―光を灯せ―
「要はこの盃に光を点けりゃぁ良いんだろ?簡単じゃん」
難しい謎解きも、入り組んだ迷路もない。
至ってシンプル。こちらとしては大歓迎だ。
レイズは盃に手をかざし、龍力を高める。
「…………」
龍力を高めて数秒。
手の下の盃も、盃の後ろにある龍の石像も無反応だ。
「おい、反応しねぇぞ」
「え……?壊れてんのか……?」
「な訳……」
バージルに言われ、盃を覗き込みながら龍力を維持しているレイズ。
相変わらず変化はない。
「んじゃ、俺はこっちで」
レイズのやり方が合っているかは分からないが、マネしてやってみよう。
バージルは風龍の石像の前に移動し、手をかざす。
仲間はそれらを背後から見守っている。
「光れ……光れ……」
バージルも龍力を高めながら念じるが、盃も龍像も変化はない。
「何も……起きません、ね……?」
「あぁ……」
レイラはメモ用紙を裏表見てみる。しかし、用紙にはそれ以上のことは書かれていない。
それに、用紙が古く、あんまり弄繰り回すと塵となってしまいそうだ。ヒントも書かれていそうにないし、これ以上は触らない方がいいだろう。
「導火線っぽいのもないわ。どうやって定着してるのかしら?」
石像や盃を調べていたマリナ。
土龍の盃には間違いなく龍力が定着している。だが、その仕組みは謎だ。
ろうそくのように糸があるわけでもなく、ツルツルだ。
「……龍力を『置く』感じでしょうか?」
レイラは丁寧に龍力を高め、掌へと集めていく。
そして、ゆっくりと盃にそれを落とした。
すると。
「!」
盃と龍の目が光り、盃の中で力が充満した気がした。
しかし、その光はすぐに消え、龍力を注ぐ前の状態へと戻ってしまう。
「……レイラのでやり方は合っているらしいな。定着しなかったのは……単に力不足か……」
リゼルは「力不足」と表現せざるを得なかったが、一般的な龍力レベルから言うと、十分な力であることに違いはない。
つまりは、半端な力では切符すら買えない、ということか。
「……やるか」
龍魂では力不足と判断し、フル・ドラゴン・ソウル状態となる。
そして、龍力を練り、盃に落としてみる。
「…………」
盃内に月龍の光が充満する。
(来たか……?)
そう思った瞬間、光が消え失せ、月龍の力も感じられなくなる。
「……ダメか」
「……のようですね」
龍魂、フル・ドラゴン・ソウルでもダメ。
盃の反応から考えても、力を注げば注ぐほど良いのは明らかだ。
「おい、全力で龍を解放しろ。その力で一気に注げ。フル・ドラゴン・ソウルじゃ足りない」
「マジか」
「うし」
白龍のレイラとマリナは、一旦マリナに変わり、マリナが盃の前に立つ。
そして。
「「「「「!」」」」」
5人の龍力が一気に膨れ上がり、この空間を揺らした。
狭い空間でフル・ドラゴン・ソウル以上のレベルの龍力が吹き荒れている。
屋外で戦闘しているとき以上の迫力だ。
凄まじい龍力に大気は震えているが、不思議と祭壇の壁はビクともしない。
力の衝撃に耐えられるだけの強度はあるらしい。
「く……!」
「どうしたよ……!?」
「力と……操作が……!」
見ると、レイズの龍力が不安定になっている。
力と繊細な龍力の生成の両立。それが上手くできていない様子であった。
それを見た後、バージルは自分の龍力を見る。
手の中で激しく光る緑色のエネルギー体。だが、形は歪だ。
綺麗な球体にする必要があるかは不明だが、繊細な龍力生成ができていないことは容易に想像できる。
このまま盃に龍力を落としたとしても、届く前に粒子と化し、消えていくだろう。
「おい!俺のは『きたねぇ』!そっちはどうだ!?」
自分の龍力に集中したまま、バージルは叫ぶ。
「だめ!全然まとまらない!!」
「これ難しすぎない!?」
マリナ、ミーネの慌てたような声。彼女たちも上手くいっていないようだ。
「リゼル!!」
「うるさい!!」
四文字で分かる。あいつも上手くいっていない。
「ちょっと一旦戻さねぇか!?」
「分かった!」
「えぇ!」
力さえ込めればいいと思っており、ここまで上手くいかないことを想定していなかった仲間たち。
龍力維持がしんどくなり、バージルたちは龍力を一旦落とす。
龍技や龍術で扱う『龍力』とはまた別のセンスが必要だと思い知るレイズたち。
悔しさを飲み込み、再挑戦しようと精神を整えるのであった。