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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
22/689

結果

「ん……」


バージルが目が覚めると、目の前には天井が見えた。


(え~と……?)


寝起きで頭が回るまでに時間を要しているが、これだけは分かる。見慣れない天井だ。

視線を下ろすと、布団が胸辺りまで掛かっているのが見える。

ここは、ベッドの上のようだ。


そうか。負けたのか。


(あ~……何か思い出したかも)


リゼルと戦ったことや、かなり強力な技を食らったことも。

そして、自分も強引な力の使い方をしたことも。


(……やっちまったか)


あの時の自分は、冷静ではなかった。

それなりに自信がある技をことごとく受けられてしまい、合格は絶望的。

それでもなんとか食らいつこうとし、普段なら退くところを、前に出た。


そのせいで、余計なダメージ&疲労を被ることになったのだ。


「いてて……」


痛みに耐えながら辺りを見回すが、誰もいない。

カーテンが半開きで、そこから穏やかな風が流れている。

オレンジ色の日も相まって、心地良い空間を演出していた。


「で、ここは……」


医務室だろうか。同じようにベッドが数台並んでいる。

先ほどまで人がいたのか、ベッド脇に椅子が置かれていた。


状況が何となく整理できた時、バージルは半ば呆れながら頭をかいた。

出てくるのは、どでかいため息。


「はぁ……リゼルのヤロォ、やりやがったな」


痛みはあるが、動けないほどではない。

体を見ても、大きな傷口はない。治療済みか、レプリカ故の結果か。


「足切りラインが高すぎやしねぇか?ったく……」


他の受験者も、同じようにリゼルと戦ったのだろうか。

だとしたら、試験は絶望的だ。

試験官なら、実力を見る程度の戦いにするはずだ。しかし、あの戦いは、マジのマジだったように思う。


得物こそレプリカだが、龍力が乗っかれば攻撃力は絶大。

龍力による防御アップ―龍力オーラの防御壁―が拙ければ、大ダメージを受けてしまう。自分のように。

ただ、他のベッドは空である。それはつまり、医務室に運ばれるレベルのダメージを食らったのが自分だけ?


(……マジか)


完全見た目と佇まいのイメージだが、あの部屋の中で目ぼしい龍力者はいなかったように思うが……


終わったことを考えていても仕方がない。

……待て。オレンジ色の日……ということは、今何時だ?


「夕方、か……何時間寝てたんだよ……?」


朝一で試験会場に行って、レイズと別れて……順番待ちしたとはいえ、昼飯は食えていない……

5時間以上は寝ていたのか。


ヨタヨタ歩きで、窓の外を見る。

シフトを終えた団員だろうか。帰路についている団員もチラホラ見える。

夕方は夕方でも、夜が目前の時間帯だ。


(負けて、気絶で、こんだけ寝て……久しぶりだな)


