帰路
ダルトで療養(?)すること数日。
『あの日』の被害者のマリナ=ライフォードは、いつまで経っても騎士団基地に現れなかった。
任務成功の連絡、療養の連絡は本部に行っているが、流石にこれ以上は引っ張れない。
限界まで粘ったが、ダメだったのだろう。
リゼルの決定で、帰路についていた。
飛行艇に揺られているレイズたち。
談話室ではレイラとレイズがおり、コーヒーを飲んでいた。
後の二人は、部屋で休んでいるようだ。
窓の外では雲が晴れ、青い空が広がっている。
ダルト上空を抜けた証拠である。そして、マリナとの物理的距離が広がったことを痛感する青だ。
「マリナ……残念でした……」
「あぁ……そうだな」
ダルトの一件については解決したが、本人の課題は残ったままだ。
しかし、その本人が諦めた以上、仕方ない部分はある。
先日のやり取りの後、レイラはアフターフォローの名目で、マリナ宅を訪れていた。
現王の訪問に非常に驚いていた様子。だが、マリナから話は行っていたらしく、救ってくれたことを感謝された。
マリナ本人に会うことはできなかったが、両親から様子を聞くことができた。
話によると、朝から晩まで外に出ては、気が狂いそうな顔で帰ってきていること、気力を失ったのか、一日中部屋に引きこもっている日もあることもあった様子。
部屋にいなかったということは、訪問時は気力があった様子。
ただ、帰ってきてからは、龍力の兆しが全くないとのこと。
用心のため、友人の龍力者に見てもらっていたこともあったが、友人曰く、「本当に龍を宿しているのか?」とのこと。
これらのことから、彼女に龍力をコントロール力はないのでは?ということだ。
現に、ダルト内で暴走したエラー龍力者の多くは、非龍力者時代と変わらぬ日々を送っている。
再発動しない保証はないし、安心安全ではない状態だが、あまりにも龍の気配を感じないため、周囲もエラー龍力者であることを忘れつつあるとか。
「……本当に、娘や他の方たちの中に、龍はいるのでしょうか?」
「確実に、います。これは、断言できます」
「ですが、『出て行った』とは考えられませんか?」
「龍力者から『出て行く』と、人間はどうなるか、ご存じですよね?歴史上の話で、現実では滅多に見られませんが……」
「えぇ。それは……」
マリナの母がこう思うのも無理はない。
娘や他のエラー龍力者は、どう見ても普通の人間だ。龍を宿しているとは思えない。
龍力は胃発動のトリガーとなりそうな、怒り、悲しみが強まっても、龍力は微塵も感じられなかったのだから。
「……勇んで飛び出した娘が帰ってきた時は、驚きました」
「!」
勇んで家を出た娘が暗い顔で帰ってきたときは驚いたし、騎士団で何を気われたのかと怒りを覚えたとのことであったが、話を聞いて、少し納得したとのこと。
「……望む結果が出せず、申し訳ございません」
「いいんです。娘が無事なら、とりあえずは安心です」
両親はああ言ってくれたが、腑に落ちない。やりきれない。
言葉足らずのせいで、すれ違ってしまった。
レイラの胸には、重たいしこりが残ったままだ。
そして、現在。
「リゼルは、無理だと分かってたのかな……」
「……かもしれません」
「期待させておいて、無理難題言うとか……」
「…………」
物事には、言い方というものがある。
リゼルなりに言葉を選んだのかも知れないが、あのように言われては意欲が削がれそうだ。
「ですが、ごまかしはありませんでした」
「ごまかし……?」
「私は、マリナの一緒に居たい、という言葉を理解していながら、私の口からは、現実を言えませんでした」
「あの時か……」
リゼルに詰められた、あの時だ。
彼は事実を突き付けながらも、彼女の気持ちを優先した。
「それに引っかかっていながらも、騎士団に入ってほしい部分が強くありました……それで、私は……」
「……もういいだろ」
「でも、リゼルは見逃さなかった。ごまかさなかった」
「まぁ、そうだな」
確かに、騎士団としてもエラー龍力者の管理ができるのはメリットだ。だから、あのまま入るのでも問題はない。
しかし、彼女の持つビジョンは、それとは異なる。
あのメンバーで騎士団内で動き、困っている人を救っていきたい。その過程で、龍力をコントロールしていこうというもの。
入り口をごまかしても、リアルが分かれば、そこに反発が生まれる。
それは両サイドにとって良い話ではない。
それに、レイラと同じチーム=リゼルがいる。
辛い現実を突き付けた自分が、常に恩人と共に動いている事実を伝え、気持ちを確認した。
そして、数日間の猶予を与え、待つことを選んだ。
本当に冷たい人間なら、一々事実確認をしない。さっさと入団させ、教育サイドに回すだけだ。
「だから、リゼルを悪く思わないでほしいです……」
「……安心しろ。思ってねぇよ」
そう。リゼルの言動に理解できる自分もいる。
複雑なケースだっただけに、きっぱり言うことも必要である。
残念な結果にはなったが、彼の血が赤いことを知れたダルト出張だった。




