―重なる龍―
一定以下の龍力を弾き出す龍力バリア。
レイなどの高位龍力者が戦う前に威嚇として使うこともある。
以前は知識がなく、それが龍力バリアだとは考えなかったが、後々から考えると、あれがそうだったのか、と思う部分が多い。
要は、このバリアに勝てるレベルの龍力レベルでなければ、この先に行くことすらできないのだ。
非公式だが『入る資格』と言ってもいいだろう。
「半端な力では負ける。さっきまで練習したことを疎かにしないまま、高レベルの龍力を維持しろ」
「……言うのは簡単だがな?」
「……分かっている……ができなければ、ここで終わりだ」
とは言っても、とリゼルは続ける。
「帰る道も分からない。先に進むこともできなければ、どうなるか……言わないと分からないか?」
「ち……わあったよ……」
リゼルの正論に殴られ、不貞腐れながらもバージルは引き下がる。
彼の言うことに間違いはないし、事実だ。
だが、正論で殴るのは時と場合によっては反発を生む。
自分はリゼルとそこそこ過ごしているし、信用もしている。だから分かっているのだが、あまりそれで殴るのは危険だ。
実際、それでリゼルと騎士団には大きな溝ができている。
(ま、心の整理ってそんな簡単じゃねぇ、か……)
リゼルにその件をとやかく言うのも野暮だ。
ヒートアップする前に引き下がり、気持ちを切り替える。
「さて……」
「いいか?」
「オーケー!」
「はい!!」
バリアの前に一列に並び、一斉に龍力を高めるレイズたち。
いつもより、一層丁寧に、ゆっくりと焦らずに力を構築していく。
「…………」
血液が巡るように、龍力が四肢に巡っていくのが分かる。
普段は薄い膜のような、それが激しくなり、オーラとなるが、今回は違う。
膜の層が厚い。
龍力のオーラの密度が高いのがすぐに分かる。
龍力の構築段階で意識するだけでこんなにも差ができるのか。
しつこいようだが、これは戦闘外だからできることだ。
一瞬一瞬気が抜けないようなレベルのそれではない。
時間もあるし、心の余裕も戦闘時よりかはある。
これを完全に習慣化し、息をするようにこのレベルまで高めていく必要がある。
もちろん、技や術を使う際の龍力操作も含めて、だ。
「……最高の力よりも、質を意識しろ。大きくなくていい。積み重ねろ」
「はい!」
自身の周囲を展開する龍力オーラ。
その厚みが増し、龍力が湧き上がってくる。
「エネルギーにも注意しろ。出し続けば、倒れる」
「……分かってる……けど……」
「ッ……」
正直、そこまでの余裕がない。
精密作業に加え、残りの体力龍力との兼ね合いなど、別次元の話に感じる。
(祭壇のあれは、一点集中でした……身体全体に龍力を巡らせるのがこんなにも難しいなんて……!!)
彼らが苦戦している理由の一つ。
レイラが考えた、それだ。
祭壇で彼らが解放した龍力は、力も密度も素晴らしく、盃に光を灯すほどだった。
ただ、あの力はある部分に力を集中させるというもの。
身体全体を駆け巡る龍力をコントロールし、自分が欲しい場所に集める。その時に、丁寧に構築・生成するというもの。
ある意味では、龍力者が戦いにおいて自然に行っている龍力移動に似ており、難易度は比較的簡単だ。
だが、今彼らが挑戦しているのは、駆け巡る龍力全体の密度を増し、身体を覆うというもの。
一点に集中してよかったものが、全身に変わった。
龍力を構築・生成する難易度もそれに応じて跳ね上がる。
(ムズい……けど!!)
退路はない。
レイズたちはそれぞれの方法で高密度な龍力を構築していく。
その中で数名、オーラが龍の姿になっていく。
龍界で見たであろう姿。人間ベースでオーラが展開されているため、大きさは、可愛らしいが。
(龍がダブって見える……これ、か……)
龍力者がたまに見せる、龍がダブる現象。
レイズたちは、自然と理解した。ピンポイントだが、自分たちも良質の龍力を構築・生成するスキルは持っていたのだ、と。
仲間の龍力が空間に満ちる。
オーラを発していると分かる。龍力バリアを避けるように、力が放出していくことに。
(まだだ……)
龍力の構築が雑にならないよう、力を更に引き上げる。
ドラゴン・ソウルから、フル・ドラゴン・ソウルへと。
「…………」
一人がフル・ドラゴン・ソウルに段階を引き上げたのを認識し、一人、また一人とフル・ドラゴン・ソウルへ移行する。
言われずとも、分かっている。
この龍力バリアは、フル・ドラゴン・ソウルクラスでも突破できるか怪しい。
フル・ドラゴン・ソウルを、もっと精度を上げて。次のステージが見えそうなレベルで極めろ。
太陽。
風。
光。
月光。
雷。
氷。
各々のパートナーの力を引き出す龍力者。
自分だけでなく、仲間の心強い龍力も心に強く感じる。
それに影響され、仲間たちは互いの龍力を引き上げた。
(まだ、いける)
(もっと、高みへ!!)
完全なる龍魂への、一歩を。