―最初から決まってる―
(……恩義か)
パートナーは少し呆れたように言う。だが、ミーネにとって、そこが起点なのは変わらない。
(それが、あたしが戦うたった一つの理由だから)
(それだけで(国とか、レイとか、どうでもいいのよ)
パートナーの言葉を遮り、言う。
ミーネは相手の言葉を遮って発現しない。だが、これに関しては別だ。
(!)
(レイラが戦うから、剣を握る。レイラが傷つくから、一緒に傷つく。レイラが守ってくれるから、あたしも守る。ただ、それだけ)
心の言葉に呼応するように、龍力が徐々に高まっていく。
斬り合いの最中故に、戦闘に直に影響する。剣の威力が増大し、シェキナーの剣に勝ったのだ。
「!?」
驚いた顔を見せ、怯みと苦痛を見せるシェキナー。
(レイラが戦う限り、あたしは戦う。当然、ここで死ねない)
(…………)
(それが、前に少しできた自分のために戦うことにもつながるから)
パートナーは黙っている。
聞いているのか分からないが、意思を伝える。
(あたしの力は、仲間とともに)
ミーネの剣が青白く光る。
氷が分厚くなり、端が鋭利となっていく。
内から湧き上がる力。この戦いにおいて、後にも先にもこの力は引き出せない。
そのくらい、ミーネはパートナーの力を感じていた。
この時間を逃すな。最高の力を、シェキナーにぶつける。
「絶氷蒼龍剣!!」
「ちぃ……!!激流水龍剣!!」
全てを凍らせるほどの冷気。
ミーネが未熟な龍力者であれば、周囲の木々や地面を凍らせ、氷の世界に変えていただろう。
だが、彼女は成長した。環境に影響を与えることなく、シェキナーのみに龍力をぶつける。
シェキナーの龍力は、全てを激流に呑み込むほどの力だ。
半端な龍力者であれば、このフィールドごと流れるほどの雑な力だ。
だが、彼女は違う。憎悪をエネルギーとし、ここまで登り詰めた。目の前の相手のみに龍力をぶつける。
「「!!」」
氷と水の龍。
ぶつかり合いの中心から凄まじいエネルギーを放出し、場が龍力の嵐となる。
ぬかるんだ地面に、二人の足が沈む。
歯を食いしばり、お互いの龍力に耐える。これを耐え切り、相手を切り裂いた方の勝ちだ。
「!」
龍力のうねり。嵐の中心。
ぶつかり合いの最中、ミーネはシェキナーの龍力を一瞬だけ、それも少しだけ上回った。
(今ッ!!)
ミーネは全身全霊の力で剣を振り抜き、シェキナーの胸を斬った。
「ッ……く……!!」
彼女の胸から血が迸る。
傷口には氷が付着している。そのように斬ってはいないのだが、強すぎる龍力のせいだろうか。
激流が止まり、シェキナーの龍力も穏やかになる。
毒々しかった彼女の龍力だが、だんだんと色が抜けてくる。
「く……そ……」
鈍い音を響かせ、シェキナーは倒れる。
「はぁ……ッあぁ……」
詰まらせながらも大きく息をし、ミーネは龍力を下げていく。
シェキナーはまだ諦めていないのか、仰向けになって肘で起き上がろうとしている。
「こ……の……!」
だが、肘が滑って立つことができない。
それだけではない。彼女から龍力をあまり感じない。
万が一立てたとしても、戦いにはならないだろう。
「終わりよ……シェキナー」
「ッ……」
静かにシェキナーを見下ろすミーネ。
(見下してんじゃ……ない……ッ!!)
それは、シェキナーの屈辱感を煽るものだった。だが、彼女に力は残っていない。
「クソぉ」と小さく悪態をつくことしかできず、泥に力なく拳をぶつける。
その間にも泥水と血が混じり、どす黒い泥となっていく。
そこで、ミーネは思い出す。
シェキナーは、『あれ』が使えたはず。それなのに、彼女は自分にそれを使わなかった。
「ねぇ……教えて」
「……?」
気付けば、勝手に言葉が出ていた。
聞くつもりはなかったのだが。
「毒を……毒を使えば一発だったでしょ?どうして……」
「嫌よ……この手で……壊せなく……な……る……」
シェキナーは天を仰ぎながら、震える手を掲げる。
数秒後、その腕から力が抜け、地面に落ちる。
シェキナーは穏やかに目を閉じていた。
ミーネは静かに目を閉じ、勝利を噛みしめるのだった。