―氷VS水―
ミーネの氷龍とシェキナーの水龍が激しくぶつかり合う。
シェキナーはレイラ戦込みでかなり長い間戦っているが、衰えが見えない。
それどころか、攻撃が一段と激しくなっており、ギアが上がっているようにも見える。
本来の標的相手にテンションが上がっているのだろうか。
「…………」
レイラはその戦いを黙って見守っている。
自分は、間違いなく手を抜かれた。その事実に、悔しくもなり、悲しくもなる。
レイの下っ端の龍力者にさえ、龍力者として、完全に下に見られているのだ。
だが、実際に力不足なのは事実。
静かに唇を噛みしめるレイラ。微かに血の味がするが、気にもならない。
「絶氷剣!!」
「激龍剣」
剣と剣とがぶつかる度、火花の代わりに氷と水が散る。
乾いた大地に水分が落ち、水たまりも確認できるようになってきた。
龍力レベルで言えば、シェキナーの勝ちだ。
だが、ミーネは力負けせず戦えている。それは、心の力。
レイラたちに恩を返すという、自分の誓い。それが計算不能なエネルギー源となり、彼女の龍力に加算されている。
「くッ!」
「ふぅん……」
思ったよりも実力が近い。
そう判断したのか、シェキナーはつまらなそうに目を細める。
ギアを上げたとは言え、シェキナーの表情に変化はない。ポーカーフェイスなのか、本当に余裕があるからなのか、ミーネには判断がつかない。
一方、こちらは全力だ。それも、限界を突破しつつある龍力レベルで。
(キツイ……!けど、戦える!!)
相手が敵の一派ではない魔物や挑戦者であったならば、この力は引き出せなかっただろう。
レイラのピンチ。仲間たちのピンチであるこの状況が、彼女の力を一段と引き上げた。
(その意気だ)
氷龍の意識も声も近くに感じる。
(私を存分に引き出せ。力だけじゃない。技も、力の使い方も、だ。そこの水さえも味方につけろ)
(分かった!)
心・技・体。
恐らく、心の力ではシェキナーの復讐心の方が強い。
技も、シェキナーの戦闘能力に軍配はが上がるだろう。
体に関しては、戦ってみた感じそう大差ない。
ならば、パートナーの力と、自然の力を最大限に利用する。
水たまりを氷に変え、槍へと変える。
「アイスランス!!」
「ッ!」
武器は、剣だけではない。
シェキナーが作った水たまりも、龍力により武器へと変わる。
ミーネは腕を振り、槍を飛ばす。
槍を扱う自信はないが、飛ばすだけなら造作もない。
「ちッ……!」
シェキナーは乱暴にその氷の槍を砕く。
彼女は水を再利用するような力や知識はないらしく、龍力や剣以外の攻撃を仕掛けてくる気配はない。
ミーネは、それらを最大限利用して、対等な戦いを繰り広げていた。
「鬱陶しい……」
「だぁッ!」
単純な斬り合いでは勝ち目はない。
レイラたちとの戦闘で龍力を消費しているはずなのに、シェキナーの龍力はミーネのフル・ドラゴン・ソウル以上の力と同格だった。
「水刃連」
「!」
一瞬でもスキを見せれば、たちまち連撃を受けてしまう。
「……!」
ミーネは攻撃をやめ、右足を下げ、攻撃に備える。
バシャ、と右足が水たまりに突っ込み、嫌な感覚が靴の中に広がる。
(それも使え!!)
(うん!)
シェキナーの連撃を剣一本で受けるのは無謀。ミーネは声に従い、脚を通じて龍力を送り、できていた水たまりを氷剣に変える。
「この……!」
渾身の連撃を、ミーネは不器用ながらも剣を二本使い、弾いていく。
こちらが攻めており、相手は後退しているのに、なぜこんなにも『勝ち』を確信できないのだろうか。
なぜ、小物であるミーネは自分と対等に戦えているのだろうか。
「もっと……もっと……」
シェキナーは拳を強く、強く握りしめる。
爪が掌に食い込み、皮膚を軽く裂いたが、気にならない。
ミーネへの怒りが、自分への怒りがそれよりも勝っているからだ。
ズオ、と禍々しいオーラがシェキナーを包む。
「やば……!」
ミーネは更に後退する。
氷の剣を砕き、散らした。剣を二本使うのは自分に合わない。万が一シェキナーに使われないよう、破壊しておく。
「もっと……!もっと……!!」
感情の起伏が少ないシェキナーが、怒りで震えている。
クール目な顔が歪み、凶悪な表情となる。
(暴走……!?契約かも……!?)
(いや……にしては、『意識』が人のままだ)
ということは、シェキナーはここにきて更に強くなったと言える。
「まじ……?」
ミーネは自然とその言葉を口にし、呆然と彼女の変化を見ていることしかできないでいる。