戦前
レイズとバージルの最後の詰めの教育を終え、再出発をしたレイズたち。
到着予定時刻は大幅に遅れてしまったが、レイラは何も言ってこない。ただ、リゼルは不服そうな顔をしていたが。
そんな一行は、ダルト遺跡の手前で休憩していた。
短時間でカロリー摂取できるエネルギーバーをかじりながら、体力回復に努めている。
「これ、地味にうまいな」
「あぁ。俺は好きだ」
味はチーズ、チョコレート、メープル味を持ってきている。
小腹がすいたときに助かる一品だ。
遺跡はすぐそこだ。
遺跡全体がぼんやりと見えてきた程度で、龍力者の姿はまだ確認できない。
だが、仲間たちは嫌な気配を少なからず感じている。
チクチクと肌に刺すような気配だ。
ここまで来る際、数回魔物と戦闘を行った。
戦闘を回避・逃走できる距離ではなかったため、殲滅戦だった。
幸い、アンデッド系の魔物とは出くわさず、レイズが戦力外となることはなかった。
その戦闘中で改めて実感したのは、レイラとリゼルの実力だ。
先刻混戦した際、何となくの力量は見ている訳だが、レイズはそれどころではなかった。また、バージルも彼の安否が心配で正直マトモに把握していなかった。
闇龍使いのリゼル。
(マジでつぇえ。試験とはけた違いだ)
彼の攻撃は非常にスピード感があり、目が追いつかないほどだ。
ただ、単発の火力自体は高くなさそう。彼が小柄だから、そう見えるだけなのか?何となくの印象だが、火力不足を手数と速度で補っていると感じた。
剣術に関しては、無駄な動きが少なく、動線が美しい。洗練された動き。そう表現するに相応しい。
光龍使いのレイラ。
(……基礎も応用力もある。前線に出ているだけあるな)
彼女に関しては、基本がきっちり身についているというイメージだ。その上で、応用も上手い。光龍故に、ヒーラーという役割も担う。そのお陰か、周囲もよく見えている。
また、回復術が必要か否かの判断もしてくれている。号令をかける前に回復術が飛んでくるのだ。これは、受けてしまうダメージ量の計算と、詠唱時間の逆算ができている証拠。本当に助かっている。
龍の使い方も慣れている感じが見て取れる。直立時の龍力オーラも安定しているし、術技の龍力コントロールも慣れている印象。
同じ龍力者から見ても、相当量の特訓をしてきたのだと分かる。
エネルギーバーで補給し、落ち着いたのを見計らい、レイラが口を開く。
「……そろそろ遺跡に着きます。間合いの件、覚えていますか?」
「あぁ。間合い?は50メートルくらいだったよな」
レイズは騎士団基地で聞いた話を思い出す。
50メートルは広い。少なくとも、自分にそれ以上の間合いを持つ技は使えない。
だから、ある程度は近づく必要がある。被弾覚悟で。
(雷、か……それも、騎士団がヘルプを出すくらいの……)
絶対に強い力。当然、痛いだろう。
単なる雷龍の攻撃ではなく、暴走状態にある龍力者の攻撃。
彼の恐怖に気付いたのか、レイラが続ける。
「その件で。一応の対策です。皆さんにバリアを張ります。これが生きている限り、ダメージを抑えることが可能になります」
光龍のバリア。それに加え、ここの龍力の防御壁。
これの合計が、個々の防御力となる。
「それは助かるな。強引にでも間合いを詰めて、接近戦に持ち込もう」
バージルも接近戦狙いだ。だが、彼の扱う武器種は杖。
疑問が浮かぶレイズ。
「杖で前線に?」
「いや、ここからは、こっちで行かせてもらう」
と、バージルは騎士団支給の剣を取り出した。
聞けば、杖は詠唱しやすくなる(と勝手に思っている)とのこと。一人旅で治癒術を円滑に使うためだけのもので、本業は剣らしい。
