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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
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猶予と可能性

「そんなの……嫌だ」


これが、マリナの心の声。彼女は、現実を突きつけられていた。


(そっか……そう、なんだ……)


確かに、確認をしなかったこちらの落ち度は認める。

しかし、話の流れ的なことを考えると、レイラたちのチーム(このチームは一時的なもののようだが)に入れてくれると考えるのが自然である。


実際は、騎士団に入っても、レイラたちと行動できるとは限らないのだ。

リゼルは少し小さめのため息をついた後、口を開いた。


「念のため聞くが、剣術に覚えはあるのか?」


これは、ワンチャンあるか?とも思ったが、ここで良いように嘘を吐いても、後々自分の首が締まりそうだった。それに、彼に嘘が通じるとは思えない。


「……身を守る程度よ」

「騎士団でレイラのように最前線で動くには、そっちも求められる。レイラが最前線を許されているのは、それも大きい」


リゼルは痛いところを突いてくる。

龍力もまともに使えず、剣術も正直自信は無い。

騎士団にとって、自分がいるメリットは少ない。エラー龍力者を監視下に置けることくらいだ。


剣術の話が出たところで、レイズは口を挟む。


「おい、それは俺もないぞ」


どんどん元気がなくなっていくマリナが不憫だ。少しでも気が楽になれば、という面もある。


「お前は龍力が多少使える。そっちで上は評価している」

「ち……」


フォローしきれなかった。

レイズは引き下がることしかできない。


(わたしって……何ができるの……)


マリナもうつむき、拳を握りしめる。


「リゼル……何とかならないのか?」


見ていられなくなったバージルは、リゼルに声を掛ける。このままではマリナが本当に気の毒だ。


前髪の下で、視線が動く。

一瞬だけ目が合ったと思った瞬間、彼は既に前を向いていた。

何も言わず、時間だけが過ぎていく。


「…………」


これは、考えてくれているのか?それとも、シンプルにそれっぽい演出をしているだけか?

基本冷たい態度をとっているが、心まで失っているわけではないと思う。

短い付き合いだが、そう思う。


しかし。


「無理だな。現状ではどうにもならない」

「……そう」


マリナはゆっくりと目を閉じる。

溜めていたのだろう。彼女の目に、光る涙。つ、と頬を流れた。

それを見て、レイズは激高する。


「テメェ!」


彼は、リゼルの胸ぐらを掴んだ。


「レイズ!!」

「おい!落ち着け!!」


慌てるバージルたち。場が一気に張り詰める。


「いい加減にしろ!!言葉を選びやがれ!!」

「いい加減にするのはお前だ」

「!!」


鋭い目で睨まれ、レイズはビビる。

恐ろしく冷たい目だ。龍力を高めている訳でもないのに、この圧力。

彼の股が「キュ……」と縮み上がる。


「中途半端に希望を持たせて何の意味がある?」

「それは……でも、そんなキツい言い方ねぇだろ!」

「残念だが、僕にそれを期待するな」


それは努力しろよ。と言いたいが、呑み込む。


「どんな聞こえの良い言葉を並べても、現実は変わらない」

「…………」

「分かったらその汚い手を離せ。死にたいのか?」


最後の言葉が、冗談には聞こえなかった。

本気でビビってしまったレイズは、引き下がることしかできない。


「……クソが」


こいつとは、一生分かり合えない。

乱暴に手を離し、カッとなった勢いのまま座り、足を組む。


「ッざけんな……クソが……」


ミナーリンで、団員の応援をしてしまったときもそうだ。

容赦ない言葉で現実を突き付ける。そこに、心はないのだろうか。


最悪の空気が流れる。

誰も、何も言えない。音を立てることすら遠慮した。


「…………」


永遠にも思える沈黙を破ったのは、意外にもリゼルだった。


「……僕はこんな人間だ。そして、僕は常にレイラと行動を共にする。それでも、レイラと居たいのか」


リゼルはマリナを見る。

が、彼女は俯いたまま涙を我慢している。


「……僕の目を見ろ。すぐにだ」

「…………」


唇をキツく結び、顔を上げるマリナ。

涙目のマリナと、まっすぐな瞳のリゼルの視線が交わる。


「答えろ」

「……うん。だって……あんな状態でも、わたしと向き合ってくれた……理解してくれた……」


顔を上げたことで、溜めていた涙が流れる。

リゼルは小さく「……そうか」と答えた。


「リゼル……?」


彼の意図が読めず、困惑するレイラ。


「……レイラ。すまない。傷口が開いたらしい。王都に戻る日を、数日遅らせてくれ」

「え!?大丈夫ですか!?」

「あぁ。休めば大丈夫だ」


リゼルは部屋を出ようとするが、バージルの横で足を止める。


「おい。お前は大丈夫なのか」

「へ?全然平気だが?」


全快ではないが、帰る日にちをずらす程ではない。

それを聞き、リゼルは心底馬鹿にしたようにため息をつく。そして、彼に聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で言った。


「……察しの悪いバカが」

「!」


それと同時に、バージルは飛び上がる。


「!?」

「痛い!!痛い痛い!!痛み止めが切れて薬が要る!!あと数日痛み止めで様子が見たい~~!!」

「はぁ……」


リゼルが大きなため息をつくほどに、クサい痛がり方だ。

バージルはそのまま、なるべくヨタヨタ歩きで扉に向かう。


「え!?フィナースはもう大丈夫だと……!!」

「レイズ!ついてきてくれ!!注射が怖いんだ!!」


レイラの声を無視し、レイズの腕を掴むバージル。

当然、レイズは反抗する。


「は!?何で俺が!?つかリゼル!!話は終わってねぇぞ!」

「黙ってついてこい!飲み薬だけにしてくれるように言ってくれ!!」

「だから、何で俺が」


会話の途中で扉が閉まり、レイズたちの声が一気に小さくなった。そして、部屋に静寂が訪れる。

涙目のマリナと、困り顔のレイラの二人きりだ。


「では……」


レイラは立ち上がる。

困り顔は消え、凛々しい女王のそれになっていた。


「……期限が数日伸びました。それまでに龍力が少しでも扱えるようになれば、私の部隊に配属される可能性も高まります」

「え……?」


マリナは耳を疑う。

彼らは、そんな話を一切していない。


「100%入れるかは保証できませんが……リゼルのことです。ねじ込むでしょう」

「いや、え……?でも……そんな話……」

「……リゼルは不器用ですからね。でも、彼が予定をずらしてまで時間を作ったのです。それくらいはやってのけるでしょう」


温かみのある笑みをこぼしながら、リゼルたちが出ていった扉を見つめるレイラ。


「…………」


開いた口が塞がらない。

即ち、数日の間で龍力を少しでも扱えるようになれば、レイラと一緒にいられる?

同じ境遇の人を、救うことができる?


(あ、急がなきゃ……!)


マリナは全身に鳥肌が立つのを感じながら、一礼して部屋を後にするのだった。

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