―バリアの内側―
レイズたちは、龍力バリアの内側へと進行した。
『通過』する瞬間のみ、網のようなバリアが見えたが、それきりだ。
しかし、環境はガラリと変わった。
バリアの中は、得体の知れない凄まじい力が荒れ狂っていた。龍力者が纏う龍力のようなものではなく、肉眼ではその『荒れ』を確認できないものであった。
少しでも気を緩めれば、潰されてしまいそうなプレッシャー。環境の重力関係に変化はないはずのだが、一歩一歩が重い。骨が軋み、筋が悲鳴を上げる。
(キツイ……けど、見栄えは変わんねぇな)
レイズたちを取り巻く環境は一変したが、唯一変化がなかったのが景観だ。
相変わらずの白と蒼の世界。
進みながらも、リゼルは考え事をしていた。
(あのバリアに環境破壊能力はない……)
破壊能力があり、バリアが円状だとするなら、円状に大地なり木々なりが破壊される。
しかし、雲(?)の大地は破壊されないままだ。
すなわち、一定距離の雑魚を排除する能力はあるが、無暗に環境を破壊する力まではないらしい。
とは言え、龍力者の匙加減とも考えられるのだが。
「…………」
仲間たちの口数が一気に減る。
皆自分の力を維持するのに集中しているようだ。
ただの歩行でこれだ。この状態では、戦闘できそうにない。
早急に慣れる必要がある。
「……おい。一旦止まれ」
「んだよ。行かねぇのか?」
「……ここに身体を慣らす」
「慣れるか?これ……」
バージルはリゼルの提案に不満そうだ。
「できるできないじゃない。『やる』んだ」
「…………」
パワハラァ、と言葉を飲み込む。
「この状態で戦いに発展してみろ。一瞬で負けるのは目に見えている」
「それは……まぁ」
「さっきまでとは状況が違う。最低でもこの状態を維持できないと、そもそも生きていけない」
バリア外とバリア内の環境の変化。
それに生体を適応させなければ、生き抜くことはできない。
そのためには、一度立ち止まり、この状態に慣れる必要がある、とリゼルは言いたいのだ。
「……わたしは、それの方が助かるかも」
「あたしも、かな……」
「二人とも……」
レイラは少し反省する。
新たな地で、気が急いていた。先への好奇心が、仲間への配慮を忘れさせた。
「分かった。そうしよう」
「『慣れる』だけでいい。力を派手に使う必要はない。これを『普通』にしろ」
「あぁ。少し時間は要りそうだけど、止まれるなら……やりやすそうだ」
レイズたちは一度立ち止まり、それぞれがそれぞれの方法でこの環境に龍を慣らすのだった。