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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
519/689

―クオル戦で―

休憩を挟みながら、レイズたちは進んでいく。


裏の登山道はよくできており、どう頑張っても一般公開されている登山道とぶつからないようになっていた。

それだけではなく、多少強引に進んだとしても、木々や崖が邪魔をし、人間が進めないようになっている。

不思議と魔物の生態系も異なるらしく、表の登山道よりも数段強い魔物が住み付いているらしかった。

尤も、レイズたちにアルカリオン登山経験がないため、そういう話レベルでの理解ではあるが。



「結構来たな~。見ろよ。町がすげぇちっちぇえ」

「はえ~!」


木々の合間から見える海や町の景色。水面に反射する太陽光が美しい。また、大陸の端に見える王都が小さく、ミニチュアのようだ。

かなり高いところまで登ってきている。


ここまで来ても四聖龍の姿はなく、皆『ハズレ』か、と思い始めている。

と言っても、そもそも四聖龍に会いに来たわけではなく、可能性の一つとして考えていただけ。


気分転換の登山もここまでガチになるとは思ってもいなかったが、これはこれで構わない。


「どうする?最後まで行っちまうか?」

「そう、ですね……」


チラ、とレイラはリゼルを見る。


リゼルは渡されたカップスープに目を落としている。渡した時は熱々で湯気が立っていたが、今それは立っておらず、冷めてしまっている。


(さっさと飲めよ)


と言いたい気持ちを飲み込み、レイラに目配せする。


「はい……」


レイラは立ち上がり、リゼルに近づく。


「リゼル?温め直しますよ?」

「……あぁ」


ス、とカップを突き出すリゼル。

レイラはそれを受け取り、すまなそうに謝る。


「……ごめんなさい。つまらない……ですよね」

「…………」


返答に困っているのか、「あぁ」や「いや」とも言わないリゼル。


「最近思い詰めているみたいでしたので……マリナたちも心配していますよ?」

「…………」


レイラが振り返り、仲間の姿を見るように促す。


リゼルもそれにつられ、少しだけ顔を上げる。伸びた前髪で外からハッキリと目は見えない。が、隙間から見えるそれには、眼光がない。


レイズたちは手を振るように手首を背屈させて見せるが、反応はイマイチだ。


その様子を見ながら、レイズたちは小声で話し始める。


「けど、ここまで来れる体力とか、気力とかはあるんだよな」

「そうだね……」


一応口元もカップやナプキンで隠し、喋っていることを悟られないようにする。


「全部レイラのお陰か。けど、戦わせるには不安な状態だな」

「うん。龍力もあまり使っているようには見えないわ。少なからず身構えるかと思ったけど……」


幾度となく行った戦闘。

距離があったとは言え、目の前で戦闘が始まったなら、少なからず龍力を高めるのが龍力者の性だ。

だが、リゼルにはそれがなかった。


体力や気力は落ちていない様子だが、戦場復帰するための何か。それが彼にはない。


「レイラが戦ってみるか?でも、あの感じだとな……」


レイラが戦闘に参加せず、自分の近くにいる状態。

それでも、先述のように目の前で戦闘が行われていても無反応なのは厳しい。

微弱でも龍力の上昇があれば、可能性はあるのだが。


「……戦う気がないのか?」

「剣持ってきてるし、それはないんじゃ……」

「それに、身を守るためには戦わないと……」


あれでもない、これでもない、とコソコソ会話するレイズたち。

そもそも、リゼルの場合、原因が一つとは限らない。


試験直後は荒れてはいたものの感情豊かにキレ散らかしていた。

そして、段々と顔を見せなくなり、今は抜け殻のように空虚だ。


きっかけは、間違いなくあの試験とクオル達との戦い。

ふと、ミーネは呟く。


「クオルに何か言われた?」

「え?いや……喋ってる余裕なんかなかったと思うけど……」

「俺も、特には……」

「そう……」

「いや、あいつ個人になら言った可能性もあるぞ」


バージルは戦闘時のことを思い出し、考え込む。


「ホント!?」

「あぁ……」


バージルによると、クオル戦はかなり拮抗していたという。

それは、結果的に引き分けに終わったことでレイラサイドも周知の事実。


したがって、お互い口を動かすよりも戦いに集中していた。

そして、その中で戦いに集中できず、一番焦っていたのはリゼルだった、と。


「レイラのこと?」

「多分。三対一で超有利だったのに、かなり手こずってたから……結果的にレイラと分かれたのは失敗だったのかもな。まぁ、二人だったら負けてたけども……」


バランスが難しかった、とバージルは締める。


「そう……で、リゼルの焦りって……クオルにもバレてるわよね。それ」

「あぁ。あのクラスの龍力者が分かってないとは思えない」


クオルとリゼルやり取りに気付かなかったレイズだが、リゼルの焦りはよく分かった。

自分でも分かったのだから、クオルだって分かっただろう。


バージルはレイズの後に喋る。


「それで、リゼルと戦ってる時だけ口が動いてた気がするんだよな。明らかに何か喋ってる感じ

「……聞こえた?」

「いや……さすがに、な……」


確認するようなマリナの問いに、レイズとバーバルは首を傾げる。


それもそうか。

戦闘中は四方八方で様々な音が響いている。その中で小さな声を聞きとるのは至難の業だ。


レイズたちの間に沈黙が流れる。

クオルが何か喋っていたのは確認できたが、解決法には至らなかった。


「……帰るか」

「そう、だな……これ以上あいつを連れまわしても……」


仲間たちが頷き、立とうとした瞬間。


「誰かいるの!?」


ミーネが突然声を上げる。


「!」


仲間たちは一斉に剣の柄に手を掛ける。唯一、リゼルだけは微動だにしなかったが。

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