少しだけ感傷に浸っていると、後ろで声がした。


「起きたか」

「……あぁ?何だ、お前か」


振り向くと、騎士団の格好のままのリゼルが立っていた。

そして、その後ろにはアーロンも。表情はなぜか嬉しそうだ。


「よォ、昼間はひどくやられたな」


こっちは大ダメージを受けているのに、よくそんな面ができるな。


「アーロンさん……嬉しそうですね。(この状態)見えてます?」


バージルは、さっそく彼に抗議する。


「試験厳しすぎないですか?こいつが相手とか、無理でしょう」


班笑いを意識して喋ったが、笑えていただろうか。ちょっと自信ないな。


「あぁ……推薦状がアダになったかもな。そこは申し訳ねぇ」

「アダに……?」

「騎士からの推薦状ってことは、それなりに腕があるってことだ。だから、お前だけリゼルが相手をすることになったんだ。急遽、な……」


呼び出された僕の気分にもなれ、と言いたげに、リゼルは鼻を鳴らす。


「え……マジすか」


それで自分が最後に回され、時間もかかったのか、と理解する。


「他の受験者も、お前たちの戦いっぷりを見ていたぞ」

「え゛!?マジか……」


自分が最後だった理由が分かった気がした。

受験者の試験が終わり、試験内容が分かったところで、「本当の」戦いを見せる。

合格ラインに届いていても、実際に待ち受けるのは、あのレベルの戦い。

それを見て、自分の思い描く団員像とのギャップはあるのか。そこで退くか、進むかも受験者次第。


「性格悪いな。上も」

「気を落とすな。いい勝負だったぞ。まぁ、コイツは力を抑えられていたが」

「……?」


力を抑えられる。それの意味が分からず、リゼルを見る。


「……封龍鎖。龍の力を抑える鎖だ。龍力を抑えたり、出せなくしたりする」

「あの時の、か……」


特殊合金。封龍鎖。

ミナーリンで、レイズが付けられていたもののことか。


「配合によって、力の封じ具合が変わる。騎士団は何種類か持っているからな。一応のハンデだ」

「……なるほどな」


封龍鎖には、そんな器用なこともできるのか。名前のニュアンス的に、完全に龍力を封じる道具かと思ったが。


(って、ハンデありであのレベルかよ!?)


そこで、バージルはリゼルを見る。力を抑えられていて、あの規模の龍力を扱えるのか。

どの程度抑えられていたかは分からないが、彼の凄さの片鱗を見た気がした。

実際、位は高そうだし、当然か。


「負けたし……俺は、不合格か?」

「いや、合格だ。面接も免除。まぁ、ミナーリンのアレが面接替わりみたいなモンだ。他にも合格者はいたが、お前たちの戦いを見て、気が変わったみたいだな」


気が変わったということは、つまり、辞退したという意味になる。


「マジか?もったいない気もするけど」

「……鍛え直すそうだ。そんなことは騎士団に入ってからでもできるだろうに……ま、それだけあの戦いで価値観が変わったんだろ」

「……僕はこれで失礼する」


会話の途中だが、リゼルは部屋を出ていく。

大移動に戦闘にで疲れたのだろう。アーロンは微笑みながら見送る。


「さて、戦いを見ても気が変わらなかったのは、たった一人だ」


バージルは、無意識に頭の中で受験者を思い出す。


「フォリアっていう女だ。年も近い。良かったな」

「女ぁ!?てか、何で『良かった』って……」


最も意外だった。良かったな、の意味は不明だが、アーロンは嬉しそうだ。


あの紅一点は、フォリアという名前だったか。銀髪の女性。

悪戯が好きそうなクール系……緊張しているのか、つまらなそうにしているのか分からない、そんな顔で座っていた気がする。

外見で決めるのはアレだが、一番落ちそうな印象だった。


「で、だ。レイズも合格しているから、安心しろ。数日後に入団式だ」

「!!」


良かった。ここまで来て、片方だけ不合格だったら、笑えない話だ。

別れた先で何があったかは聞かせてくれなかったが、ひとまず安心。


と、丁度若い団員が入ってきた。


「失礼します。アーロンさん」

「お、サンキュな」


団員から何か受け取るアーロン。それを、そのままパスしてきた。


「……悪いが、お前さんが目覚めるか分からなくて、宿を取ってなかったんだ。急遽手配はしたが、レイズとは別の宿になっちまった」


そうか。自分の意識が戻らない限り、宿の手配ができない。

どんな日だったか共有はできなさそうだな。

でも、アーロンが手配した宿か……


「あ、ありがとうございます」

「……ホテルのランクは期待するなよ」


表情から気持ちを読み取られたか、アーロンは釘を刺しに来た。


「分かってますよ。アレは特殊だって」

「あぁ。詳しい日程は親展で行くはずだ。活躍してくれよな。じゃ、俺は帰るぜ。久しぶりに、いい出張だった」

「色々、ありがとうございました」


お辞儀をし、アーロンを見送るバージル。

また、一人になった。ここの管理者に挨拶的なのは必要ないのか?

それを把握する意味でも、もう少しだけ休んでから動くか。


(よし……また関門突破だ)


バージルの目的が、一つずつ達成されていくのだった。

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