声と涙
レイズとレイラは、再びダルト遺跡の敷地へと足を踏み入れた。
当然だが、龍力者の気配あり。遺跡の前に立っている。
「行くか。気をつけてな」
「えぇ。お互いに」
近付くにつれ、天の雲が厚くなっていく。稲妻が弾け、光が走る。
二人は剣を抜かずに、龍力を発動させた。しかし、剣は抜かない。
仮説が間違いで、雷に打たれれば即行動不能となる。よって、これは「身を守るため」の力。
額から汗が流れる。心臓の鼓動が煩い。
「落ち着け……落ち着け……」
緊張感が高まる中、ゆっくりと、刺激を与えないように近づいていく。
普通に歩くよりも、精神を削られる。
と、レイズは足を止める。
確か、この辺で最初の落雷があった。ここを超えたら、射程範囲内。
「この辺りか」
「……えぇ」
「ふ~~~~……」
レイズは呼吸を整え、気持ちを整理する。
二人が感じていた違和感。それの答え合わせが、ここでできる。
そして、射程範囲へと歩を進める。
「……!!」
天の雲が光る。が、雷は落ちてこない。雲の中で弾けて消える。
やった、とレイラが呟くのが聞こえた。
「よし……」
第一関門突破。
雷の龍力者は、敵意に敏感だ。そして、その者が纏う龍力にも。
二人は、先ほどの会話を思い出していた。
「バージルとリゼル、騎士団は、あの龍力者を『敵』として見ていた」
「はい」
「けど、俺は正直……敵としては見れなかった。俺だって暴走したし、助けたいって思った」
「……私もです。ですが、表立って口には出せませんでした。けど、助けたいって思いました」
騎士団やリゼル、バージルも彼女を敵として認識していた。
彼らにも少なからず『助けたい』という気持ちはあったと思っているが、敵として対処するという思いが強かったはずだ。
だから、言い出せなかった。
「力を、抑えて……俺たちは、敵じゃない……」
龍力と敵意に反応して、暴走のきっかけとなっている。
自分たち二人だけは「敵意」がなかったから、攻撃の手が緩かったのだ。
ただ、いくら敵意や龍力に敏感と言っても、侵入者であることに変わりはない。
だから、シンクロのタイミング次第で、雷は落ちてくる。これは、一戦目も同じだった。
「……!!」
レイラの真横。
図太い雷が落ちていた。
地面を走る稲妻が、レイラを巻き込む形となる。
「レイラ!!」
「ッ……!!平気、です……ッ!!」
痛みを堪えながら、レイラは声を振り絞る。
龍を纏っていて良かった。完全生身だったら、倒されていたと思う。
身体を走る稲妻が消え、レイラも少し落ち着いてきた。
そのタイミングで、レイズは声をかける。
「ゆっくり、行くぞ……」
「えぇ……」
心を乱さないように進み、龍力者との距離。5メートルまで近づいた。
先刻より、表情は苦しそうではない。
だが、心ここにあらず。と言う印象だ。
意識は龍が支配している。これは間違いない。
問題は、ここからだ。
レイズたちに敵意はない。だが、意識が龍に支配されているのでは、会話もできないだろう。
かと言って、剣を抜くわけにもいかない。
少なくとも、こちらからは。
龍力者との距離。2メートル。会話できる距離まで近づいた。
相変わらず天の雲は厚い。時折光り、落ちてくることもあるが、明後日の方向だ。
龍の攻撃性と、龍力者の人間性とのバランスにより、攻撃を反らしてくれたからだと思う。
「う……ぅ……」
龍力者である女性からうめき声。
何か言いたそうだ。この機会を逃さず、レイラが声を上げる。
「あの!!私たち、あなたを迎えに来ました!!」
「助けに来たんだ!!苦しいだろ!?」
レイズも間髪入れずに声をかける。
会話に持ち込めるなら、持ち込みたい。意識が戻るきっかけになるかも知れない。
こちらの言葉をしっかりと認識しているのか、龍力者の女性は反応を示す。
「……う……たす、……け?」
女性は苦しそうに顔を歪め、涙を浮かべる。
それと同時に、ぞわ、と彼女の龍が乱れた。稲妻が四方八方に噴出し、大地を駆ける。
レイズとレイラを避けて走った稲妻。その状況に安堵した瞬間、激痛が走った。
「!!」
「いって……!」
避けていた稲妻の数本が、レイズとレイラを貫いた。
それでも、彼女の制御が効いていたのか、ダメージは少ない。
(マズいか!?)
