―目的の地へ―
あれからどのくらい時間が経過しただろうか。
最近、気絶することが多い気がする。そのせいもあってか、時間の感覚が薄れてくる。
「ッ……!!」
レイズは痛む身体に鞭を打ち、ゆっくりと身体を起こしていく。
「う……ッ~~!!」
地面には靄が漂っており、柔らかそうだが、実際は見た目より固い。
気絶したまま眠ってしまったようで、身体が痛む。
頭上には青空が広がっている。
気を失う前は夕焼けだったことから、一晩ここで眠っていたらしい。
仲間も全員目覚めておらず、皆その辺に寝転がっている。
「おい……おい……」
一人ずつ揺さぶって起こそうとするが、顔を歪めるだけで起きそうにない。
外傷は見当たらないし、時間が経てば起きるだろう。今はそっとしておくか。
「ふぅ」と一息ついたところで、腹が鳴った。
(腹減ったな……さすがに)
ここ数日、まともな食事を摂れていない気がする。
改めて周囲を見渡すと、昨日の怪鳥が倒れているのが確認できる。
(こいつら……『鳥』だよな……?)
グリージでは野菜を主に担当していたが、捌いているのを見たことがある。
それに、このレベルまで大きければ、雑に肉を剥ぎ取っても大丈夫そうだ。
食材への感謝からの観点からすれば、グレーではあるが。
「……朝飯でも作っといてやるか。簡単なモンしかできねぇけど」
戦いが続くなら、肉は必須だ。
レイズは怪鳥の肉を剥ぎ、火にかける。
「匂いにつられて起きるだろ」
幸い、魔物の気配は感じない。
ここら一帯を支配していた怪鳥は全滅したらしい。
多少の匂いは大丈夫だろう。
「…………」
自分の龍力で肉を焼きながら、レイズは考え事をしていた。
それは、龍力の構築・生成についてだ。
大きな力を扱うには、より繊細な力の構築・生成が必要だ。
今までの自分は、大きな力に踊らされていただけだ。
それでも『火力』として力が出せていただけで、力の本質は浅い。
挑戦者たちとぶつかり合った時、力では勝てていたのに攻めきれなかったのは、恐らく力の構築・生成が雑だったから。
火力としては一見凄まじいが、中身が伴っていない。そのため、中身ある龍力には負けてしまうのだ。たとえその龍力が火力イマイチでも。
(改めて意識すると……ムズイな)
繊細な龍力構築を心掛けると、火が弱くなる。
日常的にあの力を出せないと、この先やっていけないだろう。
そういう細かなところの積み重ねが力の差として表れる戦いになる。
繊細な力の構築と生成。
龍力者としては基礎の基礎。そんな気がするが、意外と蔑ろになる。
龍力自体はそれでも出せてしまうため、尚更だ。
「そろそろ、だな」
鶏肉の焼けるいい匂いが満ちてきた。
「んっ……」
バージルたちもうめき声を上げながら目が開き始める。
「飯の匂いだ」
「おう、起きたか」
「……朝、か」
気絶したまま朝を迎えた。そのことをすぐに理解するバージル。
「しっかりしろよな……」
あのレベルの龍力で戦いが繰り広げられるはずだ。
これでは、レイと戦う前に気絶してお終いだ。
「……ま、食えよ」
「……サンキュ」
骨付き肉だ。
塩コショウのシンプルなものだが、これが効く。
「美味いな。イケる」
「そーだろ?まだまだあるぜ」
肉が剥ぎ取られた怪鳥が多数見える。
旅慣れているとは言え、朝からこの光景は重い。
「……ボチボチ貰うわ」
バージルはなるべくそちらを見ないように食事を進めるのだった。
程なくして、仲間たち全員が起き始める。
龍力の嵐にあてられ気絶したことを悔しく思う反応は共通だ。
レイズはとにかく肉を勧め、仲間たちの体力回復に努める。
腹が減っては戦はできない。
あれこれ考えるのは、その後だ。
「よし、行くか」
食事が終わり、レイズたちは行動を再開する。
目的地は未だ決まっていないが、『方向』は決まっている。
「熱線の来た方向だ」
リゼルは意識が飛ぶ直前、熱線が発射されたであろう方向に剣を突き立てていた。
一晩が経過した今もその主がいるかは不明だが、その決定に反対する者はいなかった。
「行こうぜ。あの力の源へ」