「このバリアで(騎士団を壊滅させた)あの雷をどの程度凌げるか分かりません……あくまでもダメージカットです。もちろん、回避するのが理想です」
彼女は、それなりの厚さのバリアを張る心づもりだ。
それも、四人分。そうなってくると、かなりの量の龍力を使うことになる。
騎士団から聞いた被害状況から計算して、数発は耐えられるだけのバリアは欲しいと彼女は判断した。
リゼルも反論しないということは、同意見のはず。
レイラの龍力がフルパワーではなくなるが、自分たちもバリアは欲しい。
「助かる」
「頼むぜ」
「…………」
レイズとバージルは一言交わすが、リゼルは黙ったままだ。
彼女はそれを気にする素振りを見せることなく、詠唱を始める。そこで、念押しを兼ねて、彼女は言う。
「あ、あと、これは時間経過で薄くなってきますので、注意してください」
そうか。被弾しなければ永久に残ると勝手に思っていたが、違うのか。
だから、レイラを休ませる時間も取ることはできない。その間にバリアが消えてしまう。
光龍の紋章が自分たちを包み、クリスタルのような壁を作り出した。
龍力を発動させていないのに、光の防御壁が生まれる。不思議な感覚だ。
「へぇ……これがバリア……」
「バリアを貰うのは初めてだ。こんな感覚なんだな」
レイズは不思議な感覚を味わっているバージルをチラ見した。
彼を殴ったら、バリアが削られるのか?と。
流石にしないが。だが、イメージ的には、そんな感じだ。
雷だろうが剣だろうが拳だろうが、被弾すればバリアは削られる。
「……リゼル、他は何かありますか?」
「いや、ない。僕は龍力者を倒すだけだ」
その言葉に、心強さよりも、悲しさを感じてしまうレイラ。
なるべく表情には出さず、軽く頷いた。
「……そうですか。では、行きましょう」
「倒す……か」
レイズは小さく呟く。
「倒す」言う言葉に引っ掛かりがあったが、抗議はしない。
実際、その龍力者を何とかするために来たわけである。
言葉の表現に一々口を出していては、進まない。
レイズたちは荷物をまとめ、龍力者のもとに向かう。
全員が同じ方向を向いているが、その心は割と別々。
ある者は、救いたいと。ある者は、倒す・無力化する方へと向いている。
レイズは、アンデットとは別の緊張感を感じていた。
初めて見る、(特殊な)暴走龍力者。倒すのではなく、何とか救い出したい。
そのために、全力を尽くそう。そう気持ちは強いのだが。
(いよいよ、だ……ビビんなよ……)
初めての対人戦闘。
バージルの説明的に、簡単に倒れてしまうような龍力者ではない。
それでも、躊躇してしまう。傷つかないと分かっていても、剣を振るうのは、勇気がいる。
一歩一歩進めるにつれ、緊張感が高まる。レイズは胸を数回叩き、心を落ち着けようとしていた。
すると、バージルに話しかけられた。
「……割り切れないか」
「!」
詰めの特訓でも言われたことだが、このラインはなかなか難しい。
「最悪、面で叩いたんでも構わねぇよ。空気抵抗がかかる分、いつもの感覚とは違うだろうけど」
「……峰打ちってヤツか?」
「剣に峰はねぇよ」
「はい」
面なら、刃よりも攻撃力は落ちる。
正直、暴走龍力者にこんな戦法は舐めプだが、傷付けてしまう恐怖で戦力にならないよりはマシだ。
「……しっかりしてくれよ?そのうち、手を噛んで「気にすんな……特定行動だ」とか言いそうだ」
「は?……何の話だ?」
「……こっちの話だ。これこそ気にすんな」
「はい」
こんなバカなやり取りでも、レイズの気持ちは少しだけ落ち着いた。
今は、暴走状態から救い出すのが最優先。
ダルト基地の期待を背負っている。
彼らを失望させる訳にはいかない。レイズは長く息を吹き、足を進めるのだった。




