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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―試験―
516/689

―衝突―

試験日に大暴れした二人の素性は、『あの島』に出入りするメンバーだった。補給班として活動していた。それで出入りしているうちに、試験のことを知ったらしい。


あの島に出入りはしているが、レイの仲間と言うよりかは、目的が一致している間だけ行動を共にしているだけの繋がりのようだ。

よって、『あの島』の詳しい情勢は把握していないらしい。


島内部の詳しい情勢は知らなかったようだが、グランズのことは知っていた。

彼は生きているが、死んだ方が幸せかも、と思えるレベルで痛めつけられているらしい。

積年の恨み。彼らのそれが、全てグランズに向けて放たれているのだ。



レイラにはグランズが生きていることだけを伝え、後半は団長とハーストだけの情報とした。

ただ、問題なことに、暴れた二人は護送中、黒髪長髪の刀使いの男の襲撃により、連れ去られてしまっている。

護送していた騎士団に損害が出ており、試験を行った際の傷跡は深く刻まれることとなった。



そして、試験でのいざこざより一週間が経過したころ。

騎士団長室にやってきたリゼル。クラッツは、いきなり胸倉を掴まれてしまう。


「どういうつもりだ……?」

「…………」

「貴様は!『敵』をこちらから招き入れるようなことをした!」


提言する機会がなく、言えなかったのだが、リゼルはそのリスクを考えていた。

その予想が最悪の形で的中してしまい、リゼルは気が立っている。


「…………」

「結果、挑戦者たちにも無駄な負傷者を出した!」

「そう……だな……」

「戦力として力を借りたいなら、もっと別の方法を選ぶべきだった。足切りはあったとしても、誰でも騎士団の懐に入り込める状況だった」

「…………」

「貴様は!!レイラを危険にさらした!!」


レイラは、自分の強い意志で前線にいる。

「王都内でデスクワークをしている場合ではない」と自らの足で世界を見て回っている。

それは前々からで、リゼルはそれに関して何も言うつもりはない。それに、自分も付いている。何かあれば、レイラの代わりに死ねるレベルで彼女を守るつもりだ。

だが、今回のケースは質が異なる。


あの場には、レイラだけではない。

団長やハースト、今の国を守る騎士団の戦力が集中していた。

そんな場で敵が易々と入り込めるような『イベント』はやらない方が良かった。


「……後出しじゃんけんは感心しないな。結果論でしかない」

「なんだと?」


リゼルの力が緩む。

クラッツは彼の手を優しく包み、ゆっくりと剥がしていく。


「『ああすればよかった』……『こうすればよかった』……そんなものは誰でも吐ける」

「……意見を言えば、変わったか?変えていたか?」

「……一考はしただろうな」


クラッツのそれに、リゼルは舌を打つ。


「下らんな。僕は騎士団員。肩書は弱い。『団長命令』があれば、逆らうことはできない」

「分かっているじゃないか」

「だが、それでも、あの『イベント』は愚策としか思えない」


リゼルは怒りを込め、『イベント』という言葉を使う。 


「騎士団が……それだけ厳しいということだ」

「…………」


痛いところを突かれ、リゼルは何も言えなくなる。


「リゼル。お前が考えているリスクは、当然私も考えていた。二人のような敵戦力が混じっている可能性、レイラ王が狙われる可能性、我々上層部が狙われる可能性。挑戦者ごと潰される可能性だってあった」

「…………」

「その重大なリスクを背負ってでも、戦力が欲しい。このままでは、我々に勝利はない」

「…………」


言いたいことは山ほどあるが、何も言えない。

クラッツの言いたいことも分かってしまう自分がいるからだ。


「我々がもっと強ければ……そんなリスクは背負わなくてよかった……なんなら、レイも止められただろう」

「ち……」

「分かってくれ、とは言わない。リゼル。我々騎士団は、力も時間もない。国を救うために、何でも使う覚悟がある。当然、そのリスクもだ」


ギリ、と歯を鳴らすリゼル。

否定できない自分が詳しくてたまらない。


「……また結果論を言わせてもらう」

「どうぞ」

「あの連中の中に、レイと戦える者はいなかった」

「あぁ……可能性を感じさせる者ばかりだった。相手がレイでなければ、な……」


相手がレイクラスでなければ、強い者たちばかりだった。

だが、それは『たられば』の話。


「結果論で言えば、試験により得られたものはなかった。それでも……貴様は満足なのか……?」

「あぁ……一つの選択肢を消すことができた。やらずに尾を引くより、何百倍もいい」

「…………」


リゼルは俯き、背を向ける。


「……失礼する」

「……すまない」


大きなわだかまりを残し、二人は別れた。

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