
(太陽と月の力……!!)
(調整がシビアすぎる……!!)
初めて脳に感じる太陽と月の力。
加えて、レイズの力は太陽龍王のものだ。
龍力の質が異なるのは分かるのだが、なかなか掴めない。彼らとの間だけに壁を感じる。
レイズやリゼルはそもそも初体験だ。
そのハンデをこちら側でカバーしなければならない。
(しっかりしろ!!俺!!)
(生き残れ!レイラを死なせる気か!?)
龍力が混ざり、キメラドラゴンが構築されていく。
先日見たそれよりも美しいが、形が歪だ。そして、それほど大きくない。
「まだだ……!!」
6人分の波長と、6体分の波長。
属性も質も異なるその力を混ぜ合わせ、巨大な龍力を構築し、操作、相手にぶつける。
かなり難易度が高い。
「ち……く……しょ……!!」
もちろん、構築中も龍力を消費する。
急がなければならないが、急いでどうこうできる問題でもなく、時間だけが過ぎていく。
レイ似の男も受ける準備が完了したのか、最大限の龍力を纏い、構えている。
「もう……だめ……!!」
ミーネの顔が歪み、ふらつきそうになる。
その時だ。
全員の脳内に、同時に声が響いた。
(王……!!)