―白と蒼の世界―
レイズは、夢を見ていた。
自分が空を飛ぶ夢だ。
どこまでも高く、飛べる。夢だからなのか、自由に飛び回れたりはしない。
そこで、声が聞こえる。
「ズ……イズ……!!」
「ん……?」
自分の名前が呼ばれていることに気付く。
声は段々大きくなる。
「レイズ!!」
「!!」
バージルの声に驚き、レイズは飛び起きる。
その瞬間、バージルの頭にぶつかり、お互い涙目になる。
「って~~!」
「この……!!」
最高に目覚めが悪い。
そして、初めて外の世界に目を向ける。
そこは、『白』と『蒼』がすべてを支配する空間だった。
厳密に言えば、レイズたちが立っている、座っている地面に相当する面が白。
空に相当する頭上が蒼。当然だが、雲が見えている部分は、白い。
「な……んだ……?ここ……?」
レイズは呆然としたまま周囲を見渡す。
見る限り白と蒼の世界だ。木々、土、建物何もない。
足元の地面(?)は、一挙一動ごとに煙のように舞う。
地面の感覚はあるが、どうやら靄のようなものが床面を漂っているらしい。
これが、何を意味するのか。
「…………」
傍に立っているレイラたちも呆然としており、誰も状況を把握できていないらしい。
「目覚めたら……ここでした……」
「うん……光が……ッ!」
その先を言おうとした瞬間、マリナは頭を押さえる。
覚えているのは、祭壇でのことと、レイラの嬉しそうな顔が見えたときまで。
光に包まれた後の記憶がない。
空高く宙に浮く夢を見ていた気もしないでもないが、思い出せない。
「あれ……さっきまでは……」
「平気?」
「えぇ……」
覚えていた気がしたのに、忘れている。
他の仲間も光に包まれた後のことは覚えていないらしい。
「魔物……の姿は見えませんね……ですが、気配は感じます」
「そうだな。気を抜くな」
「けど……どうすりゃいいんだ……?」
レイズは四方八方見回し、絶望する。
一面白と蒼の世界。
目印になるものはない。
そして、道もない。
ヴァイス平原の白蒼版だ、と密かに思うレイズ。
「ここにいても埒が明かない。行くぞ」
「どこに?」
「とにかく、調査だ」
自分たちが置かれているこの状況。
このまま呆然と過ごしていても、道は開かれない。
(道……?)
「道は開かれる……」
ボソ、とレイズは呟く。
「道の、先なんだ。ここは……」
「まさか……龍界……?」
バージルの考えに、レイラたちはある一定の理解を示す。
「確かに……可能性はあります。が……」
「巫女ちゃんの姿が……それに、ドラゴンの気配はあんまり……」
そう。
龍界ならば、巫女のドラゴンが案内龍となるはず。
しかし、姿が見えない。
それに、今を生きるドラゴンが一体も見えないのは不思議だ。強い生命力の気配もしない。
更に疑問なのは、魔物の気配。
偶然かは不明だが、自分たちが龍界に行ったときは魔物の姿も気配もしなかった。
「……ここは、『特殊』なのかもな」
リゼルは静かに言う。
「特別な場所であることに違いはなさそうだ。が、詳しいことは分からない」
「……はい」
「闇雲に進むのは気が進まない……が、指標もない。慎重に調査するぞ」
「了解です」
「魔物の気配は強い。いつでも戦えるようにしておけ」
「分かってる」
リゼルたちは剣を抜き、戦いに備える。