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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
30/689

命の優先順位

バージルとリゼル。間に入ったレイラ。

仲間を救おうとしなかったリゼルを庇うのが、意味が分からない。


「退けよ!!」


頭に血が上ったせいで、完全タメ口。命令口調にすらなっている。


「……お願いします。ここは退いてくださいお。私がお願いすれば良かったんです」

「はぁ?お願いだぁ?」

「彼は、チームメイトですら、私の指示がないと救おうと動きません。再三注意しているのですが……」

「なん、だって……??おま、何言って……いや、は?」


仲間を救うために臨機応変に動くのに、指示が必要?何を言っているんだ?このバカは。

これも騎士団のルールか?流石にそれは聞いたことがないぞ。


「……申し訳ございません。これは、彼の生い立ちと言うか……自発的に動けない傾向が強いです……」

「意味分かんねぇ。クビにしろ。そんなヤツ。仲間を救うのに指示が必要?騎士団はそこまで腐ってんのか?」


これでは、未来永劫人手不足である。仲間を救う文化がないのだから。

しかし、レイラは首を横に振る。腐っている訳ではありません、と。そして、リゼルも腐った考えをしている訳ではない、とも。


「これは……彼の思想、みたいなものです……」

「は?」


そこで、リゼルがこちらを睨んでいるのが見えた。

なぜお前がそんな目をしている?責められているのは、責められるような行動をした……否、動くべき時に動かなかったお前なのに?


煮えたぎる頭で言葉がグルグル回っていると、先にリゼルが口を開いた。


「おい」

「!」


彼は睨んでいるだけでなく、本気で怒っている様子。


「その雑魚は、魔物と戦うこともできないのか」


その雑魚、とは、間違いなくレイズのことである。

そう言えば、未だに名前を呼ばれたことがない。レイズも、自分も。

この際、どうでもいいが。


「う、るせぇな!!戦えるさ!!お前も知ってるだろ!?これまでだって……ミナーリンでも戦った!!」

「足を引っ張るのが戦いか?」

「ッ……」


ミナーリンでは暗黙の了解を無視し、団員の足を引っ張った。

結果は変わったと思うが、選ばなかった「たられば」の未来の話は意味がない。

道中でも戦ることは証明できたと思うが、「足の引っ張り」を出されたら、口を閉じるしかない。


龍力初心者も、あの日の被害者も、最前線に出てしまえば言い訳にならない。

だが、そのためのチームだ。救うために動こうとすらしないのは、また別問題。


言い返そうとしたが、リゼルは続ける。


「僕の使命は、レイラを守ることだ。命に代えてもな。だから、他の命は見捨てさせてもらう」

「リゼル!私は私で守れます!!自分の意志で、最前線に出ています!!」

「それでも、お前は王だ。王の命を守るのが、騎士団の役目。いざとなれば、僕は命を捨て、お前を生かす」


確固たる信念に、バージルは開いた口が塞がらない。

これが、コイツの思想か。


「な……!?」


ただ、レイラとは再三同じ話をしているようで、そこから言い合いが始まっている。


「そんなこと望んでいません!ですから、天秤にかけるようなマネは止してください!」

「何回言われようと同じことだ」


あれほどハッキリと「命を捨てて他人を生かす」と発言できるのか。

噂で聞いた以上の固執ぶりだぞ。


「あ~~もう……いつもそうやって……」


今までも同じ結果だったのだろう。実際、リゼルの思想は変わっていない。

気高く、美しい彼女が、情けなく頭を抱えている。


「そんなことより」

「あ゛?」

「その雑魚は、人間は切れるのか?」

「!!」


レイズは未だに呆然としている。

彼が戦えなかったのは、相手が人の形をしていたから?アンデッド系の魔物でショッキングな見た目をしていたから?

そこはまだ断定できていない。が、リスクとしては知っておく必要があるのだ。


「そのバカがお人好しなのは知っている。多少力が使えることもな。だが、これから対峙するのは、生きている人間だ」


特訓で、当たり前のように魔物を相手していた。だから、魔物の種類で彼が恐怖を感じると予測できなかった。

恐怖を感じるだけでなく、あんなにも動けなくなることも。


ゾンビは人間の転生であるため、自分たちと近しい姿をしているからか。

腐敗のため、グロテスクだったからか。その両方か。


何にしても、今まで人間と本気の戦いはしたことがない。

今から向かう場所では、50メートル内に入った瞬間戦闘が始まる。


同年代女性、雷龍使いと。

暴走状態であるため、手を抜ける状況でもない。


「遺跡で動けなくなってみろ。レイラを危険に晒す気か?」

「いや、それは……」


レイラの意思で最前線に出ている以上、城に籠ってろよ、と言うのはナンセンスか。

短い付き合いだが、城に閉じこもっていられる性分ではない。


気付けば、リゼルはかなり至近距離まで来ている。そして、恐ろしく力の入った声で、吐き捨てた。


「レイラを危険に晒す雑魚を、守る義理はない。以上だ」


吐き捨てたと思った瞬間、彼は踵を返し、どこかへ去っていく。


「リゼル!待ってください!!」


後を追うレイラ。彼女がいれば、多分先に行ってしまう心配はない。

それに、監視も兼ねているこのチームだ。彼は自分たちから遠く離れることはできない。


バージルは、リゼルに何も言えなかった。

彼の中で、命の優先順位は明確。レイラが頂点。次点はあるのか不明。

ただ、レイラが助かるなら、平気で命を捨てそうな勢いだった。多分、咄嗟に出た付け焼き刃の言葉ではないだろう。

本気で、彼女を想っている。


彼の覚悟に、ただただ圧倒されただけの時間だった。

と、そこでレイズのか細い声が聞こえてきた。


「バー、ジル……」

「レイズ。動けるか?」

「いや、けど、だいぶ落ち着いたかな……」


腰は抜けているが、震えは止まっている。

もう少し休めば、力は戻ってくる。


「……聞こえたよ。全部」

「あぁ。すまねぇ」

「なんでだよ」

「最初、スムーズに戦闘に移行できただろ?だから、タイプ別でどうなるか検証できてなかったんだ」


戦いは、命のやり取りである。

だから、規模感関係なく苦手な人間は多い。龍力者でも、それは例外ではない。

龍の力があっても、負ける時は負ける。全滅=死の世界だ。

苦手意識を持っている人間は、少なくない。


レイズは畑仕事中心だが、肉を食すためには狩りが必要と理解している。

だから、戦いに前向きだっただけだ。

難なくスタートが切れた。と、バージルは判断してしまっていた。そこで、分析が疎かになっていたのだ。



知ってしまった以上、乗り越えてもらわなければならない。

ここから先は特に。騎士団に身を置いた以上、人も相手することになる。人に剣を向けることになると。


「行けそうか?レイズ」

「……どう、だろうな……」


人と、人型と戦う恐怖。剣を向ける躊躇。それらは、捨てなければいけない。

生き残れないし、仲間を救えない。


人に剣を向ける覚悟。自分にそれがあるのか。


(そんなこと、今悩むのはクソだ!!俺は救いたくて進んでるんだぞ!?)


だが、いつかは乗り越えないといけない現実。

レイズはバージルに見守られ、苦悩するのだった。

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