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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
32/689

闇の中の雷龍

厚い雲の下。

雷龍を祀る遺跡に、とある少女が一人。


その少女 ーマリナ=ライフォードー は、雷龍遺跡の敷地中央で佇んでいた。


みどりの瞳。それに光はなく、虚ろだ。

黄色に近い金髪をもち、毛先はやや外にはねている。長さは、肩に届くか届かないかぐらいだ。


何日も屋外で生活していたのが分かるほど、髪は乱れ、肌は汚れが目立ってきている。

また、衣服もボロボロ。破られたような裂け方をしている箇所もある。下はロングスカートで、そちらも同様。


右手には、ダルトで売っている剣。その刃には、乾いた血が付いたままだ。

視線はそれに落ちるが、何とも思わない。手入れも学んだ記憶があるような気がするが、身体は動かない。


「…………」


町の外に出るのだから、最低限の戦闘技術は身に付けた。

ダルトで住む以上、遺跡と町の往復は避けられない。そこに、龍魂の区別はない。

そのお陰か、こうして朦朧としている中でも、この身体は朽ちていない。


腹が減ったと感じたと思えば、意識が切れた。その後、ふと腹部を触ってみれば、中に入っている気がした。

喉が渇いたと思えば、同様に意識は切れる。そして、その渇きの感情は消えている。


普通なら恐ろしく思えるところだが、マリナは深く考えることができず、ひたすらにここを徘徊していた。


ただ、稀に強く「自分」が帰った来たと思える瞬間もないことはなかった。

その時は、なぜここに立っているのか、なぜ血がこんなにもついているのか、をひたすらに考えては混乱していた。まぁ、その混乱も長くは続かない。

すぐに意識の底へと「自分」が沈んでいくのが分かる。代わりに何か浮かんでいく感覚になるが、その頃思考は闇の中である。


(あなたは、だれ……?)


交代する度に思う、この疑問。

それもそのはず。普段の自分では考えられないほど、感情が高ぶり、自分の知らない力に呑まれることがある。


……この神聖な場所に近付く輩は、許さない。

……ニンゲンも、ケモノも、ムシも……当然、ゾンビも。


あぁ、あなたは、この場所に執着しているのね、と沈みながら思う。

今は、自分の気持ちが割と強め。でも、複雑な思考は無理。長い夢を見ているような感覚。


「…………」


感覚的には夢だが、痛みも空腹も乾きも感じてはいる。

それだけでなく、感情の起伏も。そして、「あなた」が浮かんできた時は、決まって攻撃的になるのも。


ただ、なぜ雷を放ったのか、放てるのかが分からない。そんな記憶は、過去にない。

過去の法則的に、「あなた」がそうさせているのは間違いないと思う。


しかも、凄まじく強いエネルギーの雷だ。距離を詰められても、雷を纏わせた剣を主舞いするだけ。当然、そんな記憶はない。技術として習得していないはずなのに、それを我が物にしている。


でも、そこまで傷付けなくても。

多分だけど、彼らは敵じゃない。当然、どす黒い悪意を感じての怒り爆発もあるけれど、敵じゃない。だって、騎士団の服を着ているのよ。


あぁ、また一人、黒焦げになってしまった。また一人、二人、三人……

力を放てば放つほど、地面を舐めるニンゲンは増えた。でも、最後の殺しだけは、身体が硬直するほどに躊躇が強かった。それだけは救いだったと思う。そのお陰で、敷地内の死体は、ゼロだ。

が、コテンパンに叩きのめしたのは事実である。当然、徐々にニンゲンは来なくなった。


手に負えないと判断された、と、遠い意識の中でも判断できた。

もう、誰も傷付けたくない。悪意や敵意を持ったニンゲンは別だが、正義あるニンゲンに力を放ちたくない。


誰か、この苦しみから解放して。


「ァ……」


そう願うも、口に出すことはできない。

気持ちは落ち着いていても、身体とのリンクは薄い。


叫びたくても、喉は震えない。

帰りたくても、足はここを離れない。


自分が自分じゃなくなっていくようで、本当に、怖い。


このまま見捨てられ、誰にも知られず朽ちていくのか。




助けて。助けて。助けて。




雷の力。

雷龍の力。

なんでこんな力が扱えるの?それも、見たことがないくらい、強力な。


こんな力、要らない。




助けて。助けて。助けて。




眼前には、遺跡の風景がぼんやりと見えている。

人を傷つけるため、放った雷。その衝撃の跡や、切り裂くために走り回った跡。

戦闘の爪痕が、まだ色濃く残っている。


すぐにでもこんなおぞましい場所から離れたい。

しかし、肝心の意識は、闇の中。




助けて。助けて。助けて。

誰か。助けて。




と、ダルト方面の雲が、少し揺れた。

本当に微かな揺れだ。数秒経たないうちに、雲は変わりなく空を支配した。

その一連の光景を眺めていたマリナ。あの雲の下で、何かがあった。それも、悪い方の何かが。


「…………」


離れていても分かる、この空気。いい加減、飽きてきた。

次に起こるのは……あぁ、もう始まっているかも。


混沌とした意識が浮かび上がってくる。それと引き換えに、穏やかな意識が沈んでいく。

あぁ、やっぱりね。


こんなにも「交代」を繰り返していたから、空気感で分かるようになっていた。


ここに誰か来る。空気感からして、強い正義を、志を感じた。間違いなく、傷付けてはいけないニンゲン。だが、どうすることもできない。

この雷の餌食となるニンゲンが、もう少しでやってくる。


ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。


「自分」は、また人を傷つける。

望まない力の覚醒に抗えず、裏のカノジョの命により、静かに目を閉じた。

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