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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
520/689

―視線―

シン、とレイズたちは静まり返る。


風の音、海鳥が鳴く声、波の音、木々のざわめき。

自然の音のみが周囲に響いている。


レイズたちは衣擦れの音も立てないよう、その場で固まっている。

どうしていいか分からず、皆仲間たちを順番に見比べる。

その中でミーネだけが一点を見つめていた。視線の主がいるであろう一点を。


「…………」


ミーネが感じた視線。

それは、登山道の脇の林からだ。このまま進めば、ぶつかる。


「ミーネ?」

「……皆は感じなかった?」

「……うん」


マリナの弱気な声。正直、何も感じなかった。

その声の後、首で合図するレイズ、バージル、そしてレイラ。


「うそ……あたしだけ……?」


気のせい?いや、確かに感じた。


魔物のものではない、確実に人間の視線だった。

こちらを観察するような、見張っているような。

だが、敵意は感じなかった。

それに、こちらが臨戦態勢に入った後でも、視線の主に動揺は感じられなかった。こちらが臨戦態勢に入った後も、平常心を崩さなかった証拠である。

龍力者であれば、相当な使い手だ。


「…………」


唯一視線を感じたミーネ。

自分が頼りだ、と周囲の龍力を探る。


しかし。


「え……消えた?」


視線とその気配。

両方が完全に途絶えてしまった。


「え……逃げた……?」

「……音もなく、か?それに、かなりの崖だぞ……?」

「気配が消えただけかも……見に行くか?」


バージル、レイズは剣を抜く。


「……止しましょう。わざわざ顔を合わせる理由がありません。それに……」


レイラはリゼルに目を落とす。

これ以上彼に負担はかけられない。


「もう……十分です。今から戻れば、夕方には麓に着きます」

「そう……分かったわ」


レイズたちが下山の準備を始めようとした時。

唐突にリゼルがレイラの腕を掴んだ。


「きゃ……!」


レイラは彼を見る。が、視線が交わることはなく、彼はアルカリオン山頂を空虚な目で見つめている。


「……行く。行かせて……くれ……」

「リゼル……?」


訳も分からず、顔を覗き込むレイラ。

当然だが、素人の彼女にリゼルの表情から心理は読み取れない。

だが、山頂に行きたい。その意思は伝わった。


「……というわけで……お願いします」

「おう、良いぜ」

「久しぶりだな……あいつが自分から何かしたがったのは」


久しぶりのリゼルの要求。

視線の主からは完全に方向が外れているが、彼なりに何かを感じ取ったのか。

レイズたちは、登山を再開することとなった。







「……ふぅ」


レイズたちが去った後。

脇の林から一人の男が姿を現し、服に着いた枝葉を払う。


「流石……だな」


男はアルカリオンを見上げ、そう呟いた。

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