―正体―
この空間一帯が強烈な龍圧に覆われる。
「くっ!」
レイ似の男が敵意剥き出しになってしまった今、戦いは避けられない。
しかし、戦闘が始まって数分経つが、龍力の調整が今までで最難関であった。
それは、戦闘スピードが大きい。
一瞬一瞬気が抜けない戦いが最早スタンダードだが、そのレベルを超えている。
(こいつホントに人間か!?)
レイに匹敵するほどの強大な龍力と、今までで体験したことのない速さの戦い。
同じ人間とは思えないスピードに、レイズたちは翻弄される。
戦闘経験が豊富なレイラとリゼルでさえ、その目まぐるしさに付いてこれていない。
(ちぃ……!!土台が崩れちまいそうだ……!!)
かと言って、雑な龍力調整ではまともに剣を受けることもできない。
大前提として、丁寧に龍力の構築・生成がある。
その上でのスピード勝負。
そして、最大の要因。
(光龍!?こんなものではないはずです!!)
パートナーと自分との距離が遠い。
龍力の構築・生成を丁寧にしたことによる変化とかではなく、別の問題だ。
自分がどれだけ力を引き出そうと綿密な調整を試みようとも、パートナーが反応しない。
全く合わないのではなく、シンクロ率が上がらないのだ。
それでも強引にフル・ドラゴン・ソウルクラスの龍力は維持できているが、いつ崩れてもおかしくないレベルで安定しない。したがって、『声』も聞こえない。
(どうなってる……!?)
レイズたちは数の利を活かすため、フィールドを縦横無尽に駆け回り、仲間の位置関係を確認しながら攻めていく。
しかし、レイ似の男の力には到底届かない。
「そんなものか!?」
「ぐっ!!」
途轍もなく重い剣。
スゼイの大剣よりも威力を感じる。
剣でガードできても、大ダメージは避けられない。
(なんて重さなの……!?)
氷を盾として大幅にダメージを減らそうとしたミーネだが、薄氷のように破られてしまう。
そして、盾で威力を削ったにも関わらず、この威力。
「つ……強い……!!」
こんなにもダメージを受けてしまうのは、多分、龍とのシンクロ率が異様に低いため。
もちろん、レイ似の男の攻撃力が凄まじいのを大前提とした上での話。
戦いはほんの数分。
「はぁ……はぁ……」
それなのに、レイズたちは既に満身創痍だ。
レイラの治癒術を受ければ問題ない程度だが、数分でこれだけのダメージを受けてしまったのは想定外。
(ち……くそ……しんど……)
過度な緊張が抜け、力も抜ける。
すると、レイズの脳内に声が響いた。
(ッ!?)
(……やっと繋がった!!)
ズキン、と頭痛が走る。
頭を押さえ、よろめく。
「レイズ!?」
「ッ!問題ねぇ!」
白い靄を揺らめかせ、大地を踏みしめ直す。
(ソル……?)
(えぇ……何度も交信を試みたのだけれど)
(俺を『認めた』ってことか?)
(……そうね。現王が認めているのに、過去龍が様子見ってのも変よ?)
(だったら……もっと早くに)
レイ似の男を睨みつけながら、レイズは呼吸を整える。
ソルの声が聞こえるようになってからは、龍力調整がしやすくなった気もする。
(それは、あなたサイドの問題よ)
(は……?)
(龍の声はわたしが認め、声掛けしたからと言って聞こえるものではないわ)
(どういう意味だよ……)
(聞き取れるだけの龍力者でないとダメってこと。言い換えるなら、わたしの声に気付かないってこと)
ソルの声を聞きとれるだけの実力がなかった。
シンプルに言えば、そうなる。
「…………」
これが本当のことなのかレイズは疑りながらも、心当たりを探る。
と言っても、最近の意識し始めたことは少ない。
先刻自分たちが挑戦した『丁寧な龍力の構築・生成』。これを今まで蔑ろにしていたことが原因だと考える。
(で、あいつは何者だよ。相棒)
(……よく聞きなさい)
レイ似の男がリゼルと剣を交えている。
(『神龍』よ)