特別部隊
入団式が終わり、団員それぞれが配属地に向かう道についていた。
少し心残りなのは、アーロンが言っていた女性のこと。
(……結局、会わなかったな)
バージルは、分かりやすく肩を落としていた。
同じ場所で試験を受け、リゼルとの戦いでも怯まなかった彼女。銀色の髪の女性、フォリア。
同じ会場で試験を受けた縁もある。会ってみたかったが……
この機会を逃せば、会える可能性は限りなく低くなるため、残念である。
(飛行艇で散るのか。流石に無理だな)
王都以外の配属者は、本部から飛ぶ飛行艇に乗り込み、散り散りになる。
研修も移動先で行うため、最大のチャンスはここだったのだが。
(はぁ……しゃなぇねな。俺はココだ)
配属先は送付された書類に同封されており、式典後に向かう場所が記されていた。
バージルの物には、レイグランズ城内の謁見室に来るように記されていた。
これは、王都勤務であることを意味している。
多分だが、レイズも同じだろう。彼は俗に言うエラー龍力者であるし、中央に置いておきたい存在のはずだからだ。
よって、そこで会うだろうと思い、バージルは城内を歩いていた。
(……流石城だな。ホテル以上だ)
柱も装飾も、ホテルのものとは格が違う。
高級そうなだけでなく、頑丈さも兼ね備えていそうだ。
そのこともあり、城のダメージは多くなかったのかもしれない。
と、謁見室の前まで来た時、やや懐かしい顔が見えた。
「レイズ!!」
「お、バージル!」
数日ぶりの再会。
予想通り、彼も王都配属だった。
が、少々気になる点がある。
「……他のメンツは?」
「いや?今んとこ俺たちだけだ」
レイズは一番に着き、待っていたが、誰もここには来ていない。
その事実に、バージルは首を捻る。
(王都勤務が二人?そんなことあり得るのか……?)
しかし、騎士団内部の事情を知らない人間がいくら考えても、答えには到達しない。
彼とは違い、レイズはそのことを一切気にしていない様子。
そんな姿を見て、考えるのがバカバカしくなってきた。
(……もういいや)
と、一人のメイドが見えてきた。
(あれ?あの時の?)
見たことある気がするメイドにつれられるレイズたち。
例によって、二人は謁見室に通され、待つように指示された。
既に用意されていたイスに座り、一息つく二人。
「実感が湧かないな……」
と、レイズがポツリと呟いた。
「……何がだ?騎士団のことか?」
「それもあるけど……ここでレイラと会ったことだよ」
「会ったのか!?」
バージルは驚き、大きな声を上げる。天井に声が反響する。
「静かにしろよ」
「す、すまん……」
「エラーで自発的に?志願したのは俺が一人目ってことらしい。それで、話した」
「……そうなのか。一人目、なのか……」
そこは考えていなかった。
エラー龍力者の騎士団への入団。言葉上は入団だが、実情は国に保護・監視されている状態。
肩書は騎士団員となるが、ポジティブな面だけではない。
教育も受けれて給料も出るのだから、オイシイ話だと思っていた。そのため、もっと志願者がいると勝手に考えていた。
しかし、実際はレイズが自発的入団第一号。
入団試験の人数が多い印象だったため、そこまで気にしていなかった。
実際は、レイラのスピーチあったように信頼関係は深刻なようだ。
「生活は機能してるけど、信頼がないのは……」
「まぁ、きついな……」
国家としてやっていけるのか。
ただ、減税や修繕に全力なことが伝わり、支持率は下げ止まりしている。
が、騎士団に家族を預けられるかどうかは、別問題だ。
解決するのは、実績を上げるしかない。
異次元や確固たる覚悟など、強い言葉で誤魔化すのでは誰にも届かない。
先送りできない事案に取り組み、生活を改善させなければ、国の声を聞こうと思う国民はいない。
などと小声で話していると、レイズたちが入ってきた扉から、リゼルが入ってきた。
闇色の髪、片目が隠れるほど長い前髪。キツそうなご尊顔。低身長。相変わらずだ。
「…………」
二人と目が合うが、リゼルは何も言わない。だけならまだよかった。なぜか舌打ちをされる。
(あのクソやろう……)
無礼なヤツだ。あれで騎士団員が務まるのか、疑問である。
実力は認めるが、騎士団としても礼節は見についていないように思う。
彼は、二人から少し離れた位置に座った。
腕と足を組み、目を閉じる。
「……何なんだ?」
「さぁ……」
リゼルがいるこの空間で、静かな空気が辛い。
レイズたちが声を掛けようかと迷っていると、奥の扉が開いた。
それと同時にリゼルは立ち、姿勢を整える。それを見ていた二人も、慌てて立ち上がる。
