―聞こえたときには―
(痛い……熱い……!!)
この傷だと、下位の回復術では追いつかない。上位の回復術を唱える必要がある。しかし、レイラの龍力はゼロに近い。龍力の残量としてはあるはずなのだが、それが引き出せる状況になかった。
それに、万が一龍力を引き出せても、シェキナーが詠唱を待つとは思えない。
「さぁて……」
シェキナーは刺さった剣を抜く。
「!!」
刺さったときとはまた違った種類の激痛。
血が体外に放出されていくのが分かる。血液を一気に失い、寒気を感じる。
傷口を抑えたいが、左腕が動かない。マリナは毒で倒れ、戦闘不能状態だ。リゼルたちも戦闘不能。
「それ」
剣でぱっくりと開いた傷。
そこをシェキナーは強く踏んだ。そのまま足をぐりぐりと手の甲に押し付けてくる。
「ッ~~~~~!!」
頭がどうにかなりそうな激痛。
靴底の石ころが傷と擦れ合い、痛みを増幅させる。
それでも、レイラは剣を離さない。
武器からは手を離さない。これが戦闘中の鉄則だ。だが、もう限界が近い。
(く……)
この虚脱感から抜け出せたとしても、この傷では剣を振ることはできない。
そもそも、握った剣を持ち上げることができるのだろうか。そして、その後は?シェキナーと対等に戦えるのだろうか。
絶対に、無理だ。
やる前から『絶対無理』とネガティブなことを思いたくはない。
だが、いくら前向きに思考を向けたとしても、この傷が塞がるわけでも、シェキナーとの差が縮まるわけでもない。
(ここ……まで……ですか……)
レイラは絶望の海に堕ちた。
仲間を信じ、自分のパートナーを信じ、王が認めてくれた自分も信じた。それなのに、このザマ。
レイラ自身、戦いで死ぬことよりも、何もできずに後悔することの方が怖かった。それは本心だし、今も変わっていない。そう思っていた。否、思い込んでいた。
だが、実際『死』を強く感じると、生物の本能として、その価値観はひっくり返る。
(死にたくない……!!死にたくない……!!リゼルたちだって……!!)
最悪、自分は仕方ない。
グランズへの怒りの矛先が自分に向いただけ。自分は関係なくとも、攻撃される。それは騎士団での旅でよく分かっている。だが、リゼルや他の仲間は別だ。
自分を信じ、着いてきてくれた仲間。完全なる巻き添えである。
レイラは目を強く閉じ、強く思う。
(守りたい!!守らないと!!私が!!私のせいで死なせない!!)
(その意気よ)
(!!)
懐かしい声が脳内に響き、レイラは光に包まれる。レイラは心の中で叫んだ「遅いよ!!」と。
龍力が高まってくる。身体の感覚も一気に戻ってくる。利き手のダメージが大きく剣を使えないが、今なら、左手で戦える。
そう思い、顔を上げたレイラだが、やはり全て遅かった。
「させないよ」
危険を察知したのか、シェキナーはレイラの剣を蹴り飛ばす。蹴りの力と激痛に負け、彼女は剣を離してしまう。
「!」
そして間髪入れずに剣振り下ろしてくる。
「串刺し、ね……サヨナラ」
「……!!」
力は戻りつつあるが、その攻撃をかわすほどの時間も体力もない。
レイラは咄嗟に頭を守り、目を閉じた。