復活と今後
先に起きていたレイズとリゼルは、食堂で食事をしていた。
一応向かい合う形で席を取っているが、真正面ではなく、一個ズレた形。
まぁ、関係値的には及第点だろう。
実際、リゼルは「レイラが起きるまで待つ」となかなか動かなかった。だが、回復のために食事は必須。フィナースとレイズによる説得で、今ここにいる。
団員から冷たい言葉を掛けられると思っていたが、案外そうでもなかった。
ダルト騎士団員のみのときよりも前進できたことや、エラー龍力者と剣を交えたことが関係しているらしい。
ただ、流石に全員寛容ではなく、「何しに来たんだ」という声もあったが、その団員も敵の強さを知っている。
悪態をついたところで、全てブーメランになる。言えば言うほど惨めになるだけだ。
団員の反応はマシだったが、現実問題、彼女は遺跡に残ったままだ。
食事が一段落したところで、レイズは口を開いた。
「あいつ……強かったな」
「……あぁ」
「けど、苦しそうだったな」
「……あぁ」
「助けたいな……」
「……あぁ」
「…………」
何を呟いても、「……あぁ」としか返ってこないリゼルに、レイズは彼を見る。
一応食べてはいるようだが、皿に残ったまま。心ここにあらず状態。
ただ、あの彼が「……あぁ」と返事があるだけでも大きな進歩だ。
最初のころは、返事すらされなかった。「話しかけるな」とも言われたこともある。
それはそれとして、会話にならないのでは意味がないぞ。
「……生麦生米生卵」
「……あぁ」
ダメだこりゃ、とレイズは白旗を上げる。
だが、こちらには伝家の宝刀がある。
「……レイラが心配か?」
「当たり前だ。なぜ貴様なんかと食事をとらなければならないんだ」
返事が早く、内容も「……あぁ」から変化している。
しっかりディスられているが、会話になった。
(おぉ……返事変わった。いつものコイツだ)
とか思いながら、レイズは食べ終わった食器に目を落とす。
「うっせぇわ。でも、な~んか……アレだよな……」
レイラと同様、レイズも違和感を覚えていた。
リゼルやバージルを撃ったあの一撃に比べ、自分とレイラにはやけに優しかった(この表現が適切かは分からないが)ように思う。
自分が暴走したときは、相手によって加減するような余裕はなかった。
だが、彼女はレアケース。何もないときは、暴走状態にはなっていない様子だったし。
暴走状態の時だけ、龍が強く支配しており、格下相手に遊んでいただけなのか。しかし、戦闘能力だけで言えば、リゼルもバージルも格下に位置するはず。
微妙に辻褄が合わない。
(引っかかるんだよな……)
この上手く言葉にできない胸の引っ掛かり。これさえ解消できれば、救える糸口が掴めそうなのだが。
「戻るか」
「……僕は医務室に」
食事を終え、片づけようか考えていると、レイラが入ってきた。
周囲の騎士団員がざわつく。
「リゼル!レイズも!」
「レイラ!!起きたか!!」
「…………」
声には出さないが、リゼルの安心したような顔に、レイズもほっとする。
ここは場所が悪い。とにかく、移動しよう。
足早に食堂を後にする二人に続くレイラ。
「バージルは?」
レイズの問いに、レイラは黙って首を横に振る。
「そうか。女医さんもダメージが大きいって言ってたな」
「それで……これからどうする?」
レイズの中では、再突入しかなかったが、一応確認する。
「……改めて、エラー龍力者の対処法をダルト内で会議する。あいつにも『親』がいるからな。『覚悟』を決めてもらう必要がある」
親、覚悟。
重たい言葉だ。非常に嫌な予感がする。
「それは、どういうことです?」
「……僕らは応援に来て、役に立てなかったんだ。最悪の場合を想定するのは自然なことだ」
「しかし!!」
「頼みの綱が僕らだったんだ。情けないが、力になれなかった。もう、どうしようもない問題だ」
リゼルは、レイラとならよく喋る。
話を聞きながら、レイズはそう思っていた。
「それで、私が納得するとでも……?」
「……ならどうする?今なら多少削ったから、行ってこいとでも?」
いいえ。とレイラは否定する。
「……怪我人が増えるだけです」
「なら、代案もなしの話か?人一人の命と、ダルト住民の命。どちらを取るんだ?最悪の手を使ってでも、エラー龍力者を対処しなければならない状況になっている」
リゼルは現実を言い放つ。
確かに、応援に来た自分たちで解決できなかったのだ。騎士団上位の力をもってしても、対処できない問題。
そして、この問題にはダルト住民の生活も掛かっている。
だが、まだだ。全ての可能性をまだ試していない。
「……その前に、もう一度だけチャンスをください」
「!」
レイラは、もう一度行く気だ。
それは容認できない。
「ダメだ。奴は危険だ」
「ですが、放置して帰るなんて、できない!!」
「チィ……」
リゼルは言葉に詰まる。小さく舌打ちが聞こえた気がしたが、気のせいではないと思う。それくらい、彼は苛立っていた。
リゼルの言葉は、間違いなくレイラの身を案じた上での発言だ。それと、少しだけの現実問題を絡めている。しかし、その言葉には、彼女の意思はない。
危険な最前線に行かせたくない、リゼルの意志だけである。ある程度の前線なら、彼女の性格を考慮して、許可した。当然、自分が同行する上で、だ。
ただ、今回は敗北している。それに、自分も万全ではない。レイラとこのバカは割と元気なようだが、それもどこか納得いかない。
最後のは置いておいて、レイラにとって、この問題から身を退くことは、自分が危険に晒される以上に辛いこと。
だから、彼女は食い下がっている。リゼルだって、彼女の意向を尊重したい。だが、危険すぎる。
「……見込みは、あるのか?」
「はい。確信はありません。五分五分だと思います」
「……許可すると思うか?低すぎる」
「ですが、何もしなかったら、ゼロです」
「…………」
奥歯を鳴らし、リゼルは黙る。この頑固さ。
しかし、彼女の頑固さによって救われたし、人として惹かれた。守りたいと思った。
「……一億歩譲って、アイツが動けるようになってからだ」
先刻の戦いでは、最前線を走っていたバージル。少なくとも、レイラの盾くらいにはなるだろう。
と、彼が思っている横で、レイズはレベルが低いことを考えていた。
(めっちゃ譲ったな……)
自分相手なら、半歩すら譲らないだろうな、とも。
さて、肝心のレイラの返答は。
「いいえ。次は、私とレイズだけで行きます」
そう言い、レイラは視線をレイズに移す。
「……え?」
二人の応酬を黙って聞いていただけのレイズ。
だが、急に自分の名前が出たこと、そして、二人で行くと言い出したことに、自分でも分かる、間抜けな声を出していた。
大事なことなので、もう一度。
「今度は、私たち二人で向かいます」
五分五分と言っていたレイラの顔は、何故か自信に満ち溢れていた。




