―気分転換―
レイズたちは、騎士団本部の休憩室でミーティングもどきをしていた。
試験日以降は仕事もセーブしており、やることがない。かと言って、悠長に休んでもいられないため、こうして顔を合わせ、モチベーションが落ちないようにしている。
だが、リゼルの姿はここにはない。
「……今度はリゼルが気が立ってるな」
「あぁ……団長も思いきりすぎたな」
先日の試験。敵の乱入。
団長の『可能性に賭けたい思い』も理解できるため、レイズたちはそこまで気にしていないのだが、リゼルはかなり気に食わなかったらしい。
元々怖い顔だった彼の表情が更に怖くなっている。機嫌も悪く、『触らぬ神に祟りなし』状態だ。
「団長の言い分も分からなくはないのよね」
「……まぁ、な……けど、重要人物の安全面をフル無視してるからな……」
バージルはレイラを見る。
「私は自分の意思で前線にいます。ですが、それとこれとは別問題ですよね……」
「騎士団で依頼をこなすのと、戦力増強の試験を……しかも身元がハッキリしない状況で強行したのはNGって感じだよな」
挑戦者たちを引き入れるのと、騎士団に入団するための正式な手続きとは透明度が段違いだ。
『あの島』に興味がある龍力者かつ強そうな龍力者を、ほぼノーフィルターで通過させている。
最低限の足切り+αの何かしらがあり、安全性が確保できていれば問題なかったのだろう。しかし、それは理想論だ。実際、挑戦者たちのほとんどが旅人のようだった。
住所があり、特定の職がある人間では、中々その二つの条件をクリアできる者はいない。
「……それだけ騎士団は窮地、ということです……このまま私たちが負けてしまうのか……それとも……」
「……結局、頼みの綱は四聖龍になんのか?」
俺らが勝てないとなると、とレイズが口を開く。
「どうでしょう……ですが、四聖龍の皆さんの成長スピードは確かに凄いです。いつも私たちの上を行っている」
「…………」
レイ戦では俺やリゼルのが戦えてた、という言葉を飲み込むレイズ。
それは、レイ側が自分たちの力量を量っていただけの可能性もある。そして、四聖龍の戦闘データは不要だと。
(実際、四聖龍はすげぇ)
レイラの言うように、四聖龍の成長スピードは凄い。龍界にもいかず、独自の特訓でレベルを上げてきている。
それは素直に尊敬する。が、勝てる勝てないになれば、話は別だ。
「当然、私たちも努力は続けますよ」
「あぁ……」
重たい空気が場を支配する。
このところ、団内の空気もピリピリしており、息が詰まる。
頼みの綱(?)の四聖龍も騎士団に在中する形をとっていないため、不安感も余計に大きい。
「しかも、あいつら……『逃げた』んだろ?」
「あぁ……」
「…………」
バージルは力なく答え、レイラは俯く。
護送中の襲撃。
黒髪長髪の刀使いの男は、一人しか思い浮かばない。
ミーネは手を組み、強く握りしめる。彼女の心の中は複雑だった。
「シェキナー……」
あの二人は、間違いなく重罪となる。もしかしたら、投獄され、一生出てこれないかも知れない。
当然と言えば当然の罪なのだが、二人は知り合いだし、出身地も同じ。そして、救われなかったエラー龍力者である。
逃げて、ひっそりと暮らしてくれれば、狭い部屋の中で生涯を終えることもない。そうなれば、と願っている自分がいる。
ただ、彼女たちがまだあきらめていなかった場合や、レイが無理矢理にでも戦いの場に出してきた場合のことを考えると、全く安心できない。
彼女たちは特に、『次はない』と考えていそうだからだ。
そうなれば、向こうは命果てるまで襲ってくるだろう。そうなれば、自分はシェキナーの命と向き合わなければならなくなる。
「…………」
重い空気が流れる。
他の雑談しようにも、先日のことが頭にチラついて話題が出てこない。
「……気分転換に出てみない?」
マリナが口を開く。
「出るって……どこに?」
「『霊峰アルカリオン』よ」
「マリナ……?」
どういうつもり?と言いたげにミーネが彼女を見る。
「わたしとミーネが一緒にそこで特訓したとこ。四聖龍と、ね……」
「え?マジでか!?」
「それは……そうだけど……」
「それに、ワンチャンそこにいるかもしれないわ。シャレムさんとアリシアさん」
「!」
四聖龍は出先を明かさずに騎士団本部から消えてしまう。
ただ、あの二人に関しては『霊峰アルカリオン』にいる可能性が高いと予測できる。
「行ってみましょう!会えるかもしれませんし」
レイラはリゼルを誘い、このメンバーで行ってみることにした。
レイズたちの頼みは聞かないだろうが、こちらにはレイラがいる。彼女の頼みならば、リゼルは99%断れない。