龍力の防御壁
レイズの力が戻った時、彼はバージルに呼び出されていた。
バージルはレイラに頼み込み、少しだけ時間を作ってもらったのだ。
当然、リゼルは良い顔をしなかったが、仲間を救おうとしないカスは気にしない。
リゼルがレイラの右腕で、彼女に指示も出していようが、チームリーダー的ポジションはレイラだと思う。
「こちらこそ、お願いします」
「すまん」
そうして、久しぶりのマンツーマンレッスンが始まった。
岩石地帯故に死角は多い。が、見える範囲に魔物はいない。それに、レイラが周囲を見てくれている。
リゼルも傍についているが、彼には期待していない。
彼に対して思うことはあるが、レイラが何を言っても聞かないのだから、自分が言っても無駄だ。
とにかく、今はレイズのフォロー。
位置についたタイミングで、バージルはレイズに切りだす。
「ゾンビが怖かったか?それとも、人を斬るのが怖いか?」
「!!」
顔が強張る。やっぱり。先程のフィードバックか。
何を言われるか予想はついていた。が、実際に話を振られると、顔に力が入る。
先程の戦闘では、完璧にお荷物だった。
龍力の扱いにも少しだけ慣れており、調子に乗っていたのかもしれない。
自分は、戦闘経験も龍魂経験も浅い、雑魚なのだ。それに、魔物の種類なんか、一握りしか知らない。
それに加え、対人戦闘はしたことがない。
「……両方、かな……ゾンビは、ヤバかった……」
正直、外の世界にあんなおぞましい生き物(死んでいるが)が存在しているとは思わなかった。
動物系や昆虫系、岩石系の魔物には、恐怖心は抱かなかった。それらの存在は予測できていたし。
アンデッド系、かつ、人の姿でショッキングな見た目。鼻を突く腐敗臭。
心の底から恐怖し、龍力維持もままならなかった。今思い出しただけでも、震えが止まらなくなる。
「…………」
レイズが震えているのを、黙って見つめるバージル。
龍力に慣れてきたことで後回しになっていたが、先日初めて魔物と戦い始めたばかり。
ちゃんと戦闘のフォローと魔物の種類について教えていれば、心の準備をしてもらう時間もできたはずなのに。
「それに、人に剣を向けるのも……いや、ゾンビは人じゃねぇけど……」
また、人に剣を向けるのも、躊躇う。
ゾンビは人ではないが、人の姿をしている。レイズは、その辺りが割り切れていない。
「そうか」
バージルは考える。
正直、今からアンデッドの恐怖を克服させるのは、難しすぎる。
レイズでなくとも、死亡率が高い魔物だ。団内でもトラウマを抱えている人間は多いと思う。
だから。
「……対人戦闘恐怖だけでも克服しときたいな」
「頼む」
直近、雷龍使いとの戦闘が控えている。
なら、そちらの克服に重点を置くべきだろう。
「何が怖い?俺に剣を向けられるか?」
そう言って、バージルは肩を張る。斬ってみろ、と言いたげに。
「……無理だ。死んじまうぞ」
人を斬る恐怖。死亡させてしまうかもと言う恐怖から来ているか。
「生身なら、な。これなら、まず即死はない」
今度は、龍魂を発動させた。
龍力オーラがバージルを包み、風が生まれる。
「ちゃんと説明してなかったかもな。龍力オーラは、直接防御力へと繋がる。龍力の防御壁ってトコかな」
「龍力の、防御壁……」
「これさえ発動していれば、ダメージを大きく下げられる。龍力の力関係にもよるけど、一回斬ったくらいじゃ大したダメージにはならねぇよ」
確かに、戦闘で攻撃を受けたことは何回もある。
それなのに、思ったよりも痛くなかったのは、この防御壁のお陰。
龍魂により、身体能力が著しく向上すると聞いていたが、その具体的内容は、コレか。
「……やってみ?」
レイズは頷き、遠慮気味に剣を振った。
確実に辺り、彼の肉を裂く攻撃だったはず。それなのに、手に伝わった感触は、不思議なものだった。
「!」
空を斬った訳でもなく、肉を斬った訳でもない。
何か柔らかい物に当たり、押し返されたような感覚。
「これが、龍力の防御壁だ。お前は今生身だから、力関係は明らかに俺が上。ノーダメだぜ」
「そうなのか……すげぇな……」
龍力者に剣を一回振ったからと言って、即人殺しにはならない。
その事実が分かったとしても、対人で剣を振るのは勇気がいる。その敷居を少しでも下げられたら、今は勝ち。
「力関係がひっくり返った時、初めてダメージを受けるんだ」
「なるほどな……」
戦闘になれば、もっと複雑である。だが、ここで知っておくべき基本情報は、こんな感じ。
「人に剣を向けるのが怖いのは、忘れちゃいけねぇ感覚だと思う。けど、場合によっては、剣を向ないといけない。これは、騎士団云々の話じゃねぇ」
「……分かってる」
『あの日』以降、国の情勢は非常に不安定。
エラー龍力者は増えたし、魔物は凶暴になっている。
望まなくとも、対人戦闘を強いられる機会は増えてくるだろう。騎士団とは無関係に。
「こんどは本気で振ってみろ。龍力使ってもいいぞ?」
「言いやがる」
対人戦闘に慣れるための特訓。
その初々しい姿に、レイラは微笑ましくなるのだった。




