岩石産業の町ダルト
飛行艇に揺られて数時間。
レイズたちは、『岩石産業の町ダルト』に到着した。
厳密には、ダルトに隣接している騎士団基地に、だが。
ダルトがある大陸は、雲に覆われており、薄暗かった。
レイズたちが来た日がたまたま曇りだった、ということではなく、元々日が差す時間は少ないようだ。
そのため、外部から来た人間は、この環境に慣れるまでにに時間が掛かるとか。
日差しがないことと、北に位置していることもあり、肌寒い。
風があると、震えてしまうほどだ。
また、曇りの時間が長く気が滅入りそうに思えるが、住人たちの顔はそれを気にした様子はない。
基地に入る前に、ダルトの空気感に慣れるために町を散策しているレイズたち。
レイラとリゼルには不要な時間だったが、新人二人を野放しにする訳にもいかず、同行している。
岩石産業と名前がついているだけあって、何もかもが岩石を利用していた。
家までも。
レイズは当然だが、バージルにとっても目新しい。
「……珍しい家だな」
「あぁ。かまくらの岩バージョンみたいな……」
大きな岩石を加工したような感じの家が並んでいる。
地龍の力と、人間技の合体作だろう。
また、職人気質の人が多い印象だ。作業着を着た人間をよく見かける。
レイズが見る限り、エラー龍力者の爪痕はない。
日光が恋しくなるが、ダルトの空気にも慣れた。
一通り町を見終わった頃、空が更に暗くなり始める。
「そろそろ夜になりますよ。行きましょう」
「はい。いや、おう……」
バージルは、まだ固い態度が抜けない。また、レイズも気が抜けている時は自然と敬語が出ていることもある。
ドレス姿よりは親近感があるが、人として近くなったわけではない。
王と一般人が突然同じ班になり、対等に会話してくれと言われても、到底無理だ。
増税を繰り返しているトップなら、嫌悪をぶつけることもできそうだが。
さて、時間的にも、調査的にも、ここで切り上げ。レイラの提案に従い、騎士団基地に移動するレイズたち。
騎士団基地では、ミナーリンではあり得ない丁寧な対応を受けた。
最低限の物しかないような質素な部屋ではなく、隊長クラスが過ごすであろう部屋を用意される。
食事も缶詰ではなく、食堂での手料理であった。
今日はこの基地で休み、明日、その龍力者がいる遺跡に出発する。
龍力者に過度な刺激を与えないよう、特別部隊の四人で対応だ。他の団員は、他の依頼に集中することになっている。
引率もなし。この四人で、遺跡に向かう。
着いてからの食事や入浴、その他の余暇時間は自由であった。
レイラとリゼルは、周囲のことを考え部屋に引っ込んでいるが、レイズとバージルは表で好きに過ごしていた。
もちろん、龍魂の特訓も忘れない。
明日に響かない程度に、基地内で特訓をしていた二人。
王都で別行動中も練習していたのか、だいぶ扱いに慣れてきているレイズ。
ただ、戦闘で大きく動くと、調整や意識がブレやすくなる印象。それでも、出発当初よりは格段にレベルアップしている。
「よし。ここまでにするか」
「よっしゃ!!腹減った~~!!」
緊張の糸が切れたか、レイズはどかりとその場に座り込む。
「飯にしよう。確か、こっちだったな」
特訓を切り上げ、食事を食べている二人。
すると、王都から来た応援だと耳に挟んだのか、団員によく話しかけられた。
(……意外と元気だな)
遺跡の龍力者の問題を抱えてはいるものの、全員が満身創痍なほど組織が崩れている訳ではないようだ。
そして、彼らから興味深い話を聞けた。
レイラは当たり前だが、リゼルも有名人。
二人共、騎士団の中でも上位の腕前らしい。バージルはそれを痛いほど理解している。
力を制御されて、あのレベルに力を扱えるのだ。当然、実力は上の方だろう。性格に難ありとは思うが。
