―熱線―
リゼルたちはこの空間の調査を進めている。
しかし、分からないことだらけで、進展はなかった。
景色は変わらないし、何も見えてこない。
魔物の気配は強かったままだが、姿自体は見ることはなかった。
人間界と時間はシンクロしているらしく、日が陰り始めてきた。
白と蒼だけだった世界が、オレンジ色に染まる。
「綺麗……」
普段あまり意識して見ることはない夕焼け。
ここだと一段と色が強く、美しく見える。
「ち……冷えてきたな」
「焚火……は無理そうですね……」
登山途中で薪は使い切った。
そもそも、こんなに寝泊まりする日数があるとは思ってもいなかった。
その時だ。
「!」
鳥類が高く鳴くような声が響いた。
「敵か!?」
「強い……来るぞ!!」
地面が盛り上がり、白い靄の隙間から、巨大な鳥の魔物が姿を現した。
緑色の体毛に覆われ、羽は茶色い。
アルカリオン山頂の古城くらいありそうな巨大な鳥。
巨大な翼、その翼爪、鋭そうな足の爪。
「ッ!!」
魔物の気配は感じていたが、この距離だと肌にビリビリ来る。
戦う前から分かる。強い。
レイズたちに緊張が走る中、怪鳥が奇声を上げる。
「キェェェェェエエエエエエ!!」
「!」
耳をつんざくその奇声に、思わず耳を塞ぐレイズたち。
「やってやる!!」
レイズがフル・ドラゴン・ソウルを解放しようとした時だ。
「おい……!?」
地面が膨れ上がる。
一つ二つではない。何ヶ所も膨れ上がっている。
この怪鳥が出てきたときのように。
「まさか……!!」
空気が抜ける音とともに、白い靄の隙間から同じような姿の怪鳥が次々と姿を現していく。
「十体はいます!!」
「冗談でしょ!?」
一体だけでもキツイと身体が理解しているのに、それが十体以上。
レイズもフル・ドラゴン・ソウルを一旦中止する。
この数相手では、いくらフル・ドラゴン・ソウルであったとしても厳しい。
「逃げなきゃ……!」
「けど、何もねぇぞ!?」
ミーネの言う通り、逃げるが勝ち、だ。
しかし、敵の数は多い上に、視界を遮るものが何もない。
「目くらましは!?」
「……無理です!!数が多すぎます!!」
レイラの光で閃光を、とも考えたが、数が多すぎる。それに、視界を遮るものがないため、相当な距離は知らなければ、追いつかれてしまう。
この環境で、それは不可能だ。
怪鳥は襲って来そうな雰囲気だが、仲間割れしているのか、互いに威嚇し合っている。
これは、単に戦うのではなく……
「まさか……ですけど、私たち……餌、なのでは……?」
「!」
魔物と戦闘に入るケースには、様々な要因がある。
単に接触したから、視界に入ったから、縄張りに入ったから、そして、空腹だったから、など。
ゾク、と全身の毛が逆立つ。
「ぜってぇ嫌だ!!!!」
なりふり構っていられない。
食われて死ぬのは、絶対に嫌だ。
一度は躊躇ったフル・ドラゴン・ソウルだが、逃げることも叶わない以上、戦うしかない。
レイズは全身全霊の龍力を解放する。
「!!」
「ムチャだ!!」
「けど、やるしかねぇだろ!?」
レイズが炎を纏い、駆け出そうとした時だ。
『この空間が震えるほどの龍力を全員が肌で感じた』
「!」
凄まじい力。凄まじい圧力。
遠い空の彼方から、一筋の光が走る。
「!」
凄まじい龍力の源は、そこからだった。
その光は、真っ直ぐこちらに向かってくる。
「伏せろ!!」
「!!」
リゼルの声に、全員が反応する。
そして。
「~~~~~~!!」
幾多の怪鳥を焼き尽くした。
一撃で。
夕焼けの空が更に焼ける。
周囲は、焼けるニオイと怪鳥の奇声、そして、龍力の嵐に包まれる。
「……!!」
熱線の直撃は避けたレイズたちだが、荒れ狂う龍力の嵐に吞まれ、意識を保てなくなる。
逃げの姿勢だったこともあり、龍力を高く維持していなかったことも大きい。
龍力の防御壁が薄いため、モロにその衝撃を受けてしまう。
正体不明の熱線による攻撃が終わったとき、起きているメンバーは誰もいなかった。