―山頂前の―
レイズたちは適当な場所で一晩過ごし、翌日に登山を再開した。
明かりもない山道を行くのは危険と判断したためだ。それに、ぶっ続けで登山する体力も気力もレイズたちにはなかった。
「流石に野宿は疲れが抜けないな」
「あぁ……最近は帰れてたのがデカい」
久しぶりの野宿。
冒険時は慣れたと思っていたが、身体は正直だ。
眠りが浅く、だるさが抜けきっていない。
「置いていきますよ?」
歩く速度が落ち、最後尾のレイラ&リゼルに追い抜かれそうになる。
「まだ行けるって」
そう言いながら、リゼルの様子を確認するレイズ。
相変わらず虚ろだが、目指すべき山頂を見つめている。
今までずっと足元を見つめていたことを考えると、良い傾向である。
何がそこまで彼を駆り立てるのか。その先に、何が待ち構えているのか。
「…………」
レイズは唾を飲み込み、密かに気合を入れ直す。
(絶対、なにかある……あいつは、無意味にレイラに頼みごとをしない)
何があるかは分かんねぇけど、と首を捻り、足を速める。
「…………」
リゼルの少し前を歩きながら、レイラは仲間たちに感謝していた。
マリナもミーネも黙って前を歩いてくれている。レイズ、バージルの二人もなんやかんや言いながらもこのグループから離れることはしない。
(本当に……本当に素敵な人たちです)
彼らに打算はない。
ただ、純粋にチームのことを思い、離れずに協力してくれている。
レイラは女王という立場であるが、そこに壁を作ったり、一戦引いたりすることなく、ほぼ対等に接してくれる。
レイラの周囲に、打算なく近くにいてくれる人間は少ない。
数少ないフラットな関係でいてくれる彼、彼女たちを本当に大切にしたいと思うレイラ。
もちろん、リゼルもその一人だ。
山頂に何が待ち受けていようとも、リゼルが前に進みたいと思う限り、自分も、そして仲間も進む。
(あなたのボヤきがないと、物足らないですよ)
と、先頭を歩いていたマリナとミーネの足が止まる。
気付けば、山頂の手前ほどまで来ていた。
「はぁ……はぁ……」
昨日見えていた王都が更に小さくなっている。
レイラは足を進め、止まっている彼女たちに追いつく。
「どうしました……?」
「いや、少し広場っぽくなってて……」
「あ……」
人通りが少ないであろう整っていない道。そして、人の手が入っていない草花や木々により、広くない山道がずっと続いていた。
そこから一変。
スペースを要さないスポーツならできそうな広場が目の前に広がっていた。
明らかに人の手で整えられており、テントを広げた跡や焚火の跡も残っている。
「最終休憩所……ですかね?」
「かも、ね……休憩するには距離的に半端だけど……」
ここで休憩するくらいなら、一気に進んでしまった方が良さそうな位置関係だ。
「先の道もだいぶ広いわ。助かる~……」
広場の先に見える山道。今までの道よりも広く、人の手が入っているのは明らかだった。
「ふ~……」
どさ、とレイズは座りこむ。
人一人が十分座れるスペースがあるのは有難い。
道中は道が整っていないこともあり、リラックスできる空間ではなかった。
「……少しだけ休みましょうか」
「よっしゃ」
バージルも座り、水筒の水を飲む。
マリナ、ミーネも腰を下ろし、思い思いに水分や栄養を補給した。
喉を潤したバージルは、応答がないことを前提の上でリゼルに話しかける。
「で、リゼルよ。何を感じたんだ?」
「…………」
ただ一人、リゼルは腰を下ろさず、ずっと先を見つめている。
「……ま、そのうち教えてくれや」
案の定だ。
バージルは肩をすくめ、息をつく。
その直後だ。山頂側の山道から足音がし始めたのは。
「!」
この感じ。魔物ではない。人間の物だ。
「…………」
レイズたちは音を立てないよう立ち上がり、構える。
山道を降りてきた人物は、レイズたちも知っている人だった。
金髪ロン毛。凛々しくも美しくも感じる美貌。
「……シャレムさん!?」
「え?あなたたち……!?」
予想だにしていない人物の登場に、レイラたちは口がポカンと空いた形となる。
それはシャレムも同様だったようで、今まで見たことがない抜けている顔になる。