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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
522/689

―他属性の呪い―

山頂から現れた人物は、四聖龍が一人、シャレムだった。

普段の服装とは違い、修行僧のような格好だ。剣の振りに影響するためか、袖は、落としているが。

フランバーレの戦闘服に似ている部分もある。

これが、彼女の特訓の衣装と言うわけだ。


「……嫌な姿を見られたわね」

「いえ……」


初登場時のファッション誌に載っていそうな黒服でもなく、騎士団のように機能性デザイン性優れた服でもない、特訓するためだけの服。髪も手入れが追い付いていないのか、痛んでいる部分も見える。

シャレムもそれだけ本気の特訓をしていたのだろう。


ギャップに戸惑う部分はあったが、それでも彼女に会えて、嬉しい。本人は、人前に出れる状態ではないと嫌がったが。


「で、あんたたちは何でこんな場所に?それも、裏から」


広場に座り、一人一人を見回すシャレム。

当然の疑問だ。


「えっと……気分転換?に……それに、ここならシャレムさんたちに会えるかも……なんて」


言い出しっぺのマリナが責任をもって彼女に話す。ミーネもしきりに頷いて見せる。


「なるほど、ね……」

「はい」

「それにしたって、気分転換で来る場所じゃないわよ。あたしたちがいるかもって……そりゃ、いたけど……」


もっとパーッと遊べばいいのに、とシャレムは笑う。

その笑みを見て、レイラはなぜか安心する。


「そんな気分にもなれなくて……」

「なぁ、レイラ。シャレムさん、あのこと知らないはずだ」


四聖龍たちは、試験のことを知らないはず。

レイズたちがここまで思い詰めているのは、その一件が大きい。そして、リゼルのことも。


「あのこと……?」

「シャレムさん。あの後、私たちは……」


レイラは話した。


『あの島』に興味をもっている、無所属の強い龍力者を引き入れるため、騎士団はある試験を行ったこと。

結果から言えば、新戦力となる龍力者はゼロ。それだけでなく、敵の侵入を許してしまい、挑戦者や団員に怪我を負わせてしまったこと。

その敵がかなり強く、自分たちもギリギリ勝てたこと。

敵をほぼノーフィルターで通してしまったことで、リゼルが怒り狂い、騎士団と大きな溝ができてしまったこと。

そして、そのリゼルは、今抜け殻のようになっていること。山頂途中で引き返そうと考えたが、数少ない彼の意思でここまでやってきたこと。


「……ごめんなさいね。そんなことになってたなんて」

「いえ、シャレムさんが謝ることでは……」

「『四聖龍』を背負っているあたしたちがもっとしっかりしてれば、そうならなかった」

「それを言うなら、騎士団も……」

「新戦力は何人いても無駄にはならないわ。それに、その試験をしたことで救われた命もあるでしょ?」

「それは……可能性の話ですが……」


結果はどうあれ、試験を行ったことで、島へ渡ることを諦めた人間は多いだろう。

島に渡るタイミングをずらしただけで、まだ行きたい意思がありそうな感じではあったが。


「試験を受けた人間は島で死ぬことがなくなった。それは事実よ。少しでもプラスに考えないとね」


足を組み、フフ、と笑うシャレム。


「で、リゼルの件だけど」


仲間が座っている間も、立ったまま斜め下を向いているリゼル。

先ほどまでは山頂を向いていたのだが、今は興味が失せたのか、上を見向きもしない。


「……呪い、ね」

「!」

「呪い……?」


ざわつき、仲間を見比べるレイズたち。


「クオルは地龍だったぞ?」

「あぁ。それに、そんなスキは……」


そこでバージルは思い出す。リゼルと戦っていた時、クオルはなにか喋っていた。


「自分の属性しか使えない龍力者は多いけど、『他属性』を扱う龍力者がいることは事実よ。そのクオル?ってコが闇の力を使えても不思議はないわ」

「シェキナーも……闇の『毒』を使ってた……」

「……自分の不得意な力を理解、構築するのよ。相当苦労したでしょうね……」


ミーネは胸の前で拳を作る。

実際、彼女の憎悪は凄まじかった。ミーネが今まで積み上げてきたもの。それが少しでも欠けていれば、負けていた可能性が高い。


「でも、その様子を見る限り、解除は簡単よ。重たい呪いを習得する力も技量も時間もなかった感じかしら」

「!」

「彼の弱みからくる遅効性の呪い……戦いの後も苦しめようって算段かしら」


よっ、とシャレムは立ち上がり、リゼルの前に立つ。


「安心なさい。今、治すわ」


彼の顔の前に手をかざし、龍力を高める。

力強い光が彼女とリゼルを包む。


「多分、治せる人間を感じていたのよ。期待に応えないと、ね」

「……!」


光が治まり、リゼルがふらつく。

シャレムはそれを支え、倒れないようにする。


「リゼ…!!」

「ッ……!!」


リゼルは小さくうめき声を上げる。その後、ゆっくりと目が開く。

表情から空虚さが抜ける。


「僕……は……?」

「もど……った?」

「おまえたち……と……四聖龍……」

「シャ・レ・ム・さ・ん・よ」

「あぁ……シャレム……」


やり取りができている。

その様子を見、戻った!と喜ぶレイズたち。ただ、リゼルはハッキリと状況が理解できていないらしい。

喜ぶレイズたちに戸惑っているようだ。


「呪いから解放された気分はどう?」

「……呪い……だと?」

「えぇ。クオル?ってコがかけたであろう呪いよ。呪いも種類が多いけど、あなたのケースは、情緒不安定からの無気力化。それにより、騎士団の戦力を間接的に削ごうとしたものね」

「ッ……」

「クオルが闇龍じゃなくて良かったわね。本職だったら、もっと症状は重い上に、解除も困難よ?」

「あぁ……チッ……」


リゼルは頭を押さえる。


「!痛みますか!?」

「いや、平気だ……」


彼は目頭を押さえ、頭を振る。


リゼルが無事で、本当に良かった。

レイラは胸をなで下ろし、静かに微笑んだ。

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