涙
バージルが倒され、リゼルもやられた。
戦えるのは、レイズと自分だけ。
「はぁ……はぁ……」
レイラは呼吸を整えながら、龍力を保っている。
剣劇に参加し、龍力者の体力を削ろうと試みるが、刃が届かない。
荒れ狂う龍力の嵐に負け、吹き飛ばされてしまう。
「ぐっ!」
何度吹っ飛ばされたか覚えていない。
バリアも剥がれ、龍力オーラのみが防御壁となっている。
レイズも頑張っているが、もう見ていられない。
それくらいに、動きが雑に、龍力レベルも落ちている。
こんな状態で雷を落とされては……
と、そこで彼女はあることに気づく。
(あれ、そう言えば……)
先程から、雷が降ってこない。
剣劇に集中し、溜めが不十分だからかとも思うが、先程はレイズを相手しながらもリゼルを仕留めた。
緩急をつける戦略か、もう雷撃に頼る必要はないのか、全く想像つかないが、こちら的には戦いやすくはなっている。
ただ、精神的ダメージは大きい。
リゼルと言う柱を失った彼女。知らず知らずのうちに、心が削られている。
(リゼル……)
レイラとリゼルは、幼いころから一緒だった。出会いは特殊だったが、自分は気にしていない。
また、成長してからは、恋人関係にあると噂されたくらい、自分の近くにはリゼルがいた。
任務にも同行したし、剣術の練習もした。彼の実力は、自分が一番よく分かっている。
騎士団に所属する闇龍使いの中でも、トップクラスの腕だ。
それなのに、ここにきて、一瞬でやられてしまった。
暴走龍と戦うのは初めてである。がちょっとやそっとではやられないくらいの鍛え方はしているつもりだった。
それが、通じない。
「レイズ……」
今戦っているレイズも、正直限界が近いと思う。
自分で気付いているかは不明だが、お粗末な戦闘だ。
力も仲間も減り、動揺している。それが、動きと龍力に分かりやすいくらい表れている。
いくら『あの日』の被害者で力が扱えるレアケースだとしても、エネルギー不足はどうにもならない。
「はぁ、はぁ……!!」
息が荒く、剣の振りもゆっくり。
スキが大きく、手痛い反撃を食らう。
「ッ!!」
雷剣による、高濃度の雷攻撃。
(いってぇ……けど……)
普通に痛いが、エフェクトほどの攻撃力はないように感じる。
バリアがない今、通常の威力で食らえば即ダウン。
だが、倒れるほどではない。ただ、戦えるが、救うこともできない。
(どうすれば……!?)
暴走状態と言えど、龍力を使い切ってしまえば人は倒れる。
しかし、龍力が尽きる雰囲気ではない。ダルト上空の雷雲を操作した上に、雷剣を具現化しても、龍力オーラは全く落ちていない。
救いたかった。
しかし、自分たちの力が通用しない。
騎士団の手練れだけでなく、トップクラスの実力者を含めても。
実力が、違いすぎる。
「ちっくしょぉぉぉぉおお!!」
レイズの声に、はっとするレイラ。
雷が落ちてこないのをいいことに、呆然としすぎていた。
「レイズ!!」
気付けば、暴走状態の龍力者が、片方の手をポケットに入れているのが分かった。
彼の龍力レベルでは当然だ。明らかに格下、かつ、警戒もされていない。
そんな舐めプスタイルでも、彼は優位に立つことができず、後退させられている。
実力差は圧倒的。ここまで来れば、広がる一方だ。
それなのに、遊んでいるのか、激しい攻撃はせず、一発一発撃ちこんでいる状態だ。
レイズはそれを必死で防御している。
「どうすれば」と迷っていると、彼と目が合う。
「レイラ!!何とかしてくれ!!」
「何とかっ……て!!」
実際のところ、レイラに戦闘の意思は無かった。
いつ撤退するか。そればかり考えている。その思考が、口に出てしまった。
「……一旦退きましょう!!危険です!!」
「あぁ!?ここまで来て!?」
「ですがっ!!」
口では言うが、レイズも薄々分かっている。
自分では、この人を止められない。
こんなにも苦しそうなのに、どうしようもない。
自分と同じ境遇で、今も苦しんでいる。
悔しい。
救いたかった。
救う気満々だったレイラですら、この判断。
自分たちでは、ダメなのか。
そう現実を突き付けられ、レイズは無意識に、本当に無意識に口を動かした。
「……ごめんな」
と。声に出す気はなかったのに。
気付けば、頬が濡れている。顎から雫が落ちるのが分かった。
それが涙だということが分かるのに、時間は要らなかった。本気で、悔しい。
それを見て、レイラも自然と涙が流れた。
やるせない感情。
敗北。挫折。絶望。
「ごめん……なさい……」
救えなかった。助けたかった思い。
叶わないと分かり、自然に出た涙。
その瞬間。
「ガ……ガ……うぅ……」
エラー龍力者の、単調だが重たかった攻撃の手が、ぴたりと止まる。
雷剣を振り上げたまま、震えている。
その直後、彼女も一層苦しそうにもがき始めた。
「あぁぁぁあああ……」
頭を抱え、身体を丸める。
その間にも龍力は爆発的に放たれている。
が、徐々に徐々に雷の量が減っている。
「え……」
「収まった……のか……?」
龍力が収まったか、思う瞬間、雷が龍力者自身から全方向に放たれ、レイズとレイラを巻き込んだ。
一瞬の気の緩み。そのタイミングも、彼らにとって運がなかった。
無意識のうちに龍力を下げてしまったため、もろに食らってしまったのだ。
「がっ!!」
「う……」
吹き飛ばされ、地面にぶつかる二人。もう無理。本気で限界だ。
龍力も切れたし、体力も残っていない。ここは退く。
お互い、同じことを想っているはず。
だから、這いずる。自力で転移珠を使えない者の所まで。
雷龍は、攻撃の反動か、襲い掛かってこない。今が絶好のチャンスだ。
「はぁ……バージルッ!」
「リゼ、る……!!」
レイズはバージルを、レイラはリゼルを掴み、転移珠を握りつぶす。
その瞬間、龍の浮力が生まれた。身体が浮いたかと思った瞬間、空間がねじれた。
それと同時に、レイズとレイラは意識が飛んでしまう。
遺跡に残されたのは、雷の龍力者だけ。
彼女は、ゆっくりと背を向け、遺跡方面へと戻っていく。
彼女もまた、一筋の涙を散らしていた。だが、それは誰にも気づかれることなかった。




