入団式
入団式当日。
騎士団の制服に袖を通したバージル。
白ベースの裾が長いコート。半袖と長袖を支給されたが、自分は半袖を着用した。
そして、下は黒パンツ。柔らかい素材だが、耐久性も兼ね備えている。
鏡でその姿を映し、身だしなみを整える。
「へへ。遂に入団だ」
多分、同じ時間にレイズもこれに袖を通したことだろう。
(……結局、別行動になっちまったな)
試験前に別行動になってから、本日までレイズと合流できていない。
この数日間、龍魂の教育ができておらず、かなり歯がゆかった。
合格したのだから、入団までに少しでもレベルを上げておきたかったのだが、それも叶わず。
個人で頑張ってくれていればいいのだが、慣れない土地で慣れない力を個人で練習させるのは望み過ぎか。
この数日、バージルは出歩く際もレイズの姿がないかと気にしていたが、この大都会で一人の人間と約束なしで会おうなど、無謀。
実際、会えずに終わっている。
さて、式典は騎士団の本部ではなく、レイグランズ城で行われると契約書に書いてあった。バージル含め、多くの団員は初めての場所だ。
地図などなくとも、上へ上へと歩いて行けば、自然と城に着く。それに、近付くにつれ、団員の姿も多くなっていく。ついて行けば、尚更安心だ。
そして、到着する。雇い主兼、王が住む場所のレイグランズ城。
「ここ、か……」
酷く壊れたと聞いていたが、修繕はほぼ終わっており、再出発のスタートは切れている様子だ。
会場に来て驚いた。
考えてみれば当然だが、入団するメンバー(同期)は、あの日会場にいた人間だけではなかった。
一定の期間で合格した者を集めているようで、バージルが見たことない面々もいた。
ざっと見て、合計で100名弱くらいか。ここから、各地の騎士団基地に移動することになる。
(フォリアは……どこだ?)
なぜかレイズよりも先に女の合格者のフォリアを探すが、見当たらない。
仮に見つけたとしても、声を掛けるほどの仲ではないが、もう一度しっかりと見ておきたかった。
同期の中でも、同じ班での合格者。勝手に縁を感じていた。
(ダメだ。多すぎて分かんねぇ)
人も集中し、すり抜けて探し回れる状況でもない。
早々に諦め、バージルは大人しく前を向く。
騎士団サイドは、騎士団長、支部長、レイグランズの市長などが来賓している。
もうじき、始まる。
「!」
式典が始まると同時に、クラッカーが鳴らされ、騎士団の吹奏楽が始まった。
過去の王が作曲したとされる曲で、力が湧いてくるような演奏だ。
袖を通したときも気持ちは高ぶったが、今この時間は更に気持ちが強い。
(いよいよ俺も騎士団員か……)
もちろん期待している。が、不安もある。
騎士団に入ったのは、真実を知るためだ。志半ばで死ぬこともあるかもしれない。
だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず。飛び込まなければ、何も得られない。
ただ、レイズの教育も「けじめ」としてなさなければ、レイズ母との約束がある。
そう言えば、同じ部隊か、近い部隊に配属されるのだろうか。
別の町となれば、かなり達成不可能になってしまうが……
そういう意味では、アーロン経由で試験を受けたのは良かったかもしれない。
彼に権限があるかは分からないが、近しい場所にしてくれるはずだ。
などと考えていると、演奏が終わった。
「~~~~~~~!!!」
大きな拍手で吹奏楽団が見送られた。
拍手が止んだ少し後に、一人の女性が入ってくる。
「ッ……!!」
その美しさに一瞬目を奪われた。会場が一気に静まり返る。
白い純白のドレス。丁寧に手入れされているであろう、美しいストレートの金髪
大きな目に瞳はブルー。肌にはシミ一つない。
姿を見たことがなくとも、説明されなくとも、分かる。
あれが、あのお方が、この国の王。
(レイラ……様)
コツ、と踵を鳴らしながら、中央のスピーチ台に立つ。
歳は自分と変わらないだろうに、威厳があった。
レイラは一人一人に目を向けながら、挨拶をする。
「……レイラ=シュフールです」
一呼吸置き、続ける。
「皆さん。騎士団合格。おめでとうございます」
透き通った美しい声だ。
変に偉ぶっておらず、位の高さが鼻につかない。
