―霊峰アルカリオンへ―
霊峰アルカリオン。
王都の北にある最高峰の山だ。
アルカリオン自体は登山ができることや光龍神殿があることもあり、人の出入りは多い。
だが、それは公になっている港を使えば、の話だ。
マリナたちが知っているのは、裏。
港でも何でもない場所で、彼女たちは船を降りる。
砂浜が広がるビーチとは異なり、石ころがゴロゴロしている。足場が非常に悪い。
「少し進めば、落ち着くわ」
石ころだった足場が土へと変わる。
そこで、レイラたちは大地が所々抉れていることに気付く。
「これは……?」
「……二人の特訓の跡ね。出来る限り戻そうとはしたんだけど」
ミーネは四聖龍との特訓の日々を思い出し、目を細める。
シャレムとアリシアの龍力の上昇幅は凄まじかった。自分たちが龍王の力を得ているにも関わらず、それに劣らない力だった。
二人だけではなく、アレクとウィーンもかなり龍力を上げてきていた。
それだけ厳しい、かつ自分とその龍に合った特訓方法を見つけたのだろう。
「……いないな」
「奥に行ってみるか」
四聖龍の本気の戦い。その爪痕。
その壮絶さに身震いしながらも、いるか分からないシャレムとアリシアを探す。
「奥に行くのは初めてだわ」
マリナがポツリと呟く。
「ってことは、二人はいない可能性が高いか……?」
「いえ、わたしとミーネはいかなかったけど、わたしたちがいないところで行ってる可能性はあるから……」
「……道案内はさっきのとこまで。って感じね」
力になれなくてごめん、とミーネは続けた。
「いいんです、元々気分転換の一環ですし」
「そうだぜ。リゼルのあれから見ても、王都にいるのはヤバそうだったからな」
国民からだけでなく、騎士団内部、しかもすぐそばにいるリゼルからも危ぶまれている。
そんな精神状態でその騎士団に近いところに居続けるのは、精神衛生上よろしくないはず。
リフレッシュできるかは全く不明だが、外に出ることは気分が変わることもある。
「いたらラッキー、ってな」
バージルはあまり整っていない登山道を歩き始める。
「あいつ……大丈夫か」
「…………」
リゼルは最後尾を少し離れて着いてきている。
レイラが気を遣い列の後ろにいるため、黙って消えたりはしないだろう。が、彼の顔は今にも『何かやりそう』だ。
無感情に着いてきている、と言っても過言ではない。
聞けば、食事もロクに摂っていないらしい。以前よりも痩せている気がする。
(つってもな……できることが分かんねぇ……)
声掛けしても、小声で「平気だ」としか返ってこない。
最近はミーティングにも顔を出さず、レイラの護衛もままならない状況だ。
部屋にはいないようだが、日中何しているのかも分からない。勤務時間でも騎士団の服を着ていないときさえある。
「魔物も強いわ。わたしたちで何とかするから、レイラはリゼルについていて」
「はい……治癒術はお任せを」
道中、狼系の魔物や鳥系の魔物にも遭遇し、戦闘を行った。
その際も、レイラが前線に立っていないためか、リゼルは戦おうとしなかった。
剣は腰に下げているが、柄を握ろうともしない。
「……よっぽどだな」
戦闘後、剣に着いた血や毛を払いながら、レイズは言う。
「あぁ。結構戦ったが、協力する気配すらねぇ」
動かないリゼルに苛立つ一方で、このまま進んでもいいのか、と心配になる。
レイラの懸命な声掛けにより、進むことはできている。だが、レイラを守るような佇まいはない。
彼女のマリオネットのように、言われるがままだ。