―本命―
イゾウ、イルザーラ、サフィーナを医務室に運ぶ時間と場所を作るため、やや大げさに攻めるリゼルたち。
スペースも存分に使い、彼らの意識をこちらに向ける。
ここに召集されているのは上の方の団員たち。流石の手早さで三人を運んで行った。
「……これで安心かい?」
「フン、黙っていろ」
「大袈裟に動かなくても、トドメは刺さなかったよ」
「信用できない」
「そうかい……ま、『はずみ』はあるかも、だしね」
殺意はない。が、ちょっとした龍力の狂いで殺ってしまうことは別に構わない、といった感じだ。
「……とにかく、僕たちが相手だ」
「姉さん」
クオルは振り返り、シェキナーを見る。
「えぇ。やっと、ね……」
毒々しいバブル。龍力も荒れるように激しい。悪意もそうだが、かなりの使い手だ。
「レイラは無関係だと言ったはずだ。目的はなんだ?」
「そうね……グランズはこっちにあるし、確認したいことだけ、あったけど、ハズレっぽいし……でも、今思いついたわ」
無数の泡が集まり、水になっていく。そして刃の形状を作った。
そして、レイラに猛スピードで飛んでいった。
「!」
レイラはそれをかわすが、かすったらしい。首から血が滴り落ちる。
「グランズの手土産にレイラの首を持って帰りましょう」
「ッ!!」
「させるかよッ!!」
レイズたちとシェキナーたちの龍力がぶつかる。
シェキナーもクオルも相当強い使い手だ。半端な力では太刀打ちできない。
イゾウ、イルザーラ、サフィーナの三人が頑張ったお陰で、レイズたちの気合も十分高まった。
「最初から全開だ!!一気に攻めろ!!」
「あぁ!」
リゼルはクオルに斬りかかる。
月龍の力と土龍の力がぶつかる。
「邪魔」
「!」
シェキナーの声が微かに聞こえたと同時に、ゾク、と身が凍るような感覚に襲われる。
反射的にリゼルはその場から離れる。その判断は正解だった。先程までいた場所に、毒々しい水流が発生していた。それも、高威力だ。
「ッ……」
リゼルは走りながら舌を打つ。
水流が治まった後、入れ替わりで仲間がクオルに斬りかかるが、どうも攻撃が通らない。
「くそ……!」
敵が二人。それも、かなり強い龍力者。
クオルやシェキナーどちらか一人に集中したくとも、それができない。
先ほどのように、クオルを止めても、シェキナーがフリーになるからだ。
次の作戦を指示しようと息を吸った瞬間、レイズが叫んだ。
「同時に攻めろ!!フリーにさせるな!!」
レイズの号令に従うのは癪だが、考えは同じだ。
レイズ、バージルは距離が近かったクオルに、それを見たレイラとマリナは、シェキナーに走る。
リゼルはそれを確認すると、走りながら思考を回す。
戦力的にはシェキナー側に行きたいが、さっさとクオルを片付けるのも悪くない。
バージルは風龍で土龍の技を止めやすい。マリナの雷龍は水龍を止めやすい。
相性バランスも良い。
それに、レイラはマリナと一緒だ。回復の術はあちらにある。
レイラと離れるのはできるだけ避けたいが、マリナも近くにいる。それに、いざとなればシェキナー側に行くことも可能だ。なら、自分はクオルを叩くべきだ。敵の数を減らす。これに集中しよう。
「だぁッ!」
レイズとバージルの攻撃を、クオルは器用にかわす。
彼らの龍力次第では、剣で受ける選択もしているようだ。
受けるべき攻撃、かわすべき攻撃を瞬時に判断、理解し、対応している。
戦闘技術、龍力ともに素晴らしいが、絶望的な差ではない。
龍界に行く前ならば絶望的な差であっただろう。しかし、今は違う。自分たちもここまでの高みにくることができた。
「最高の力を維持し続けろ!!」
「!……マジかよ!?」
「ち……やってやるよ!!」
リゼルも加わり、三対一の超有利な戦いが始まる。