「この国は、今大変な時期にあります。人々からの信頼は落ち、各地で犯罪が急上昇しています。そして、あの日の影響か、魔物も強く、凶暴になっています」
あの日以来、エラー龍力者が一気に増えた。それと同時期に、魔物の狂暴度も上がっている。
人間サイドの変化を、魔物なりに肌で感じ取っているのかもしれない。
「……城の武器庫も破られ、王都は大混乱でした」
今は落ち着き始めているが、直後の混乱は酷かった。
城の武器庫にまで侵入を許すとは。国民の怒りの矛先は完全に『自分たち』に向いている。
また、エラー龍力者による犯罪も多発している。
あの日の被害者でも、龍魂を扱えない者は多い。ただ、その反面、問題なく扱える者もいる。
発現時に居場所を失い、龍魂を得る。攻撃できる力を得てしまったエラー龍力者は、次にどんな行動を取るか。想像したくもない。
「……事態収束。人々からの信頼を再び得るために、皆さんの力が必要です」
懇願するような声で、レイラは続ける。
「魔物から町を守り、意図せず龍を得てしまった方に寄り添い、ケアをする。そうして、この国は再出発するのです」
レイラは黙り、目を伏せる。沈黙が場を制した。
スピーチが終わり、下がるのかと思いきや、彼女は、全く動かない。
あれだけのスピーチをしたのだ。今更緊張している訳でもないと思うのだが。
「……?」
変に思った数人が、彼女の顔をまじまじと見つめる。
緊張と不安。それは少なからずあるだろう。
場数を踏んでいても、緊張はする。それに、この情勢だ。不安もある。
が、違う。喋ろうかと口を開いたかと思えば、ゆっくりと口を閉じる。これらの動作を、繰り返している。
「ッ……」
喉奥から漏れる声が、前列に居た者だけに届いただろう。
団員がソワソワし始めた時、覚悟ができたのか、彼女は声を届けた。
決意に満ちた声を。
「そして……あの日の真犯人を……私は、倒す」
自分たちに向けた歓迎の声ではない、王自身に向けた、使命を突きつける声。
「倒す」という言葉を選んだのも、そうとうな覚悟が伺える。
「あの日、爆発から生き残った方がいました。彼は、絞るような声で言いました」
レイラは正面を向き、声を張る。
「レイ、裏切った。と!!」
「!!」
バージルと合えずじまいだったが、無事今日を迎えていたレイズは、一瞬身が凍った。
(焦った~~……レイ……)
文字頭が同じなため、かなり驚いてしまった。
名前の一部が被ることなど、珍しくないが、ケースがケース。
俺は裏切り者ではないぞ。
「……私は当時、騎士団の遠征に参加していました。その日は王都への帰り道。爆発も、龍魂の様々な光も、この目で見ました」
「…………」
レイズは目を閉じる。
あの日まで、自分は平和に暮らしていた。この先も、このような生活が続くと思っていた。
「その彼は……傷跡が深く……亡くなりました」
つ、とレイラの頬に涙が光る。
レイと言う人物の裏切りを知らせた者の死と、レイラの涙に辺りはざわつく。
黒幕がいると報道されていたが、名前は伏せられていたためだ。
それもあり、架空の人物だ、と罵る者も多かった。当然だ。保身のための言い訳にしか聞こえない。
しかし、名前を伏せたのは、国を裏切れるだけの力を持つ者。
下手に刺激をして、向こうから仕掛けられたら、今度こそ国は終わる。
(……だから、伏せた……言われる覚悟で)
入団式で、彼らはその名を知った。
「絶対に、私は真犯人を見つけます。そして、倒します。この国をかき回した、真犯人を!!」
小さく息切れが聞こえる。
それだけ熱が入ったスピーチだということだ。
「そのために皆さん、力を貸してください。お願いします」
レイラは深々と頭を下げる。
「~~~~~~~!!!!」
場は沸きに沸いた。
レイラは微笑み、ゆっくりと場を後にした。
((レイラ……言い切ったな……))
レイズもバージルも、同じ感想だった。
この場で口にすることで、覚悟を見せたし、裏切り者の名前と言うカードも切った。
王としての覚悟と、父の責任を負う覚悟。それを、新人にも来賓者にも見せつけた。
(……レイ。お前も、俺の知りたい真実のピースなのか?)
知りたいことは、無限にある。
何にせよ、ここがスタートライン。真実を知る、物語の。




