―救われた者、救われなかった者―
氷が割れる音、氷同士がぶるかる音を響かせながら、氷の棺桶は崩壊した。
中から、毛先が水色の茶髪ロン毛、毛先にパーマが掛かっている女性が姿を現した。
「ふぅ……」
頭を大きく振り、氷のカスを振り払う。髪を整え、目を開ける。
そこで二人は目が合った。
見つめ合ったまま、二人の時間が止まる。
「シェキナー……」
「……あなた……ミーネ……」
互いが互いを見つめている。
お互い、信じられないものを見つけたような目だ。それに加え、シェキナーに関しては『探し物が見つかった』ような目だ。
「え……?お知り合い……ですか……?」
「うん……知り合い?」
「なぜ疑問形……」
珍しいレイラの静かなツッコミ。
だが、ミーネはそれが適切な表現か分からないでいた。
「そうね。ただ知ってる顔ってだけよ」
「…………」
冷たく吐き捨てるシェキナーを見るレイラ。
嘘を言っているようには見えない。知り合いならば、と淡い期待を抱いたが、その希望は捨てる必要がありそうだ。
「わたしとそこのミーネはね、ペルソス出身よ」
「え……!?」
「それも、エラー龍力者同士ね」
「ッ!!」
細かい氷カスが気になるのか、それを払うのに夢中になっているシェキナー。
場は緊張が張り詰めているが、彼女は自然体だ。
「ま、グループにいることもあったわね」
「そう……ね……」
「……少しだけ話してあげましょうか。わたしの本当の標的さん?」
「!」
氷カスを払い終え、シェキナーはこちらに向き直った。
その顔は、先ほどよりも冷たく、自信に満ちていた。
「さて……」
シェキナーは話し始める。
自分とクオル、そしてミーネ。その三人は、同じペルソスで暮らしていた。
仲は普通。約束などして三人で遊んだりはしないが、同じグループ内にいれば、遊ぶくらい。
それも、あの日からは全てが変わった。
シェキナーはあの日に水龍の力を宿し、他のエラー龍力者と同じように暴走してしまう。
クオルも同様に、土龍の膨大な力を放出していた。
町の住人は恐れ、エラー龍力者を隔離した。その後、原因が共有され、解放される。
暴走時は強大な龍力を発動させたエラー龍力者たちだが、シェキナーとクオル含め、多くのエラー龍力者はそれっきり力が発動できないでいた。
暴走によるトラウマもあり、わざわざ練習しようとしなかったこともあるが、エラー龍力者への対応が緩和されつつあった時期に試してみてもダメだった。
同じエラー龍力者として、ミーネがいることも知っていた。
彼女も龍力を使えるようになっていないと聞いていたが、どうやら様子が違ったらしい。
程なくして、龍力者としての可能性を買われ、彼女は騎士団へ入団したと聞く。
町には他にもエラー龍力者はいる。今も町で暮らしているだろう。
だが、シェキナーとクオルは違った。
両親はいたが、エラー龍力者であることや、力が扱えないこと。そして、騎士団に引き抜かれたミーネのことなどがあり、二人に辛く当たった。
元々ネグレクト気味だったこともあり、それがきっかけで加速したのだ。
『使えない子』と虐待をうけることもしばしばあった。
薄着で締め出されたときもあった。龍力が使えないのは心が弱いからだ、と謎理論を持ち出し、無意味に二人を追い詰めていた。
それに耐えきれなかった二人は、毒親から逃げ出す決意をする。
だが、行く当ても変える場もない。
ペルソス近郊の山で野垂れ死にそうなとき、レイと出会った。
光の道を行く、救われたミーネ。
闇の道を行く、救われなかったシェキナーとクオル。
レイと出会い、環境は良くなったが、闇の道であることに変わりはない。
光の道を歩けなかった、救われなかった事実も変わらない。
「……あんたがどの部隊にいるかは分からなかったし、賭けだった。けど……」
シェキナーは不気味に笑う。
「出会えてよかったよ。ミーネ!!」
シェキナーの龍力が爆発する。
「レイラ、下がって。あの子の標的はあたしよ」
レイラを守るように、ミーネは立つ。
残っている龍力量は多くない。体力面もかなりキツイ。レイラはその背中を見ていることしかできないでいた。