―フリア戦―
場所は変わり、ハーゼイ、ウィーンサイド。
黒髪ロングの男と対峙している二人。
話の流れから、彼はイングヴァーを連れ去ることよりも、自分たちと戦うことを優先した模様。
したがって、戦う気満々だ。
彼からは、まだそこまで強大な龍力は感じられない。力は未知数。
こちらは二人。勝ってみせる。
二人は同時に武器を構える。
ウィーンは二本の短剣。紅の装飾が美しく光っている。
ハーゼイは杖と剣の融合。
「ウィーン!!」
「あぁ!」
ウィーンは炎龍の力を纏い、フリアに向かって飛び出した。
その後方で、ハーゼイは龍術の詠唱を始める。土龍の紋章が描かれ、土の力が充実していく。
彼らが纏う力で、じじいが土、突っ込んでくるのが炎というのが分かった。
黒髪をなびかせ、右手で刀を回すフリア。
「へへ、遊ぼうぜっ!!」
龍力を高め、ウィーンと真正面からぶつかる。
先程の静かな龍力からは、想像できない程に恐ろしい力だ。
冷たく、鋭く、そして強い。
(月光と聞いておったが……凄まじいの)
資料のデータから、敵が月光龍だということは知っていた。
だが、実際の力量までは載っておらず、未知な部分があった。
こうして自分の目で見ると、直に分かる。騎士団では、手に負えない。
「はぁッ!!」
ウィーンは回転しながら、踊るように斬りつけていく。
龍が空を翔けながら、爪や牙で切り裂いていくかのような連撃だ。
彼の強みは、圧倒的手数。威力のなさを手数で補うのではなく、当然、一発一発の威力も高い。
しかし、フリアは彼の連撃を器用に弾いていく。
(初見で全て見切るか。なるほどのぉ……)
自分でも、ウィーンの連撃を見切る自信はあるが、受けきれるかは別問題。
戦闘センスも抜群。敵なのが、本当に惜しい。
そうしている間に、ハーゼイの龍力が溜まる。
即座に、フリアの足元に土龍の紋章を描く。スキなど与えてなるものか。
「グランドフォース!!」
フリアは足元の紋章を見回し、呟く。
「……でけぇな」
「逃がすか!」
逃げ道を作らない。ウィーンは頭上から襲い掛かる。
だが、フリアはウィーンを見ていない。次の瞬間、彼は地面に刀を突き刺した。
「は!?」
向かってくる龍術に対し、防御せず相殺させに来るとは。力を見誤れば、自殺行為に等しい。
それでも、自分のすることは変わらない。少々心を乱されたものの、ウィーンは龍力をぶち込む。
「煉獄龍斬!!」
フリアの首をかき切る直前。
「……月光龍陣!」
ハーゼイの紋章とほぼ同じ大きさの紋章が描かれた。
それは、彼を守るかのようなエフェクトを見せる。しかし、龍力による牙は向けられている。
防御技かと思ったが、しっかりと攻撃技だった。
土、炎、そして月。
龍力がぶつかり、爆発を起こした。
「!!」
ハーゼイとウィーンは味方だと認識しているため、龍術や技に干渉しない。
そのため、二人分の龍力がフリアに襲い掛かる。それでも、彼の『陣』が負けずに爆発が起こったということは、限りなく力が拮抗していたことになる。
だから、そこで龍力維持ができなくなり、同時に爆発したのだ。
四聖龍クラスの龍力者であれば、爆発ダメージも知れている。
爆発から距離があったハーゼイは、爆風から顔を庇いながらフリア達がいた方を見ていた。
(何という……!!)
無謀だ。普通なら、どちらかを捨て、ダメージ覚悟で受ける。
刃か龍術か。どちらかは受けてしまうが、その方が現実的だ。力のバランスが崩れば、無意味にダメージを受けることになるし、エネルギーの無駄遣いに終わることにもなる。
土気色の煙が立ち昇る。ウィーンが、その合間から出てきた。
「クソ……」
あの様子だと、フリアも健在。
龍力爆発直後で力が読みにくいが、煙の中から龍力を感じる。
心なしか、先程よりも力が充実している。
二対一で、この戦い。
実力差は、圧倒的だった。
戦闘は始まったばかりとはいえ、龍力爆破のイメージは強く残る。
二人の龍力を足しても、フリアの龍力で止められ、破壊される。精神的ダメージは計り知れない。
(悪夢じゃな。じゃが……)
(じーさん。諦めんのか?)
だが、二人の目は死んでいない。
互いが互いを見て、口角を上げる。どうやら、まだお互い諦めていないらしい。
これほどの使い手が、なぜ四聖龍の座に就いていないのか。今まで、どこで身を潜めていたのか。
自分たちは、こいつ『等』に勝てるのか。
考え出すとキリがないが、そんなのは後だ。
こいつを半殺しにして、問いただせばいい。
二人は龍力を込め直し、戦いに臨むのだった。