―太陽と雷―
バージル、リゼルも無事、盃に光を灯した。
これで、後はレイズとマリナだけだ。
マリナは自分のプライドのために、レイラと龍力を見てもらっている。
いい線まで行っているようだが、今一歩及ばない。レイラが首を横に振っているのが見える。
「……ストイックだな」
「……黙っていろ。あいつは……」
「あいつは?」
バージルに聞かれ、言葉に詰まるリゼル。
上手く言えないし、わざわざ言うまでもない気もする。
「……何でもない」
マリナは、仲間だ。
彼女だってこちらをそう思っている。だから、止めない。
地位こそ違うが、ここのチームではそこがフラットだ。だから、なおさら対等でいたい。
レイラが光を灯した後も、自分の力が通用するのか確かめたいのだ。
「あいつは、やる」
「……知ってるよ」
バージルは目を閉じ、邪魔をしないように下がる。
その間、リゼルの変化に考えが巡る。
リゼルは変わった。
着目する対象がレイラだけではなくなった。
リゼルの生い立ちを考えれば、レイラに固執するのは理解できる。
ただ、この度を経て、彼の着目する対象が広がった。
あのリゼルが、ここまで丸くなった。
(二人とも……信じるからな)
レイズ、マリナの二人は集中して自分の課題に取り組んでいる。
わざわざ近寄って茶々を入れるのは、無粋だ。
「くそ……」
手の中に広がる太陽。
レイズはそれの安定化に苦戦していた。
(俺は……全然だな)
大きな力を扱のには慣れている。否、慣れている『つもり』だった。
良くも悪くも、繊細さよりも力に引っ張られる場面が多かった。
龍力を構築・生成する土台に繊細さが重要なのは理解しているつもりだったが、術や技を出す際にそこまで心掛けていなかった気がする。なぜなら、それで技が出せてしまうためだ。
レイズは思う。
レイや、その仲間との『差』。
力関係で負けているのは大前提だが、龍界に行っていなさそうな彼らに強大な力が扱えているのは、恐らく『練度』だ。
これは龍力者の歴とは意味が違う。
自分の龍と向き合い、そして、その力と向き合う。
雑に龍を使うのではなく、一発の龍力を丁寧に作り上げ、洗練された術技に乗せる。
一瞬一瞬で目まぐるしく変わる戦場でも、彼らはそれを怠らないのだろう。
そうすることで、彼らの龍力の調整スピードや構築・生成スピードが鍛えられていく。
それが、超強力な龍力者へと繋がる。
(心のどこかで……テキトーになってたんだな……)
ある程度の精神力、龍とのシンクロがあれば、自滅せずに龍力は扱える。
だが、それは有象無象の龍力者レベル。
レイクラスの敵と対等に戦うためには、今まで意識していなかったことにも気を付ける必要がある。
(だろ?ソル……俺はそこを見てなかったから……)
苦手ながらも集中し、龍力を丁寧に構築していく。
小さな太陽が輝きと熱を増す。
(だから……『声』が聞こえないんだ)
炎龍時代に聞こえていた『声』。
声が聞こえる基準は解明されていない。つまり、『これができた』とか、『あれができれば』というものがない。
生前の龍の性格に大きく依存するため、個人差が大きい。
要は、炎龍に認められたからと言って、他の龍に認められるかは別問題、と言うわけだ。
レイズのケースは更に特殊で、太陽龍王の魂が宿っている。関係あるかは分からないが、現太陽龍王の期待もある。
(やってやるさ……レイに、勝つんだ……!!)
かつてないほどの集中。
全神経が目の前の太陽と繋がっている気さえする。
小太陽の炎の流れ、ゆっくりと回転する速度、発せられる熱。
全てが繋がり、自在に操れる気分になる。
今でも十分強い力だが、レイズはまだ満足していない。
(まだだ……ここで妥協するなんて、ソルは許さねぇ……それに……)
炎が大気を焼く。
(俺だって……!!)
小太陽が少し大きくなる。
龍力が膨れ上がり、コントロールが一層難しくなる。
その時、レイラの声が響いた。
「光が!!消えそうです!!」
「…………」
返事はしない。否、それすら省略し、目の前の太陽に集中したかった。
応答がないレイズに困惑する様子もなく、レイラはマリナの雷に集中する。
彼女の雷の強く激しいが、盃が光るほどのそれではない。もっと強く、そして、繊細に。
「…………」
マリナもそれを分かっている。
脳をフル回転し、龍力をコントロールしていく。
大きさ、繊細さ、そして、緻密さ。
(マリナ=ライフォード!!しっかりしろ!!)
目をしっかり開く。瞬きの時間すら惜しい。
歯を強く噛みすぎて痛む。だが、気にしない。
一切の妥協を許さない。ここで一瞬でも緩み、到達しなかったら、間違いなく一生後悔する。
「光が……!!消えます!!」
「「行け……!!」」
レイラの声と同時に、レイズは盃に、マリナはレイラの手の中にエネルギー体を落とした。
その瞬間、6体の龍が光り、紋章が繋がった。
ヴン、何かが起動するような音を響かせながら、祭壇は更に強い光に包まれる。
その刹那、マリナは見た。
涙を流しながら親指を立て、笑っているレイラを。
「ッ……!!」
自分も、レイラたちの域に到達できた。
マリナは溢れる涙を堪え、口元を押さえながら俯いた。
湧き上がる喜びを噛みしめながら。
この日、アルカリオンから一本の光の柱が天に伸びた。
この光は、単なる白い光ではなく、様々なカラーの光であった。
それらは美しく混ざり合い、神秘的な光の柱であったと見た人間は言う。
天国への道であるかのように。