―絶望の中でも―
ハーゼイ、ウィーンチームと、フリアとの戦いは続いている。
二人で攻めても、フリアは涼しい顔で攻撃を受けたり、かわしたりしている。
逆に、フリアの攻撃はきつかった。一発一発が、本当に重い。
四聖龍の名を持つ熟練者でも、彼の攻撃を受ける度に上肢が痺れ、全身の骨に衝撃が響いた。
フル・ドラゴン・ソウルを極めたと自負している二人だが、そんな彼らの龍力をフリアは軽々と上回っている。
まだフル・ドラゴン・ソウルとしての深みがあるのか、それとも……
そんな中、二人はある気配に気づく。
「ウィーンの、気づいてるか?」
「あぁ。『一人』増えてる」
ハーゼイとウィーンはフリアを意識しつつ、目線をずらす。
当然、誰が来ているのは、フリアも気づいている。彼らが視線をずらしたのに合わせ、口を開いた。
「……なんだ、来たのか。スゼイ」
道の脇から現れたのは、長い髪をもつ金髪の男。
胸に包帯が巻かれ、裾が長い白いコートを直に着ている。暑いのか寒いのか分からない格好だ。
(こやつ、資料にあった……)
こんな姿の敵が、資料にあった気がする。確か、雷龍使いだったはず。
戦う前から、殺意ビンビンだ。
「あぁ。強そうなのがいるじゃねぇか」
その男は、ハーゼイとウィーンを品定めするように見ている。
彼は戦う気満々の様子だが、フリアはどこかしらけている。
「……持ち場は違うはずだが?」
「暇なんでな。目的が果たせりゃいいだろ」
どうやら、彼が配置された場所には強敵(四聖龍)が来なかった様子。
よって、戦いの匂いを感じてやってきたのか。
「……へいへいっと」
フリアは呆れた顔をする。ここで追い返すのは不可能っぽい。この戦闘狂め。
四聖龍の二人は並び、小声で話す始める。
「……資料に会った雷龍使いだな」
「じゃの。しかし、厳しいのぅ」
フリア一人ですら手こずっているのに、ヤバそうなのがもう一人増えてしまった。
「……シャレムも手が離せそうにないな」
先ほどまでいたスペースで、光龍同士が激突している。
感じる龍力から察するに、彼女よりも、強い。
「ワシらが最後の砦じゃ。負けるわけにはいかん」
「……分かっている」
「じゃが、分が悪いのは確か……」
『分が悪い』とハーゼイは表現したが、現実はもっと深刻だ。
それはウィーンも分かっているため、何も言えなくなる。
「…………」
「お前さんは、どうする?」
「ちぃ……」
分からない。
数々の戦闘を勝ち抜き、四聖龍の立場を手に入れたウィーンだが、今回ばかりはお手上げだった。
こんな敵がゴロゴロいるなんて。
(鍛錬を怠らなければ……)
四聖龍の立場を得て、調子に乗っていた部分は多少ある。
それに、四聖龍になってしまえば、前線から一気に離れてしまう。騎士団からの依頼でもない限り、強敵とは戦えない。
自分は、井の中の蛙だったようだ。
仮に鍛錬を続けていたとして、彼らの強さに並べていたのだろうか。圧倒的強さに、自分がそのレベルにいるビジョンが見えない。
「じじい。俺は……」
「……勝ち目はないと考えておるな」
「……あぁ。それは、お前もだろ」
「ふぉふぉ、否定はしない」
「どうする気だ……?」
敵に勝てない。しかし、敵の『目的』を潰すことは容易だ。
ハーゼイは声のトーンを落とす。
「イ……す」
正直聞き取れなかったが、何となく察しはついた。
ウィーンが何か言おうとした瞬間、フリアと金髪の男の龍力が跳ね上がった。
「!」
蒼白い稲妻が周囲を駆ける。
あの戦闘狂、やはり強い。
「……あと、コレを渡しておこう」
「んだ?これは……」
敵の龍力が跳ね上がっているにもかかわらず、呑気に何かを渡してくる。
それは、小さな土色のクリスタルだった。宝石店で安く売っていそうなもので、今渡される理由がさっぱり分からない代物だ。
「持っていてくれ。それだけじゃ」
「は……?」
ウィーンは何か言いかけたが、本当にタイムアップだ。
二人が襲い掛かってくる。
「作戦会議終わり!やろうぜ!!」
「オレとも遊んでくれるだろ!?」
二人は構える。
「来るぞッ!」
「あぁ!」
開戦と同時に、ハーゼイは杖を掲げ、土龍の紋章を空に描いた。
「ストーンエッジ!!」
だが、それはあまりにも小さな龍力。
フリアたちは、難なく避けていく。
「おいおい、しょぼすぎるだろ!?」
「なめんなよ!」
二人は真っ直ぐ突っ込んでくる。
屁の突っ張りにもならない龍力だったが、これでいい。
「……ワシらはワシらの仕事をしよう」
「あぁ……」
ハーゼイとウィーンは覚悟を決める。
後は、自分の四聖龍としての役割を遂行するだけだ。