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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
29/689

アンデッドとの遭遇

人型の魔物。

元は、町の外で息絶えた人間。

魔物との戦闘で敗北し、そのまま死亡してしまった者や、遭難で誰にも知られることなく死亡してしまった者など、原因は様々である。


そのまま土に還ることなく、魔物の瘴気に当てられ続けた場合、歩く死体となって復活し、人間を襲う。

グール・ゾンビ系の魔物となって。


魔物なのだから、当然討伐対象。しかし、姿形は人間である。腐敗が進み、だいぶグロテスクだが。


今、レイズたちは、その魔物と遭遇しているところであった。

正確には、魔物の群れ。獣系や昆虫系の魔物を相手していた時、ゾンビの侵入を許してしまった。


「レイズ!!そっちに行ったぞ!!」

「ッ……!」


フラフラと身体を揺らし、近付いてくるゾンビ。

動きはノロいが、他の魔物と混戦していると、満足に回避できない。


声にならない声を上げ、腐った肉と血まみれの身体で近付いてくるのは、トラウマになりそうだ。

現に、動くことができない少年が一人。


(相手は魔物!!相手は魔物ッ……!!)


必至に言い聞かせるが、身体は動かない。

身体を支配しているのは、恐怖のみ。恐怖は震えを誘発し、上下の歯が激しくぶつかる。

「お漏らし」はしていないが、正直時間の問題だと思う。括約筋の随意支配まで意識が回らない。


今戦っている、獣系や昆虫系の魔物にはこんな感情抱かなかった。

相手は魔物。それなのに、グール・ゾンビは桁違いに怖い。


アンデッド系の魔物は、殆どが闇属性だ。

即ち、光龍使いのレイラがいれば、苦戦することはない。

だが、アンデッド系の魔物を全て彼女に押仕付ける訳にも行かないし、立ち位置や残体力の関係で自分が相手することもある。

だから、越えなければならない試練なのだが。


レイラ、バージルもそれぞれ別の魔物を相手しており、フォローが間に合わない。


リゼルに関しては、フォローする気があるのかすら謎レベル。レイラの近くで立ち回り、レイズとは距離が離れている。

龍術なら距離は重要ではないが、アンデッドもリゼルも闇属性。

怯ませるには、より大きい力を練る必要がある。それでも、仲間なのだから、動いてほしいが。


「ぁ……ぁ……」


その間にも、ゾンビとの距離が縮まっている。

腐り落ちた数本の指で、こちらを掴もうとしてくるのだから、本当に怖い。


全てが腐敗しているゾンビだが、魔物の瘴気のお陰で、立つことも歩くこともできるようになっている。

そして、肉を掴む力、噛みつき、引きちぎる顎の力も備わっている。


だから、掴まれたら、肉を食われる。

頭では分かっているのに、この人を剣で切り裂く勇気が湧かない。


「おい!!レイズ!!」


魔物と応戦しつつ、声を張るバージル。しかし、彼には届かない。

激しく動揺しているのも相まって、龍力も不安定になっている様子。


彼の剣を燃やしている炎。それが、平常時よりも小さくなっている。完全に潰えてはいないようだが、あの攻撃力では、仮に攻撃できても、ゾンビの力に押し負ける。


(クソ……!!)


魔物一体一体は弱くとも、数で来られると、だいぶ厳しい。

数を減らすので精一杯なバージルは、レイズのフォローができない。


と、次の瞬間、レイズの腕がゾンビに掴まれてしまった。


「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


腐った血のぬるりとした感覚と、乾いた肌の接触。鼻を突く腐敗臭。

今にも崩れそうな筋肉量なのに、跡が残りそうなほど強く握ってきた。


「ッ!やべぇ!!受け取れ!!」


もう限界。かつ、間に合わない。

バージルが、自分の転移珠を投げつけようとした瞬間、光の一閃が横切った。


「!!」


その一線は、器用にゾンビの腕だけを撃ち落とした。

耳を塞ぎたくなるような破壊音が響く。


「ひっ……」


破壊された腕の断面。

筋組織や、骨、血管が至近距離で意思表示している。

至近距離でショッキングな場面だが、食われるより数倍マシだろう。


「レイラ……!」


光龍の一撃。

彼女の周囲にいる魔物は全員地面に転がっていた。その脇には、当然のようにリゼルが立っている。

しかも、こちらに背を向けていた。

その光景に、バージルの動きが止まる。


(は……?)


あの様子だと、彼は動けたはず。それなのに、優しいレイラにその役目を押し付け、自分は休憩しているのか?

ブチぎれそうになる心の感情を抑え、目の前の魔物をぶった切るバージル。


「だぁぁぁあああッ!!」


風龍の力で魔物を切り裂き、そのまま体の向きを変える。


ゾンビは腕が千切れただけで、討伐はできていないのだ。

バージルがフォローに走ろうとした瞬間、また一閃。


今度は、ゾンビの頭を吹っ飛ばした。


「!!」


肉が爆ぜる音。飛び散る腐敗した血と肉片。

ショッキングすぎるその情景に、レイズは完全に龍とのリンクが切れ、腰が抜けた。

崩れるようにその場に座り込み、腕の力で姿勢を保つ。


「はぁ……はぁ……」

「レイズ!!大丈夫か!?」


彼は目を見開き、倒れたゾンビを凝視している。

歩かなくなった死体から転がり落ちる金品など、彼の目には入っていない。


「空気がわりぃ。離れるぞッ!!」


肉片血だまり。更に腐敗臭漂うこの場は、環境的に最悪。

バージルはレイズを引きずり、新鮮な空気を吸わせる。その間に、彼の状態をチェックしていた。


(怪我はねぇ……レイラのが間に合ったんだ……けど、アイツは……!!)


バージルは、その「アイツ」を睨む。彼は、相変わらず背を向けたまま。

よく見れば、抜刀すらしていないではないか。少し手前にいるレイラは、まだ抜刀状態。即ち、納刀で待機できるだけの時間はあった。フォローに入れるだけの充分な時間はあった。

それなのに、このボケはレイズを見殺しにしようとした。


「てめぇ!リゼル!!おい!!オメェだよ!!」


頭に血が上ったバージルは、試験でボコボコにされたことも忘れ、リゼルに詰め寄る。

正式な部隊ではないが、チームであり、仲間だ。その仲間を、コイツは見殺しにしようとしたのだ。

こんな事実、すぐ公表してこのボケをクビにすべきだろう。


しかし、間に入ったレイラに止められてしまう。


「待ってください!!」


一触即発のピリついた空気。

相手が王の肩書を持っていることも忘れるほど、彼は怒りに煮えたぎっていた。

止められる筋合いはない。


仲間であるのに、この空気感。いったい、どんな仁義があって、ボケは仲間を見捨てようとし、このボケを庇っているのか。

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