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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
523/689

―弱い自分―

「…………」


リゼルは頭の中でクオル戦の記憶を探っていた。

呪いのせいか、明確には思い出せない。ただ、大雑把には浮かんでくる。

その中で、リゼルは心の中で舌を打った。


(ち……まだまだ、だな……)


確かに、クオル戦の後、自分で自分が制御できなかったように思う。そのスキを突かれた。


制御できない荒々しい感情の数々。

クラッツを責めても意味がないのに、口撃してしまった。ただ、少なからずクラッツへの不信感はあった。クラッツにぶつけた思いは今も変わらない。だが、その負の感情が増幅されたものであった可能性は大いにある。


恐らく、呪いによりその感情が増幅し、普段以上に強く当たってしまったのだろう。そして、エネルギーを使い果たした後は、空虚。

意識が朦朧としており、思考もままならない。レイラの呼び声は聞こえるが、応答できない。短い言葉しか発することができない。



(三対一で互角、だったか……)


リゼルはクオルと剣を交えていたことを思い出す。

あの時は、入れ代わり立ち代わりで攻撃の手をなるべく止めないように動いていた。実際は、上手くいかなかったのだが。


数の有利の上で、力はほぼ互角のはずだった。したがって、うまく立ち回れていれば、勝ちを拾えた戦いだったように思う。しかし、時間経過と共に、思考が乱れていった。


レイズとバージルの立ち回りの悪さにも苛立ち、レイラサイドの戦況も気になり、集中できない。

一緒に戦っている二人も動きは悪くなかったのだが、ふとした瞬間にお互いがお互いの邪魔をするように立っているときがあった。感覚が手に取るように分かる『フル・ドラゴン・ソウルの上の段階』ではなく、まだ『力』に頼っている証拠でもある。


思うように動かない仲間に、敵に攻めきれない自分。そして、レイラサイドの戦況。

その焦りにより生まれた心のスキ。まんまとクオルに付け入られてしまった。


剣がぶつかり、力比べをしているとき、クオルは言う。


「……きみでは、王女を守れないよ」

「ッ!」

「きみは、弱い」

「!」


今までの旅から感じていた、自分の無力さ。

心に抱えていた悩みと、そこを初対面の敵にピンポイントで突かれた動揺。

クオルの呪いは、そこからリゼルの体を蝕んだ。



「リゼル?」

「!……あぁ……何でもない」


深く考えすぎてしまったらしい。

リゼルは息をつき、考えるのを止める。


シャレムは念押しの意味も込め、口を開く。


「……しつこいようだけど、ホンモノの闇龍の呪いだったら、進行も症状ももっと進んでるわ。解除の難易度も、ね……当時のあなたは、不器用に構成された呪いに蝕まれるほどの精神レベルだった、ってことになるわ」


リゼルはその辺の龍力者とはレベルも戦闘経験も違う。自分が闇龍だった経験もある。

そんな彼が、威力の劣る他属性の呪いに掛かってしまった。


クオルがすごかったことと、リゼルが乱れていたこと。

両方が重なり、リゼルは『こう』なってしまった。


「……助かった。すまない」

「あら、お礼ならこのコたちにも言うべきじゃない?」


人差し指を伸ばし、仲間を示すシャレム。


「…………」


見ると、レイズたちが満面の笑みでこちらを見ている所だった。


「……必要ない」

「「あ˝ぁ˝!?」」

「……リゼルらしいわ」

「ほんと、ね……」


レイズ、バージル、リゼルの取っ組み合いが始まり、マリナ、ミーネがなだめるように周囲から声をかけている。

その様子を見て、「仕方ないコ」と息をつくシャレム。すると、恐る恐るレイラが声をかけてきた。


「シャレム、さん……」

「ん?どした?」

「リゼルは、ずっと山頂が気になっていたみたいでした」

「あ~山頂には城と祭壇があ「いえ、たぶんですが、呪いが解ける人物を感じていたのかと。シャレムさんが現れてからは山頂を見向きもしませんでした」

「へぇ……」


一種の生存本能かしらね、それとも、龍が……と興味深そうに考えを巡らせるシャレム。

前後したが、レイラが聞きたいのはその事ではない。


「その……私では力不足、と判断されたのでしょうか……」

「ん?」

「私だって光龍です。ですので、それなりに治癒術の知識はあります。ですが、リゼルは私に反応しなかった」

「……レイラ様。その答えは、あなたにとって残酷なものよ」

「!」


口調は穏やかだが、心に刺さるものだった。

リゼルは自分ではなく、シャレムの力に反応した。その力関係は明白だ。


「フォローするとすれば、『状態異常を治癒』と一口に言っても、質が違うわ。毒を取り除くのと、麻痺を取り除くのでも、龍力の構築方法が違うでしょ?」

「はい……」

「それに加え、術者や魔物の強さも関係するわ。複雑な龍力なのか、強力な魔物か、でね」

「分かります」


コク、とレイラは頷く。


「それで言うと、この『呪い』は厄介だった……それが言えるわ。力不足とか勉強不足とか、気に病む必要はないとは思うけど……そんな割り切れないわよね」

「えぇ……まぁ……」


フル・ドラゴン・ソウルや、それ以上の力を意識する際に思う言葉だ。

龍力は力も知識も必要だし、それ以外の要素も密接に関わる。

それは、単なる力だけでなく、治癒術にも大いなる影響を与えるものである。


「『呪い』に関してはちょっとアレかも知れないけど、あたしからすればレイラ様も強い龍力者よ」

「…………」

「彼のセンサーに外れたのは、彼のセンスがなかったからだと見せつけてやりなさい」

「はい!」


見せつけられた力の差。

だが、いつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。


レイラは静かに拳を握りしめるのだった。

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