龍とのバランスが非常に不安定。暴走状態故に攻撃性は増しているが、女性本人の気持ちも現れており、無差別攻撃はしてこない。
「負けるな!頑張るんだ!あんたは強い!!それに、俺たちもいる!!」
具体性のない、ただの根性論だ。しかし、声を掛けないよりは何倍もマシだ。
こちらの声が聞こえるなら、可能性はある。
「ぐっ……」
頭を抱え、倒れ込む。
龍が乱れる。稲妻とオーラの歪みと共に、龍力が膨れ上がった。
大地を走る稲妻の量が大幅に増える。見た感じ、倍に。
「ッ!!」
「雷が!!」
身体から、大量の放電。
いくら二人を避けるように走っているとはいえ、いくら何でも量が多い。
増量前でも数発食らうレベルだったのだ。これが、倍になっている。
当然、コントロール精度が落ち、自分たちを外せなくなる。
そう思ったレイズたちは、咄嗟に腕で稲妻から身を守る。
しかし、いつまで経っても痛みが走らない。
恐る恐る、腕の隙間から彼女の様子を窺うと……
「これは……」
「え……?」
その雷の攻撃は、綺麗に二人を避けるように走っていた。
稲妻が駆けた後の煙。それが、二人の直前でカーブし、そのまま斜めに走っている。
彼女が龍力をコントロールした証拠だ。自分たちに当たらないように。
行ける。
レイズは鳥肌が立つのを感じながら、叫ぶ。
「頑張れ!!戻ってこい!!」
「う……」
帯電している彼女の体。龍力を抑えたまま触れば、こちらもただでは済まない。
一瞬躊躇ったが、レイズは思い切って彼女の肩をつかみ、揺さぶる。
「レイズ!?」
「痛って……」
驚くレイラの声。
白い稲妻が走り、両手が痺れる。
彼女を刺激しないための、少ない龍力ではこちらの体が長くはもたない。
(関係あるか!!助けるんだ!!)
レイズは歯を食いしばり、声を掛け続ける。
「聞こえるか!?もう少しだ!!戻って来やがれ!!」
痛みに顔を歪めながらも、心から声を上げるレイズ。
(レイズ……あなたは……)
それを見ていたレイラは、静かに彼女の手を取った。当然だが、自分も痺れる。
稲妻が走り、手が、そして全身が痛い。
だが、彼女の痛み、苦しみに比べれば大したことはない。
ゆっくりと、優しい声で語りかける。
「大丈夫です……大丈夫です……もう、一人じゃないんです」
「う……」
気持ち、雷が弱まった気がした。
落ち着いた龍力を察知したか、レイズも大きな声を掛けるのを止め、ゆっくりと語りかけた。
「痛いよな……苦しいよな……俺も、暴走したんだ……だから、分かるぜ……」
「レイズ……」
放電は止まらないが、さらに雷が弱まった。
ただ、龍力レベルは変わっていない気がする。これは、外への放出から、内の維持へと変わっているのだ。
「今は苦しいけど……暴走した俺だって、コントロールできた。一人じゃなかった。お前も、もう、一人じゃない」
「そうです。私たちがいます。落ち着いて……ゆっくり……」
バチ、と音がしたと思うと、雷が完全に収まった。
彼女の顔から苦しそうな表情が消えた。
自然と、普段の表情であろう顔に戻っていく。
そして、自分たちを認識。それぞれと視線を交差させる。
レイズ、レイラの状況を察知したその女性。程なくして、頬を涙が走った。
涙でくしゃくしゃだが、素敵な笑顔。
「……ありがとう。あなた達の声、届いたよ……」
雷の龍力者は、その場で気を失った。がくん、と膝が折れ、倒れそうになる。
そんな彼女を、レイラは慌てて抱きかかえる。
「おい!?」
「……大丈夫。気を失っただけです」
ゆっくりと横にするレイラ。
「…………」
安らかな彼女の顔。大丈夫。脈は正常。
それが確認できた瞬間、レイラの目から涙が溢れた。
(良かった……本当に、良かった……!!)
自分は、自分たちは、間違っていなかった。
自分たちの手で、苦しみの渦の中にいる龍力者を救うことができた。




