―下層の敵戦力―
「はぁ……あなたたちはターゲットではないのだけれど」
「やる気、みたいだね、姉さん」
ターゲットではない邪魔者の出現に萎える二人。
面倒そうにため息をついている。
「イイでしょ?別に」
「我々は強者と戦いたいのですよ」
「……風の導きに従うだけ」
彼らの登場は、シェキナー達にとって鬱陶しいことこの上ない。
だが、彼らを潰さない限り、騎士団への攻撃はできそうにない。ならば、速攻で潰すだけ。
「……クオル。最速で潰して」
「オーケー、姉さん」
少年の龍力が禍々しく波打つ。完全にクオルに任せるらしく、シェキナーは剣すら構えない。毛先を人差し指に絡ませて遊んでいる。
「…………」
その舐められた様子に、怒りを覚える三人。
「なめないでもらいたい!!」
「ざけんな!!」
イゾウ、イルザーラが踏み込む。
サフィーナはまだ進まない。二人で様子を見るつもりなのか。
「龍殺刃」
「煉獄!!咆哮!!」
闇と炎。超強力な龍力がクオルを襲う。
だが、クオルは構えない。
ただ単純に、土龍の力を解放しただけ。
「ぐッ!?」
「がはッ!!」
大地から無数に伸びる土の牙。
それらが二人を貫く。
「疾風龍!!」
二人と入れ替わるようにサフィーナは走る。
手に剣。そして技により自傷。そして、流血。
属性盛り盛りの攻撃がクオルの技後の硬直のスキに繰り出される。
「ッ!!」
技後の硬直でクオルは存分には動けない。
身体を捻って回避しようとするが、サフィーナの攻撃を食らってしまう。
衣服が切れ、少量の血が舞う。
「……鬱陶しい」
クオルは舌を打ち、左手をサフィーナに向けて突き出す。
そして、龍術を発動させた。
「グランド・ブレイク」
素早い詠唱時間だが、大きな土龍の紋章が描かれる。
サフィーナの素早い動きに対応しており、彼女の移動先に紋章が出現した。
紋章から土龍の頭が出現する。そして、その口かは大地を破壊するような強烈な衝撃が発せられる。
「ッ……!」
範囲は狭い分、威力が凄まじい。
サフィーナの防御壁を貫いてきた。
三人は、あっという間に倒されてしまった。
「はぁ……はぁ……」
「く……」
「教えて……風よ……」
クオルの後ろで、シェキナーはため息をつく。
「あなたたちじゃ話にならないわ。どいて」
「ちぃ……」
「こんな……」
イゾウ、イルザーラは舌を打つ。
ここまでとは。試験で変に善戦したせいで、戦えるのでは、と思っている自分がいた。
彼らは、騎士団は、レイラ様はこんな敵と戦っているのか。
一回も攻防を行うことなくやられるなど、初めてのことだ。屈辱的だ。
「おい、そろそろ……」
レイズが前に出ようとするが、イゾウたちは落ちてしまった龍力を高めていく。
彼らはまだ諦めていない。だが、この状況で続けるのは得策ではない。
「だからそろそろ……!」
バージルに肩を掴まれ、振り返るレイズ。
彼は黙って首を横にゆっくりと振った。
「バージル……」
その顔は険しく、悔しさが滲んでいる。
そして、彼の底に渦巻く龍力は、強く、そして燃え上がるように激しい。
「ここで手を出せば……彼らの思いを踏みにじることになります」
「レイラまで……」
一刻も早く交代したい。すべきである。だが、それはできない。
彼らはシェキナーやクオルのターゲットではない。真なるターゲットは自分たちだ。
試験を有利に進めるためのアピールがきっかけとはいえ、彼らにもプライドがある。
無理矢理にでも交代することは容易いが、逆の立場であれば、本当にギリギリまで手を出すなと思っていただろう。
戦闘の意志が消えない彼らにイラつくシェキナー。
「……クオル。早くして」
「!……わかってるよ……」
シェキナーの不機嫌そうな声に、身体をビクつかせるクオル。
「そういう訳だから」
クオルが剣を振る。
それと同時に、大地から土の槍が出現する。
その槍は三本。イゾウ、イルザーラ、サフィーナに狙いを定める。
「…………」
三人は虚ろな目でそれを見ている。
龍力こそ維持しているが、いつ意識が飛んでもおかしくない。
三人を支えているのは、気力だけだ。
「地龍鋭突」
空を切る音と共に、土の槍が発射された。
滞空時間は一瞬だった。
気付いたときには、槍による攻撃は終了していた。
「……!!」
レイズたちは口を開けたまま固まってしまう。
レイラ、マリナは口元を押さえ、目に涙を浮かべる。
「く……」
イゾウは槍による攻撃を回避。
直撃は避けることができたものの、左腕に甚大なダメージ。
上腕の肉が抉れ、上腕骨が見えてしまっている。
「あ……ぁ……」
イルザーラは土の槍を斧で砕き割ろうとしたが、龍力差により失敗。
腹に土の槍が刺さっている。血が滴り落ち、服を、地面を紅に染める。
「か……ぜ……ボク……は……」
サフィーナは背水により龍力は一人だけ少し高かった。
だが、槍を破壊するほどの力は残っておらず、先端を斬り裂いた時点で槍が直撃していた。
サフィーナの攻撃により槍道が反れたため、致命傷は避けたものの、両腕に甚大なダメージを受けてしまっている。
皮がめくれ筋肉組織がむき出しになっている。
三人とも数秒ほど立っていたが、意識が飛び、倒れてしまう。
「さて……」
クオルが清々しい顔でこちらを向いた。
三人の勇姿に触発され、龍力が空気を震わせるほどに高まるレイズたち。
かなりダメージを受けているが、命を繋ぐことに望みはある。
次は自分たちだ。だが、彼らが倒れているこの場で戦うことはできない。
リゼルは舌を打ち、さり気なく場を見渡す。すると、離れて様子を窺っている騎士団員が視界に入った。
「医務室へ運べ!!僕たちは場所を変える!!」
リゼルは全員に伝わるよう叫ぶのだった。