扉から出てきた女性ーレイラ=シュフールーは、ドレスではなく、騎士団で身に着けるような服を着ていた。服の装飾はリゼルと同じか、それ以上だ。
上着は男性団員と同じようなコートだが、下はスカートにブーツスタイル。
腰に剣を携え、戦う準備万端のような格好だ。
相変わらず、美人で、そして凛々しく見える。
……と言うか、あれで戦うのか?見えてはいけないものが見えてしまうぞ。
と思い、バージルは眉をひそめる。
まぁ、リゼルが何も言わないということは、そういうことなのだろう。
フォリアを探すのに夢中になっていて、他の女性団員(特に下半身)を見ていなかった。
レイラに限らず、他の団員もスカートスタイルなのかもしれない。
「よく来てくれました。どうぞ、こちらへ」
彼女は出てきた扉とは別の扉を示し、来るように指示する。
「行くぞ」
ここで初めて、リゼルが口を開く。
二人も従い、扉を潜る。
その先は、小さな部屋だった。
中央にテーブル。その四方にソファーが置かれている。
部屋の隅には、花が活けてある。
レイズ、バージルはレイラと向かい合うように二人掛けのソファーに座った。
リゼルはまた少し離れた位置に立ち、腕を組んだ。今度は座らない。
主役はあくまで自分たちのようだ。
全員が落ち着いたタイミングで、レイラは頭を下げた。
さら、と美しい髪が重力に倣う。
「改めまして、入団、おめでとうございます。同時に、ありがとうございます」
「あ、あぁ……」
「……っす」
バージルは緊張している。レイズは話すのは二回目だが、はやり慣れない。
「……早速ですが、あなた方二人には、特別な配置を考えています」
「特別……?」
バージルは繰り返す。
それにレイラは頷き、続ける。
そうか。だから、自分たちしかここに来なかったのか。
他の王都配属の団員は、本部にでも向かったのだろう。
「レイグランズから南北にある大陸に、ダルトという町があります。そこで、龍力者の暴走と思われる通報がありました」
「!!」
龍の暴走。レイズは身を固くする。
恐らく、あの日の被害者だろう。
「ダルト……」
この世界の南方寄りに位置する大陸。そこにある町だ。
石関係の産業が盛んだと聞いたことがある。
「……駐在している騎士団では太刀打ちできなかったそうです」
「!!」
「もちろん、実力がないわけではありません。が、応援が欲しいと本部へ要請がありました」
「まさか……俺たちが?」
「……はい」
そこで、レイズは口をはさむ。
「待ってくれ。暴走だろ?」
「……えぇ」
「なら、力が空になれば収まるはずだろ?しかも、俺と同じなら、何週間も前の話だ。今も暴走状態なのか?」
そう。レイズが経験した暴走は、凄まじいエネルギー放出が主だ。
エネルギーを使い果たせば、暴走は収まり、龍力者は気絶してしまう。
(レイズ……お前、言葉が……)
と言うか、バージルはタメ口でガンガン言えるレイズにヒヤヒヤしている。
いつリゼルに刺されるか気が気ではない。
彼の心配はお構いなしに、話は続いている。
「……報告では、遺跡を守るように龍を使っているようです」
「守る?」
「ダルトの近くには、雷龍の遺跡があります。その龍力者は、暴走状態にあるものの、遺跡に人が近づかなければ、龍は落ち着いているようです」
人の接近が、暴走のトリガー。
周囲に人がいなければ、その龍力者は落ち着いているとのこと。
「えっと……それは……良いことなのか?」
「いえ……その方は、龍魂の影響で、遺跡から離れられない状態にあります。遺跡に川は流れていますが、食料は魔物次第です。良くも悪くも、これらが彼女の命を繋いでいるようです」
それは、生前の龍の性格的な部分か、それとも無意識にエラー龍力者が『守りたい』と思っているからなのか、ここでは結論は出ない。
どちらにせよ、行動の多くを龍に支配されていることは理解できた。
「……珍しいタイプの暴走ですね」
バージルは大きく息をつく。
これだけエラー龍力者が一気に増えたのだ。不思議なケースが出てきてもおかしくない。
「はい。むやみやたらに力を使うのではなく、何かに固執している点からも、今までのタイプとは違います」
「それで、俺たちが?」
「はい。私も同行します」
「「え?」」
レイズとバージルは顔を見合わせる。
「あなた方二人と、私、そして、リゼルでの特別編成で挑みます」
まさかの特別編性。
研修すっ飛ばして、本任務。
レイズとバージルは、速攻で最前線に送り込まれることとなった。
王レイラと、その右腕と一緒に。




