共通した違和感
またここを通るとは。
それも、レイラと二人で。
(……落ち着かねぇ)
レイズとレイラは、二人っきりでダルト街道を歩いていた。
二人っきりだが、いい雰囲気になる訳でもなく、黙々と歩を進めている状況。
あの会話の後、レイラはダルト基地長に「もう一度だけチャンスをください」と強引に頼み込んだ。
それも、四人ではなく、レイズと二人で、だ。
勝算はあるのですか、と隊長は尋ねたが、彼女は「五分五分です」と繰り返した。基地長は難色を示したが、50%の確率で解決できるなら、正直縋りたい。
承認は出たが、レイラと自分の身の安全が最優先だと釘を刺された。
当然、リゼルは大反対であった。
自分も行くと言い出したが、興奮したせいか、傷が痛み、その場に座り込んでしまう。
「根本的にダメージが違う」と、レイズですら思ったレベル。
治療は受けたし、表面上回復はしている。しかし、蓄積されたダメージは正直だ。
逆に、あれだけダメージを受けても復帰が早いのは、彼の龍力の高さ故だろう。
「安心してください。無理はしません。絶対に」
「……信用して良さそうだな?」
自嘲するように口角を上げたリゼル。
彼女の性格的に、無理せず撤退などあり得ない。が、彼女を止める術もない。
「申し訳ございません。ですが……」
言葉にできない違和感や、どうしても確認しておきたいことがあると伝えると、渋々許可してくれた。
あの顔は納得していない様子だったが、レイラの頼みと言うことで、最終的には退いた。そして、そのしわ寄せを食らうのは、レイズ。
「レイラに何かあったら、覚悟しろ」
「……はい」
出会った時よりも、更に強烈な怖い顔で釘を刺された。
もう少しレイズが幼ければ、恐怖で失禁していただろう。
人間あんな顔ができるのか。本当に恐ろしい。
そして、今に至る。
道中だが、魔物との戦闘も本当に最小限であった。四人だと見つかるケースも、二人だと接触を回避できるケースがある。
そのお陰で、体力・龍力ともに残っている状態だ。
行きは正直ついていくだけで精一杯だったレイズだが、良くも悪くも二度目の道。
少しだけ余裕が生まれ、気になることが出てくる。
「つ~か、非龍力者にこんなこと(水汲み)やらすのか?」
「『珠』の種類は、空間転移だけではありませんよ。攻撃したり、目くらましをしたりと、様々です。転移珠はレアですが、他の珠は割と安価で手に入りますよ」
雷龍遺跡の水汲みは非龍力者も行くとのことだが、転移珠のような龍力を珠に宿させた攻撃系や状態異常系の珠で身を守っているとのこと。
「ふ~ん……」
グリージのようなド田舎では、そんな珠自体見たことがなかった。
明かりを灯す珠もあるようだが、故郷では蝋燭がメインだったし。
話が終わり、沈黙が流れる。
ふと、レイズは彼女の話を思い出し、沈黙回避のために聞いてみる。
「……なぁ」
「はい?」
「さっき言ってた、違和感とか、確認したいことってやつを教えてくれないか?」
言葉にできない違和感。それは、自分も感じていた。
だが、具体的にどう言えばいいのか分からなかったし、リゼルは何も感じていなかった様子。
ただ、レイラは違う。違和感の正体は不明だが、それを感じていたことを言っている。
「……うまく言えません」
レイラは顔を落とし、そう答えた。
違和感はある。だが、言葉にできない。
「……俺も感じたんだ。違和感」
「え……?」
「同じかどうかは、分かんねぇけど」
レイラは顔を上げ、じっとレイズを見つめる。
大きく、綺麗な瞳で見つめられ、レイズは慌てて目を背ける。
その顔で、じっくり見つめられるのは反則だ。
「どういう……意味です?」
「……暴走したから分かる。あんな極端に手加減はできない」
「……すみません」
暴走のことを例に挙げられ、レイラは思わず謝罪の言葉を口にする。
国を周り、様々な言葉を投げかけられた。当然、非難の言葉もだ。
その度に、感じる感覚。胸がチクリとする感覚。回数を重ねていても、未だに慣れない。
「いや、そうじゃなくて……なんだろうな……」
レイズは言葉に詰まりながらも、違和感のきっかけについて語る。
あの状態は間違いなく龍が暴走している。それは確かだ。
しかし、自分のケースとは違いすぎる部分がある。
「暴走しているっていう割に、狙いと力にばらつきがあったよな?」
「はい。私も思っていました。無差別ではなかったように思います」
前半は、危険度が高い人間から狙っているだけかと思っていたが、実際は少し違う。
自分が最前線で戦っていた時も、彼女はリゼルやバージルを狙っていた。
シンプルに自分に戦力がなく、彼を狙う余裕があったから。と言われれば、それはそれで何も言えなくなるのだが。
しかし、その意見では、もう一つの違和感である『極端に手加減できること』への説明ができない。
後半戦は、明らかに手を抜いていた。
暴走状態なら、無差別に力を振るい、エネルギーゼロで気絶する。
レイラも、暴走状態で舐めプする龍力者はいなかったとのこと。
だから、余計に前例がなく、レアケースだ。
「だよな。前半は気付かなかったけど……」
それを皮切りに、二人はそれぞれの考えを話し合う。
攻撃の標的のばらつき。
攻撃の重さの差。
特に、後半だ。なぜ手を抜き、弄ぶような戦いをしたのか。もしかしたら、せざるを得なかったのか。
そして、最後。なぜ自分たちの涙に反応したのか。
話していく内に、段々と確信に変わっていく。
「……それだ!」
「それです!」
二人は同時に顔を見合わせる。
共通した違和感。そして、暴走龍力者の思い。そして、宿す龍の思い。
五分五分だと思っていた確率が、一気に跳ね上がる。
待ってろよ、すぐに助けてやる。
二人は確信を胸に、ダルト遺跡へと急ぐのだった。