また、騎士団で市民を守るという義務よりも、レイラの安全を第一に考えているようだ。
レイラの盾となり、剣となり戦っている、と。ただ、別基地の団員にまでその辺の事情が知られてしまっている。それだけ分かりやすいのだろう。
(ま、少し見ただけで分かるけどな……俺でも)
そう言えば、アーロンもリゼルはレイラのことが好きだの何だの言っていたな。
(顔は変わんねぇのに……分かりやすいヤツだ)
そして、レイラは王としてのポジションがあるにも関わらず、最前線に出ている。
ただ、それは『あの日』よりも前からだ。騎士団に身を置き、龍力の研鑽を積んでいたらしい。
『あの日』以降、それは極端になったらしい。王が最前線にいるのはどうかと思ったが、彼女の性格的に、抜け出してでも外に繰り出すだろう。
なら、リゼルを傍に置き、騎士団組織内で動いてくれた方が、まだフォローしやすいのか。
(……芯は強そうだもんな)
面談したレイズは、少しだけ口角を上げる。
その変化に気付いたのか、団員のテンションが上がる。
「まだまだこんなモンじゃねぇんだ!」
「とことん付き合えよ!?」
話はまだ続くらしい。
レイラは、幼い頃から剣に興味を持ち、周囲の反対を押し切って剣を始めたとか。
メキメキと実力をつけ、今までに何人もの師匠に勝ってきているとのこと。
王都が雇う師では力不足(師が気を遣っている可能性はあるが)と判断したのか、隊長クラスとも手合わせしているとか。
「多くの時間を城で過ごしていたグランズ王よりも良い」との評価だ。
「レイラ様はマジですげぇんだ!けど、リゼルさんは経歴がよく分かんねぇんだよな」
彼女は生まれも育ちも当然王都だ。しかし、リゼルの出身は今も不明。二人は幼いころから一緒にいるらしい。が、かと言って恋人関係ではないようだ。
なぜ、そのような人間がレイラの傍についているのか。そして、多くの任務を共に受けているのか。謎に包まれている。
話を聞く限りでは、レイラを守る騎士様気取りかとも思うが、「かっこつけ」だけで出来るほど、騎士団は甘くない。
それに、レイラに固執しているあの態度。彼女に気に入られたいだけの「かっこつけ」だけでできるものではないと思う。
それに、彼女はそんな簡単な女性ではないとも考える。
(訳アリ、だよな……?多分……)
噂話は話半分に。レイズは適当に相槌を打ちながら、様々な話を聞いていた。
騎士団のこと、ダルトのこと、もちろん、ここの騎士団基地が抱えている、例の問題のこと。
良いことから悪いことまで、ガッツリと。
「……あいつら、溜まってんのな」
ようやく解放され、部屋に移動するレイズたち。
団員たちのマシンガントークに疲弊したレイズは、食堂を振り返りながら呟いた。
「そりゃな。『あの日』からの騎士団への風向きはつえぇよ」
「それでも……やってるんだよな」
「あぁ。辞めてない。生活のためってのもあるけどな。ただ、グランズ王はアレだったけど、レイラは気に入られてる気がする」
「そう、だな……」
バージルから『国への信頼がない』など聞いていたが、少なくともレイラは努力している。
ただ、それが結果に結びつくのに、時間を要しているだけ。それでも、騎士団で働く同志たちには、しっかりと伝わっている。
「……あれだけの事故だ。やっぱ、時間はかかるさ」
「あぁ。それは、分かる」
しかし、エラー龍力者側や被害者側から考えると、もっと迅速に対応してもらいたい部分はある。
ただ、国が何もしていないのではないことは理解できたし、体感できた。
レイズは頭を切り替える。
部屋に到着し、ドアノブに手をかけ、言う。
「……まずは、明日だよな」
「あぁ。もう寝ちまおう」
聞いた話で色々二人の仲を予想しながらも、明日に備えて眠りについた。




