―盃に光を―
レイズ、バージル、リゼル、マリナ、ミーネの挑戦が続く。
五人とも、力は十分高まっている。
レイの件がなければ、騎士団の誇りとなっていただろう。
ただ、力だけではダメだ。レイたちは、その先の領域にいる。
「きちぃ~~~!!」
タイムリミットは存在するが、それに気を取られると絶対に失敗する。
それが分かっているから、彼らは目の前のことに集中する。
リミットの目安はレイラが知らせてくれる。
彼女はマリナについているが、最も盃を確認しやすい場にいる。
だから、彼らは目の前の盃に集中できる。
エネルギーバーをかじりながら、レイズたちは苦戦苦闘する。
唯一(?)助かっているのが、戦闘ではないこと。
生死を決するような敵はいないため、龍力の残量を気にせず集中できる。
そんな中、最初にコツを掴み始めたのは、ミーネであった。
「もう少し……」
ミーネはエネルギー体を球体にすることに拘るのをやめ、刺々しい氷の結晶にすることにしていた。
球体にするルールはないと判断した結果だが、盃の形にあった球体にする必要があるなら、練り直しとなる。
それでも、彼女は自分がやりやすい形から寄せていくスタイルを取った。
「よし……!!」
ミーネの手の中には、美しい氷の結晶が煌めいていた。
盃の大きさに合わせ凝縮しているため、エネルギーの密度も高い。戦闘中では決して作り上げることがないであろう力の結晶だ。
「点いて……!」
ス、と澄んだ音を響かせながら、ミーネは龍力を盃内に落とす。
すると、氷の結晶が眩い光を放ち、盃から蒼龍の銅像へと龍力が巡っていく。
血液が循環するように、その光は幾度も往復する。
そして。
「やった……!!」
盃内に蒼い光が充満し、銅像の目に光が宿る。
「できたわ!」
彼女の嬉しそうな声が響く。
しかし、仲間たちは彼女を見ない。興味がないのではなく、目の前のことに集中しているため。
それに、現場を見なくとも分かる。
目を刺激した蒼い光。肌で感じる龍力。
(やるな)
バージルは素直に感心し、座り直す。
エラー龍力者でも、それはハンデにはならない。
どれだけ自分とその龍に向き合い、波長を合わせられるか。
そして、緻密な龍力の構築・生成。
龍魂取得が遅いとか、早いとか関係ない。
センスも関係するが、努力が全てだ。
(少し……『うねり』をつけるか……)
完全なる球体を構築・生成するのは、バージルにはハードルが高かった。
よって、風が舞うように流れをつけながら生成することにシフトする。
(あくまで、うねりだ。球体をベースにする)
球形でなくともいいことは分かったが、盃内に納まらなければならないはず。
ベースとして目指す球体からあまり大きく外れず、コンパクトに龍力を練る。
(よし……良い感じだ)
風龍のエネルギー体。
緑色の光る楕円形となり、その中で風が激しく流れている。
あとは、これを安定させ、盃に落とすだけだ。
後、少し。
「…………」
良い感じなのは、リゼルもだった。
月光龍ということもあり、彼は球体に拘った。
元々器用であったし、龍力歴も長い。月光龍歴は短いが、それは今までの経験やセンス、土壇場での適応力でカバーした。
リゼルの手の上には、小型の月が浮かんでいる。
澄んだ光を反射し、綺麗な月が生成されていた。
「月光龍……僕は、ここまで来たぞ……?」
自分の力を誇示するように、わずかに口角を上げるリゼル。
月光龍に変わり、仲間内で下位であったことを密かに気にしていた彼は、この成功体験が非常に嬉しいのだ。
龍力も安定している。エネルギー量も申し分ない。
後は、これを落とすだけだ。
「僕らの、勝ちだ」