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龍魂  作者: 熟田津ケィ
―成果―
508/689

―得体の知れない恐怖―

レイラとシェキナーの戦いは続いている。

斬り合っては離れを繰り返し、互いの体力を削っていく。


「はぁ……はぁ……」

「ふぅ……」


レイラは息を切らしている一方で、シェキナーは涼しい顔をしている。

が、互い眼光は強く、『敵』を睨んでいる。


(いつまでもちますかね……)


レイラの龍力消費は大きい。

戦いの合間、詠唱ができそうなスキの度にマリナに治癒術をかけているためだ。

状態異常回復術がかけれれば一発なのだが、シェキナーとの戦いでそれができる時間は取れそうになかった。


被弾覚悟で状態異常回復の詠唱を終えたとしても、ここまで戦闘が長引いてしまった後ではマリナの身体が戦闘に耐えられるかどうかは分からない。


だから、今回も低級の回復術だ。


「頑張って!!」


マリナの身体を淡い光が包む。

レイラが恐怖を感じたのは、その後だった。


「ッ……!!」


蹲るマリナ。髪が乱れ、顔は見えない。

だが、髪の隙間から見える目は、完全に怒っていた。そんな目で、彼女に睨まれてしまったためだ。


「え……」


レイラが困惑し、シェキナーを完全に視界から外してしまう。

マリナの目が更に凶暴なり、首を大きく横に振る。

『自分に構うな。戦いに集中しろ』と言いたげに。


「……!!」


マリナが本当にそう言いたかったのか確認する術はない。が、レイラはメッセージとしてそう受け取った。


「ごめんなさい!もう少し耐えて!!」

「…………」


彼女のコク、とマリナは小さく頷く。受け取ったメッセージは間違っていなかったらしい。

だが、そのやりとりは、シェキナーにとって十分な時間だった。


「余裕ね……バカにしてるの?」

「!」


レイラがそちらを見たときには、すでに遅かった。


「アクア・ドラグーン」


シェキナーは天に手を掲げている。そして、その先には、大きな水龍の紋章が描かれていた。


「しま……」

「ほら、『あっち』も終わってるみたいよ?」


シェキナーはレイラを捕えたまま、顎でリゼルたちが戦っていた方向を示す。


「……!」


ドクン、と心臓が高鳴る。

『終わっているのに、増援が来ない』これはすなわち、『そういうこと』になる。


「…………」


レイラはゆっくりと眼球を動かす。シェキナーを視界から外さないことを注意しながら。


「そん……な……」


リゼル、レイズ、バージル。そして、クオル。

四人は剣を投げ出したまま倒れていた。戦場を染める血の量も凄まじい。

生きているのだろうか。嫌な脂汗が浮かぶ。


「平気よ。まだ生きてるわ」

「…………」


この女。弟もリゼルたちと同じように血まみれで倒れているのに、なぜそんなに冷静なのか。


「ま、この後殺すけど、ね……」


フフ、と不敵に笑うシェキナー。

その時、レイラの中の『何か』が千切れた。


「…………」


鼻から大きく呼吸し、内から湧き上がる感情を押し殺す。

静かに俯いたあと、ゆっくりと剣を構える。唇を動かし、詠唱を始める。この一連の動作に、気味悪ささえ覚えるシェキナー。光龍とは思えない『闇』を感じた。


「なんのつもり?」

「…………」


シェキナーの表情が変わり、不機嫌になる。が、レイラは答えない。

リゼルたちの無残な姿も、マリナの苦しむ姿も、今は視界に入らない。


全力で、こいつを潰したい。


「ち……」


レイラの異様な雰囲気。変化に興が削がれた。

シェキナーは腕を振り下ろす。


「殺せ!!」


水龍の紋章の輝きが強くなり、そこから具現化された水龍が放出される。


「~~~~~~~~!!」


耳をつんざくような咆哮とともに、激しく荒れるような龍力がレイラに襲い掛かる。

龍がレイラを食らう。それは、一瞬だ。


だが。


「……え……?」


シェキナーは目を疑った。


レイラを食らおうとした水龍は、左右真っ二つに斬られてしまった。

龍が水へと変わり、水色の粒子に変わる。そして、儚く消えていく。


代わりに、レイラの剣の刃には強い光が。

激しく光る剣。やや七色に光っているようにも見える。


ゆっくりと顔を上げるレイラ。

その顔は、女王の、年頃の女の子のそれではなかった。


「……!!」


シェキナーはこの戦いで初めて『恐怖』を覚えた。

彼女の龍力の『底』が見えなくなる。

ブル、とシェキナーは身震いする。こいつは、危険だ。


「ブリリアント……ブレイド……」


レイラは地面を強く蹴り、シェキナーの前に瞬間移動する。


「!」


刹那。

一瞬のそれに、シェキナーは反応できない。


(はや……)


斬られる。

シェキナーは咄嗟に目を閉じる。


「……!!」


だが、いつまで待っても斬られることはなく、痛みも感じない。

ゆっくり目を開けると、レイラが痙攣を起こしながら横たわっていた。

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