―瓜二つ―
エラー龍力者とは言え、流石にここまで龍力レベルを上げてきた龍力者たちだ。
『慣れ』と言う意味では、彼らは環境に適応した。
「『慣れる』が『だれる』になるなよ。レイズ」
「俺だけかよ!?」
バージルに念を押されながらも、それに突っ込めるほどの余裕まで生まれている。
(フン……伊達にここまで来てはいない、か……)
戦闘を歩いているリゼル。
誰にも悟られぬよう、静かに口角を上げる。
「バリアの中……慣れてしまえば、普通の『空間』ですね……」
「そうだね。でも、力が落ちたらあの力の波に潰されるのよね」
「そうなりますね……それが目に見えないのも不思議ですね……」
「そういう能力?があるのかも……」
レイラ、マリナ、ミーネもそれなりに会話しながら着いてきている。
この空間に慣れなければ、死ぬ。
ある種の極限状態が、彼や彼女たちの適応スピードを底上げした。
彼らが知らぬところで、パートナーの龍が手を貸した可能性もあるのだが。
(どっちにしろ、進めている……)
この先に、何が待っているのか。
熱線を放った『何か』は、いつ目の前に現れるのか。
今を生きるドラゴンは、相変わらず一体も見当たらない。
巫女の気配もない。
心なしか、魔物の気配が弱くなっている気がする。荒れ狂う龍力をビンビンに感じているせいもあると思うが。
歩いていると、ふとマリナが口を開く。
「ねぇ……バリアの『形』って……どうなってるのかな?それ」
「え?どういう意味です?」
「え~と……私の勝手な想像だと、バリアって自分を中心に壁を作るイメージなのよね。でも、よくよく考えたら、自分はバリアの隅にいて、長ったらしいバリアを構成しているって可能性もあるのよね~」
「あ、確かに……」
ミーネもバリア中心に術者がいると考えていたが、実際は違うかもしれない。
自分たちが来る方向が分かっていて、力を削るために楕円形のバリアを張っている可能性もある。そもそも、円状ではない可能性だってある。
マリナの疑問に「なるほど」と思う一方で、答えが出ない無意味な疑問であることを言うバージル。
「……バリアの規模も形も本人にしか分からない。考えても無駄だと思うぞ?」
「そうね。気になっただけよ」
と、自分たちに重くのしかかっていた龍力の嵐が突然消えた。
「!!」
レイズたちに一気に緊張が走る。
「何だ!?」
「バリアの外に出ちまったのか!?」
「嘘!?」
突然の龍力環境変化に戸惑うレイズたち。
リゼルは舌を打つ。
(ち……進む方向を間違えたか?)
熱線が飛んできた方向を計算しながら歩いていたが、何も見当たらないまま、バリアの気配が消えてしまった。
見落としたか、方向が少しずつずれていったかのどちらかだと考えたが、再考は不要だとすぐに分かった。
「おい。見ろ」
「!」
白い靄の隙間。
そこから、人影が起き上がった。寝ころんでいたのか。
人影は見えるが、遠くて具体的な風体は確認できない。
「…………」
レイズたちはゆっくりとその人影に近づいていく。
「気を付けろ……」
「あぁ……」
お互いに姿が確認できる距離まで近づいた。
そのタイミングで、その人間は振り返った。
その瞬間、レイズの時間が止まる。
「……!!」
右目が隠れるくらいの長い前髪。色は暗めの茶色で、後ろ髪は襟足に届かないくらい。
ゆったりしたコートを直に羽織っている。そのコートは年季が入っており、見ようによっては永遠の旅人のそれだ。
相手の姿が確認でき、時間が進み始めたレイズは龍力を最大限解放しながら叫んでいた。
「レイィィィィィィイイイ!!」